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宣戦布告を行いました!

「それで、どこに行けば良いのであろうか?」


 セレフォルンの王城、俺に割り振られた部屋に無事到着して最初の言葉はロンメルトのそれだった。

 周囲の人の気配は無い。アンナさんがテロスの変化だったことから、俺達がいない間に城を乗っ取ってやしないかという不安が多少なりあったのだけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。もしそうだったなら、ここでセレフォルン兵を配置して襲わせない訳が無い。だってそれをすれば、俺達は間違いなく精神的にダメージを受ける。そんなチャンスをあいつが逃すとは思えないから、単純にできなかったんだろう。


「決まってる」


 これなら気兼ねなくテロスを追いかけられそうだ。あいつの行き先なら、あそこ以外に有り得ない。


「迷宮都市シンアル。創世の鳥ですら、世界を創るのに「原初の塔」っていう特別な場が必要だったんだ。その分身に過ぎないテロスが、場所を選ばずに世界の消滅なんて大それた真似をできるものか」

「かかか、道理じゃな。ならばセレフォルン、ガルディアス両国の全軍を向かわせるかの? なにせ相手は伝説のオリジンに、神話の聖霊じゃ。手段など選んでおられまい。幸いにも、ここには両国の王がおるのじゃからのう」


 なるほど、質で勝てないなら量で攻めるってか。とてつもない犠牲が出るだろうけど、世界が消えるって時だ。そんなことも言っていられない、か。


「どちらにせよ、軍備を整えるは必須であろう。行くぞ女王よ。王の役目を果たす時であるぞ!」

「うん!」


 殺し合いの準備だというのに、アルスティナは迷うことなく頷いた。必要なことだと理解しているのか、あるいは彼女もまた、琴音の仇をと意気込んでいるのか。

 いや、馬鹿な考えだったな。憤りはもちろんあるだろう。だけどアルスティナは戦争の中で王として成長した。そんな個人の感情で兵士に死を要求なんてする訳がない。


「まずはケイツと合流しよう。あいつ抜きで軍の動かし方なんて決められない。ユリウスの餓獣に乗って移動してるなら、俺達より先に戻ってきてるはずだ」


 そしてドアを開けようとした時、反対側から体当たりするようにドアを開き、一人の兵士が部屋の中へと飛び込んで来た。

 ひどく慌ててるな。一瞬テロスの手先かとも思ったけど、そんな感じではなさそうだ。


「オ、オリジン・ユート! よかった、お戻りでしたか!!」

「なにかあったの?」


 俺の部屋に来たのは、俺に用があったからだろう。だからアルスティナの存在にまで意識が行かなかったのか、ロンメルトやリリア、智世が揃っていることに気づいて慌てて敬礼した。


「はっ! 失礼いたしました! ご帰還間もなく申し訳ございませんが、報告をいたします!」


 敬礼を崩さないまま姿勢を正し、兵士は改めてアルスティナに向かって口を開いた。



「オルシエラ共和国が突如、迷宮都市シンアルを襲撃! 町を占拠し、そのままセレフォルン王国、ガルディアス帝国双方に宣戦布告を行いました!!」



 はぁ!? なんでよりにもよって、このタイミングで!!

 それにどういうつもりだ? オルシエラは3国の中で一番規模の小さい国だ。いくら戦後で疲弊しているとはいえ、大国2つを同時に敵に回すなんて自殺と大差無いぞ。


 だけどみんなは俺とは違う部分に驚いたようだ。


「迷宮都市を、シンアルを攻めたじゃとっ!!?」

「それも、オルシエラがであるか!! ありえん!」


 リリアとロンメルトは、オルシエラがいきなり戦争を吹っかけて来たことよりも、シンアルが攻撃されたことに疑問を抱いたらしい。アルスティナも声には出していないけど、同意を示している。


「迷宮都市が襲われること、そんなに変?」


 俺と同じく疑問に思った智世が質問した。答えたのはリリアだ。


「あそこは特別な場所じゃ。人類が滅びを覚悟し、そしてオリジンに救われた滅びと再生の町……聖地じゃ。じゃから3国が自由に出入りでき、しかし侵略だけは絶対にせなんだ。1200年の間、どんな愚王も暴君も、一度たりともじゃ」


 ああ、そういえばそんな話を聞いたことがあったような……なかったような。

 つまりこの世界の人々にとっては、魔法文化の……現代の人類発祥の地というわけだ。全人類が神聖視していた場所を、オルシエラは戦火に呑み込み、血で汚した。それは、驚いて当然か。


