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教えてくれ

 重苦しい空気が場を支配していた。

 這う這うの体で城砦都市に帰還した俺達は、兵に休息を命じてすぐさま会議室へと集まった。だけどそこでいざ話し合おうとすると、どうにも言葉が出てこない。


「…………」


 話し合うために戦場の光景を思い出し、口をつぐむ。その繰り返した。


「ど……」


 やがて言葉を選ぶように、ゆっくりとケイツが口を開いた。


「どうにもならねぇ。あんなもんに守られた町、近づくこともできねぇよ」

「それでも、行かねばならんから話し合おうというのじゃろう」

「話し合ってどうにかなんのか!? 婆さんも見ただろうが! セレフォルンとガルディアスの連合軍が……世界の過半数の兵力が、ゴミのように吹き飛ばされやがった!!」

「わかっておるわ!! それでもなお、なんとかして行かねばならんのじゃ!!!」


 リリアに叱咤されたケイツだったが、頭を抱えて黙ってしまった。この中の誰よりも戦場を駆けまわった男だからこそ、わかることがあるんだろう。力を合わせても、知恵を集めても、それでもどうしようもない根本的な問題が。


 だけどリリアの言う通り、それでも諦めることはできない。


「ボクに考えがある」

「……言ってみ」


 ひらめいた、という様子の智世だったが、もちろん誰一人期待していない。俺も、この緊迫した空気がどうにかなればという期待しかしていない。


「悠斗がオル様に乗って、びゅーんと塔まで飛んでいく」

「はい、却下。さすがにあの集中砲火は耐えられないよ」

「うぐ……」


 というかそんな短絡的なアイデア、一瞬だりとも考えたことがないと思ったのか? そもそも智世は走って塔に向かう気でいたみたいだけど、最初から移動はオル君に乗る予定だった。そうでなければいくら敵の気を引いてもらっても、あの軍勢をスルーして塔に行くなんて不可能だからな。

 そしてその方法は、例え囮を使って軍勢を引きつけたとしても不可能だと判明している。


「トモヨちゃんよ、あの場にオリジンはいたかい?」

「……はて?」

「いなかったぜ。つまりオリジン達は全員、塔の中にいるってこった。最初の予定じゃあオリジン達がオルシエラ軍を指揮してるって計算してたんだが、そうじゃなかった。つまり何万人囮にしてオルシエラ軍を引きつけても、まだ後ろにオリジンが丸ごと残ってるってこった」


 ケイツの言う通り、オルシエラ軍を引きつけてその隙に塔へと侵入すること自体は不可能じゃない。さっきの戦いでも、オルシエラ軍はある程度までは連合軍を追ってきていた。つまり町から引き離すことはできるということだ。

 だけどオリジンが軍勢の中に加わっていない。大多数の兵士を囮にして塔に入れても、そこからさらにオリジン10人をどうにかして突破する必要があるのだ。ケイツが頭を抱えているのは、どう足掻いてもそこから先へと進むビジョンが見えないからだろう。


「それによ。オルシエラ軍全軍で追ってきてくれりゃいいが、敵もそこまでバカじゃねーわな。竜騎士のように理性を保った将がいるなら、当然いくらかの兵は手元に残す。それが数万だろうと、数百だろうと、オレ達にゃあ突破できねー。それだけの戦力差だ」

「そうか、リゼットがいたな」


 なら、全軍で追ってきてくれるのを期待するのは楽天的すぎる、か。塔に入ってからのことも考えると、やっぱりオルシエラ軍と互角に戦える程度には戦力の底上げが必須。

 それができるなら、この世界はここまで苦労することもなかったか。テロスじゃあるまいし、そんなに簡単に魔法が強くなるわけがない。


「ユート。あの話が本当なら、おめーも聖霊の生まれかわりだろ? テロスみてぇに魔力を分けたりできねーのかよ?」

「できるならやってる。それに、さすがに何十万なんて人数にわけるほどの魔力は無いよ」

「……そうだな。すまねぇ」


 第一、テロスが魔力を他人に与えられるのはヤツの魔力が「無色」だからだ。俺の魔力は「蒼」。そしてオリジンである以上、同じ色の魔法士は未来にでも行かなきゃ存在しない--ああ、そういうことか。


「いくらテロスでもあの人数に魔力を与えるのはおかしいと思ったけど、オリジン達が協力してたのか。無色の魔力なら分け与えられるっていうのなら、やり方さえわかれば同色の魔力を分け与えられてもおかしくない」


 つまり強化属性の魔法士なら、強化のオリジンであるアランから力を分けてもらえるってことだ。とはいえ1200年の間に誰も気づかなかったということは、それなりに特殊なやり方なんだろうけど。


