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裁きの炎を受けよ

すみません、遅くなりました!

サボってた訳じゃないんですが、ちょっと上手く時間が作れなくて。完結までもう少し、多少忙しくとも頑張ります!

 神って、テロスのことか? こっちの世界には神っていう概念はないけど、エジプトの人だもんな。さすがにこの流れで太陽神ラーのことだ、とかは言わないだろう。

 だけどテロスがこんな命令を出すとは思えない。アイツの性格なら一気に叩きつぶそうなんて考えない。攻めなければ滅ぼされる、けど勝てる気がしない。そんな風に苦悩している俺達を想像して、塔の頂上でほくそ笑んでいそうだ。せっかく苦しんでいるのに、とどめを刺して終わらせてあげるほど、あいつは優しくはない。


 ということは、これはマハムッドの独断だな。いよいよもってありがたい。なにせ、塔のうまい攻略方法が見つからずに攻めあぐねていた所に、魔力を分け与えて弱体化した敵の将が1人でのこのこ出てきてくれたんだからな。

 おまけにユリウスの手駒になってくれそうな餓獣てみやげまで持ってきてくれてるときたもんだ。


「さあ行くがいい、神の獣よ! 蹂躙せよ!!」


 餓獣達が心底面倒くさそうに動き出す。まるで支配しきれていない。まあ、ただでさえ琴音から強奪しただけの不適応な力だ。さらにその片鱗程度じゃ、こんなものか。

 どうしよう。本当に御礼を言った方がいいかもしれない。俺と同じ考えで敵の戦力になっていた餓獣達。それをわざわざオルシエラ軍から引き離して、各個撃破させてくれるなんて。もうあの人、実は味方なんじゃないだろうか。


「無能な味方は敵よりも怖えーって言うけどよぉ、こりゃヒデェな」


 もし自分の部下だったらと想像したのか、ケイツの顔が引きつっていた。賢そうなファラオ顔なのに、アホなんだな。おかげで助かったけど。


「サバ子、ユリウスに俺の血を与えてやってくれ。せっかく餓獣を連れてきてくれたんだ。ちゃんと受け取ってあげないとな」


 剣を抜き、手首を軽く切る。すると面白いように血が吹き出した。そして痛い。やっぱりアドレナリンは大事だ。


「おっととと、ちょっと零れたのじゃ。勿体無いのう。さっきまであれほど渋っておったくせに、盛大にやりおって」

「どうせ痛いのなら、一回で済んだほうがいい」


 あんな極太の針で刺すなんて、刃物の切っ先をブッ刺すのと大差ない。一回だけなら我慢しようという気にもなれる。お、血が収まってきた。リストカットなんて自殺の代名詞、もっと出るかと思ったけど想像より少なかったな。ああ、そういえば切った手首を水に浸けておくんだっけ? まあ、これだけあれば足りるだろ。


「なーまーたーまーごー」


 手首に卵をぶつけられて。正確にはぶつけてくれたんだけど、見た目のせいでどうしても「やりやがったな」って気分になってしまう。

 とはいえ智世のEXアーツ「生の卵ヴィ・シゴーニュ」のおかげで手首の傷はみるみるふさがった。もうどこに傷があったのは判別できないくらいだ。本当にありがたい。これがなければ、あの注射器の拷問に耐えるしかなかった。


「おい、婆さん。オレにも頼むぜ。前哨戦だ。パワーアップした炎で、炎のオリジンと戦ってみてぇ」


 自分の原点ともいえる金色のオリジンの出現に興奮してるのか? けどケイツの希望は叶えてあげられない。


「悪いけど、あいつは俺が仕留める。あんまり時間もかけられないからな」


 炎と炎の対決は俺も興味がある。普通に考えればオリジンの圧勝だろうけど、ケイツは炎と炎の二重属性だ。その純度はオリジンをも上回る。が、しかし、さすがに早すぎる。いきなり魔力が増大して、いきなり強敵と戦うなんていうのは蛮勇がすぎるというものだ。ケイツなら案外すぐに慣れて使いこなすかもしれないけど、その間も餓獣達は暴れ続けるんだ。いくらユリウスがパワーアップしても、先に操られているものを強奪は難しいはずだ。


 ということで、マハムッドとケイツの息を飲むようなギリギリの戦い、なんてものをのんびり見ている時間はないのだ。そもそも、せっかくの各個撃破のチャンスに互角の戦力を出して、敗北や相討ちなんてことになったらマヌケすぎる。