 だけどオルシエラはなんで突然そんな暴挙を? あのリゼットが忠誠を誓っている国だ。そんな愚かな真似をするとは思えないんだけど。いや、待てよ? ああ、そうか……。


「オルシエラは、少し前までテロスがいた国だったな」


 みんながハッとなった。

 人を喰らい、人に化け、人を操る。そんな怪物が棲家としていたんだ。その上層部がヤツに乗っ取られていないと、どうして言える。



「となると、シンアルを占拠した理由も見えてくるというものじゃな」

「俺達を迎え撃つため。そして儀式を邪魔させないため、か」


 だとすれば、結局答えは同じだな。予定通り、集められる全勢力を結集して戦うのみ。むしろ指標がはっきりしてわかりやすくなった。

 目標は迷宮都市シンアル。敵はオルシエラ共和国。そしてその後ろに待ち構えているのは、最初のオリジン10人と「無」の聖霊テロス。


 リゼットは、無事だろうか。もし彼女まで操られていたら、俺は戦えるのか? その上、琴音の時と同じように


「女王よ、余はガルディアスに戻る。国政の不安定な時であるが、そうも言っておれまい。早急に軍をまとめ、合流させよう。指揮権はケイツ元帥に移譲する」

「うん。先に行ってるね」


 実際にはアルスティナは行かないけどな。アンナさんがいなくなった今、女王様の仕事を完璧に肩代わりできる人物などいないのだから。

 よくよく考えるほどに、ぞっとさせられる。なにせ国の内政に関わる場所で、敵が全幅の信頼を得て活動していたんだ。今にして思えば、確かに仲間内でアンナさんだけはテロスと同時に居合わせたことが無かったっていうのに。いや、そんなもの気づく方がおかしいか。メイドさんは戦場になんて出てこないんだし。


 しかし、ケイツには何と言えばいいのか。幼馴染だったという話だし、アンナさんを大切に思っている様子だった。それが幼馴染としてなのか、それとも別の理由からだったのかは分からないけど。


「ケイツは、元帥はどこにいるんだ? もう戻ってきてるんだろ?」

「はっ! 先ほど先遣隊を派遣させ、今は会議室にて軍議の最中です!!」


 そうか、先にシンアルには向かっていなかったか。まあ、ああ見えても元帥……軍の最高司令だからな。我先にとは飛び出さないか。


「どこの会議室じゃ?」

「ご案内いたします!」


 


 軍議は2階奥の部屋で行われていた。

 部屋に入ると同時に、会議室の一番奥の席についていたケイツと目があった。そしてケイツの表情が一瞬の安堵の後、怪訝なものに変わった。


「今すぐソイツから離れろ。おい、お前。名前と所属を言え」


 全員の視線が、俺達をこの場まで案内した兵士に向けられた。


「私は--」

「いや、やっぱ必要ねーわ。妙な抵抗すんじゃねーぞ」


 ケイツがEXアーツを取り出し、その銃口を兵士に向ける。突然の展開に、正直全然ついていけないんだが?


「この非常時に自分の部下の動向を把握できてねー訳がないだろ。最低限の衛兵以外は全軍が平原に集まって部隊編成の真っ最中だ。そして衛兵はさっき俺が選んだ。てめーは……選んだ覚えがねぇんだがな?」


 会議に参加していた将校達が「スパイか!?」と騒ぎ始める。

 問い詰められた兵士は、しかし何も言わない。反論も、ごまかしも、抵抗さえも。ただ、その視線はケイツではなく、何故か智世に向けられている。


 なんで智世に? なにを考え、なにを狙って……狙っている? まさか!!


「そいつから離れろ、智世!!」

「え?」


 離れるどころか、首を傾げて兵士から視線をそらしてこっちを向きやがった。なんでそこで隙を見せるんだバカ!!

 案の定、兵士が智世に飛びかかる。


「オレを忘れてんじゃねーよ」


 一発の銃声が兵士の動きを止めた……永久に。


「全員、離れろ!!」


 だけど俺は安心できなくて、そう叫んだ。そして兵士の死体が、その周辺が歪み、うねり、床や壁を飲み込んで消失させた。

 あ、危なかった。あと少し近くにいれば、何人かは巻き込まれていたかもしれない。


「なんだぁ、今のぁ!!?」


 さすがの千戦ケイツも予想外だったのか、目を丸くして消失した会議室の一角を見つめている。


 やっぱりそうか。今の現象、あきらかにテロスの「無」の力によるものだ。アンナさんに変化してお城の人を騙している可能性は考えていたけど、こんなにも早く刺客を送ってくるとは思っていなかった。

 今の兵士、オルシエラからわざわざ忍び込ませたと考えるよりも、セレフォルンの兵を琴音と同じように操ったと考えた方が可能性が高そうだ。念のため、あとで確認してもらおう。


「参ったな。こうなると、もう誰が襲ってきてもおかしくないぞ」


 テロスの手は、長い時間をかけて世界中に広がっていると考えるべきだろう。町を歩いていても、すれ違った人がいつ襲い掛かってくるか分からない、そんな状態だ。


「おい、オルシエラのことといい、今のといい、何が起こってやがる?」


 国の重鎮もある程度集まっているようだし、ここで話すのはむしろ丁度いい。ケイツには、もう少し言葉を考えてから話したかったけど、そんな悠長なことは言っていられないか。

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