「そのやり方さえ分かればな。俺の魔力は「蒼」だけど、その性質は「世界」で変幻自在だ。もしかしたら分けることも不可能じゃないのかもしれない」


 テロスのように、ポンッと与えるのは無理だ。それは「無色」の特権だろう。だけど他のオリジン達が魔力を与えた、その方法はきっとあるはずだ。そうでなければ、あの強化されたオルシエラ軍の人数はありえない。


「ジル」


 呼びかけると、スッと目の前に顕現した青い小鳥。俺のEXアーツであり、創世の鳥と呼ばれた聖霊。ジルはきっと聖霊のころの記憶を持っている。そのことはこれまでのことからも予想できた。ただし、「ピィ

」としか喋れないが。


「教えてくれ。何か知ってるんだろう?」


 言葉を交わせればどんなに楽か。俺達は別々に存在しているように見えるけど、同じ存在だ。だってEXアーツとは術者の魂に依存する、もう一つの自分なのだから。だけど今まで、俺の気持ちが伝わることはあっても、ジルの気持ちが俺に伝わって来ることは一度も無かった。

 それでも、まったく分からない訳じゃない。ほんのかすかに伝わって来る思いは……迷い。


「そうか。お前も苦しんでるんだな。テロスを生んで、あんな風に追い詰めたことを」


 テロスの行動理念は、使命と復讐だ。

 生みの親であるジルに与えられた「時が来れば世界を終わらせる」という使命を果たしたいという願い。そしてそんな、いつになれば「時」がくるのか分からないような使命だけを与えて自分を置き去りにしたジルへの恨み、復讐。

 あるいはテロスの願いを叶えてやることが、父親としてできる最後のことかと、そう思っているのかもしれない。


「でもそれは、ただの親子喧嘩だ。その親子が例え神だとしても、そこに無関係な命を巻き込むのは間違っている。そうだろ?」


 復讐として俺1人に死ねというのなら、一考することもあっただろう。だけどあいつは全てを巻き込んだ。であるならば俺はテロスを止める義務がある。そしてそれはジルも同じことだ。


「ピィ……」


 迷いを振り切るように翼を羽ばたかせ、ジルが飛び上がった。そして真っ直ぐに……ロンメルトに向かっていき、その肩にとまった。


「む?」

「王様……がヒントなのか?」


 魔力を他人に与える。そのヒントをロンメルトが握っているのか。だけど関係があるのか? だってロンメルトは魔力を持たないノーナンバーだ。だからこそ強くなるために剣の腕を死にもの狂いで磨き上げ、それに協力すべく彼の養父であるマクリル先生は、彼に力を与えようと必死に--


「あ……あ……」


 そういう、ことなのか? ジルを見れば、わずかに首肯したように見えた。


「どういうことじゃ? ワシらにも分かるように言わんか」

「いや。余にも心当たりはないのだが?」


 心当たりが無い? そんなはずはない。だってあの研究は、ロンメルトのために行われていたものなのだから。


「マクリル先生の研究だ……。ロンメルトに力を与えるために先生が研究していた。餓獣の血を人間に注入することで、その餓獣の力を手に入れる研究」

「ああああああ!! そ、それ!? そういうこと!!?」


 智世も気づいたようだな。少し遅れてロンメルトも気づいたのか、目を丸くしていた。


「だ、だがあれは餓獣の話であろう?」

「テロスが言ってただろ。餓獣とオリジンの誕生した原因は同じ……聖霊の力の影響だ。動物に宿った結果が餓獣。人間に宿った結果がオリジン。その根本は全く同じなんだ」


 マクリル先生も言っていた。力の根源は、血に宿っていると。そしてマクリル先生は見事、海王フォカロルマーレの力を手に入れてみせた。もっともその後、フォカロルマーレの怨念の取り込まれてしまったけど、それは死者の血を流しこんだからだろう。俺は死んでないし、他人を乗っ取ろうとも思わない。


「ケイツ、ここは頼む。俺は王様と一緒にガルディアスに飛ぶ」

「お、おお。頼むぜ。上手くいけば……まだ希望はある」

「ふははは! 研究資料を探すのであるな!? ならば余が、王の命令として探させようではないか!」


 あの研究はガルディアス帝国が戦争の際にも流用していたから、資料は持ち出されて今は帝都にあるはずだ。ロンメルトが一言言えばすぐに手に入る。


「行こう、王様」

「うむ。父の研究で世界が救われようとはな。さすがは余の父上である! ふははははははは!!」

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