「ちっ、しゃーねーな」


 ケイツなら気付いていそうなものだけど、それだけ興奮してたのか。炎のオリジンだから、というのもあるだろうけど、届かないかもしれないと一度は思った復讐テロスへの一歩でもあるからな。


「吠えるのは力を得てからじゃよ。ほれ、こっち来んか」


 リリアがケイツとユリウスをつれて砦の中へと入っていった。


「しまった! ボクの護衛がいなくなる!! ……ボ、ボクも中にいようかな? この程度の敵、この鮮血のオリジンが出るまでもない」

「どっちでもいいぞー」

「そっけないね。ボクの命がかかってるっていうのに」


 っていわれても、危険度はどっちでも大して変わらないからな。リリア達の近くにいても、テロスが乗り込んでくれば防ぎようがないし、かといって俺はこれから金色のオリジンと戦うし。

 ただ、どうしてもどっちか選べというのなら、多分俺の近くの方が安全かな?


「大丈夫。すぐに済む」


 ジルが俺の中に入り込む。同時に体に満ちる万能感。

 魔導兵装CODEコードDeepBlueディープブルー。「世界」を身にまとい、俺はマハムッドの前に降り立った。


「お前、あの時にいたな。神が言っていた……堕ちた神」

「そんな酷い紹介してるのか? あいつ」


 別になんて言われてても構わないけどさ。でもそれを聞いていながら単騎で独走してくるとは、このファラオ……本当にアホなんだな。


「裁きの炎を受けよ」


 マハムッドから炎が噴き出した。一瞬にして蜃気楼が起こり、風景が歪む。草原が焼け野原になり、その地面すら焼かれて砂となり、やがて溶けていく。


 さすがオリジン、とんでもない熱量だ。


「だけどそれも、ジルの力の残滓に過ぎないんだよな」


 魔法とは、ジルから漏れ出した創世の力が宿ったものだ。確かに凄まじい、聖霊の力に相応しい威力だ。だが、それがどうした。所詮はジルから生まれたもの。ジルが分け与えた形になっているもの。であるならば剥奪する権利さえ、ジルのものだ。

 世界の法則、原理、根源は、全てジルへと帰還する。


 それすなわち、「理を喰らう鳥ルールイーター」。


「喰らえ、ジル」


 神から貰った力で神に挑む。その無謀さを、自分自身の死を持って思い知れ。




 パクリ、と一飲み。呆気ないもんだ。いくら伝説のオリジンといえども、単独で来ればこんなものか。ましてや魔力をオルシエラ軍に分け与えていて、いくらか弱体化している状態じゃあな。


 とはいえ多少の違和感は禁じ得ない。あのテロスが……1200年もの間、俺への復讐計画を練り続けていたテロスが、こんな馬鹿馬鹿しい暴走を許すだろうか?

 いや、オリジンはもちろん、これだけの数の餓獣も向こうにとっても無下には扱えない戦力のはずだ。ユリウスを強化して奪い取られるとまでは予想できないにしても、むざむざ各個撃破の捨て石にするとも思えない。……やれやれ、少し疑心暗鬼になってるのかもしれないな。


「ふおおお! さすが悠斗、瞬殺!!」

「気を抜くなよ。まだ餓獣はそのままなんだから」


 空を飛んでいる奴だっているんだ。油断してると上からパクリと逝かれかねない。どこぞのファラオみたくな。


「気なんか抜いてない。ほら、こうして怪我人の治療に勤しんでるじゃないの。へい、生卵ー!」


 フォール城砦都市は、砦ではあるけど都市でもある。当然民間人もして、どうやら餓獣に襲われたらしく、どこにでも居そうな容姿の娘さんが肩から少しだけ血を流して泣いていた。餓獣のほとんどは城壁で食い止めているとはいえ、飛び越えられるとどうしようもないからな。

 智世がすぐさま駆け寄り、治療のためにEXアーツを投げつける。と言っても肩も貧弱ならコントロールも無いから、投げるというよりは近づいて叩き付けている感じだけど。


 傷を治してもらった少女が智世に近づき、お礼を言った。


「ありがとう、メル姉さん」

「……え?」


 ニヤリ、と三日月のように少女の口が歪む。まずいと気づいた時には、もう遅かった。


「悠……」


 智世が助けを求めるように、俺を見る。それに応じるべく、届かないと分かっていて伸ばした手の先で……智世は虚空へと飲み込まれていった。

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