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この戦力、止められるものなら止めてみなよ

 できる、訳がない。敵討ちのために新たな犠牲を強いるなんて。ごめん、琴音。俺はお前の仇をとることすらできなかった。……今は。


「あは、怖い顔だなぁ。いつか絶対殺してやるって感じだね」

「それが分かってるなら、さっさと消えろ」


 俺がやけになっていないことを確認できたからか、テロスは俺が手を伸ばせば届く距離まで近づいてきた。コイツの反応速度は常人と大差無い。光速で攻撃すれば、あるいは--。いや、落ち着け。その程度のことを考えていない訳がないだろう。


 ……頼むから早く消えてくれ。


 そんな思いを察してか、テロスはあざ笑いながら馬鹿にするように俺の回りをゆっくりと浮遊している。時おり琴音の翼を自慢げに見せつけながら。


「うん、今日はこのくらいにしておこうかな。この場で全員殺して復讐を完遂してもいいけど、父さんには時間をかけてゆっくりと苦しんでもらわないと。そう、真綿で絞め殺すように、ゆっくりと……ね?」


 酷薄な笑みを浮かべて、テロスが高々と舞い上がった。


「それに僕は忙しいんだ。世界を初期化する、その準備も進めなくちゃいけないからね」

「なっ!?」


 冗談じゃないぞ! そんなことをされたら、何もかもおしまいだ! 復讐どころか、その先も何もかも無くなってしまう。


「やるのである、ユート! 余らのことは気にするでない。その者はここで殺さねばならん!!」


 ロンメルトの声に、振り返る。

 悲しげに首肯するリリアがいた。怖くて震えながらも覚悟を決めた様子のアルスティナがいた。死を受け入れた智世がいた。

 そして俺は心の中で「ごめん」と謝った。


 勝負は、一瞬だ。光速の一撃をもって、テロスを確殺する。それで仕留めきれなかった時は……その時は--


「悠斗くん」


 琴音が、ニヤリと笑った。


「また、私を殺すの?」

「あ……」

「あは、あっはははは!! 何を躊躇してるのさ!? 一度は殺してるクセにさぁ!! あっははははははは!!」


 やめろ。琴音の顔で喋るな。琴音の姿で嗤うな。


「知ってたことでしょ? 僕の中には喰らった魂が宿ってるんだ。僕は「無」だからね。何者でもなく、何者でもある。僕はテロスだけれど、今は同時にシイル姉さんでもあるのさ。あれ? どうしたの? 攻撃するんじゃなかったの? あはははは!」


 心底楽そうに笑う。ロンメルト達の覚悟も俺の決意も、なにもかもを嘲笑われた。

 不甲斐なさや悔しさ、色んな感情がごちゃ混ぜになって、自分でも理解できない涙があふれてきた。もう、訳がわからない。頭の中が真っ白になっていくようだ。


「しっかりするのじゃ、小僧! まだチャンスはあるのじゃ!!」


 チャンスだって? もう無理だ。不意打ちでなければ、テロスに攻撃は届かない。俺の「世界」は、テロスの「無」と「愛」の力とは相性が悪すぎる。

 そしてこの場からテロスを取り逃がしてしまえば、ヤツはこの世界を消し去ってしまうんだ。


「ヤツは儀式を行うと言っておったじゃろう。いつ、どこででも出来るわけではないという事じゃ。ならばそれを邪魔してしまえば良かろう」


 そうか、世界消滅のために儀式が必要ということは、儀式ができなければ世界は消滅させられない。こんな当たり前のことに気づかないほど冷静さを失っていたのか、俺は。


「ま、当然そう来るよね」


 気づいたからどうしたと言うように、テロスの余裕は崩れない。その姿は琴音のものから少年のものへと戻っていた。


「だけどもちろん、僕もそれに対する備えは用意してあるよ」


 テロスのローブの中から、汚泥の塊がボトボトと零れ落ちた。それらは蠢き、やがて人間の姿を形作った。その数は……10。

 その中にいた2人の顔を見て、リリアがハッと息を呑むのがわかった。


「挨拶くらいはしたらどうだい? 偉大な先輩達なんだからさ」


 俺もまた、その中の1人には見覚えがあった。面目無さそうにこちらを見ながらも、テロスの側から離れることはできないようだ。

 琴音の時と同じように、魂を縛られて操られているのか? だとしたら……マズい。俺は結局最後まであの人には勝てなかったままなんだから。




 ましてや、1200年前のオリジン10人全員が敵に回ってしまうなんて--




 火属性、金色のオリジン……マハムッド・ヤハン・ムバラク

 水属性、紺碧のオリジン……カッサンドル・ベルティーユ・サンドゥ

 風属性、天波のオリジン……ゼノビア・ルッケンベルン

 雷属性、滅紫のオリジン……ハイサム・ジャッバール

 地属性、琥珀のオリジン……郭宝明かくほうめい 侶丞りょじょう

 光属性、白夜のオリジン……エイリーン・アレクサンドル

 闇属性、極夜のオリジン……アイリーン・アレクサンドル

 空間属性、薄雲のオリジン……リディア・ボルトキエヴィッチ

 重力属性、黄昏のオリジン……藤原武綱ふじわらのたけつな

 そして強化属性、暁のオリジン……アラン・ラーズバード



「聖霊2体にオリジン10人。この戦力、止められるものなら止めてみなよ。あっはははは!」


 プラチナブロンドの女性が中空に手をかざすと、その一帯の空間が歪んだ。あれは、転移魔法か? ということは、あの女性がリリアの祖母のリディア・ボルトキエヴィッチか。しかし何て範囲の歪みだ。魔力量自体は俺の方が多いはずなのに、さすがはオリジンといったところか。


 無理だ。戦力が違いすぎる。智世の魔法は戦闘向きじゃないから頭数に入れられないし、そうすると俺とリリア以外では厳しいと言わざるをえない。さすがのロンメルトも、相手がオリジンではどこまで戦えるか。

 そして俺はテロスにかかりきりになるだろうから、実質リリア1人でオリジン10人の相手をすることになる。わかりきった話だ。そんなことは不可能だと。


「おとなしく世界の終わりを見届けることだね。どうしても邪魔をするというのなら相手になるよ。いや、相手になれるかな? この戦力差で」


 最後まで馬鹿にしきった笑い声を残して、テロスの転移ゲートの向こうへと消えて行った。そしてオリジン達もまた、それに続いてゲートをくぐっていく。

 その場に残されたのは、テロスの手のひらで転がされて何もできなかった俺達と、行き場を失ったどうしようもない憤りだけだった。




「追うぞ、ユートよ! あやつらを放置はできん! 世界に生きる人間としても、王としても!!」

「わかってる」


 現状の戦力で対抗することは不可能だったけど、これから先もそうだとは限らない。セレフォルンに戻って、力を借りて、何が何でも対抗手段を見つけ出す。

 ここで俺を仕留めなかったことを後悔させてやるよ、テロス。お前も俺の前世の頃から知っていただろうに、この諦めの悪さを。


「智世、お前も来い」

「ダメよ!!」


 智世のお母さん、起きてたのか。だけど今は、悪いけど智世と話すのが先だ。それからの方が話も早い。


「見てただろ? あいつは聖霊の力を取り込んだ。当然、お前の力も狙ってくるはずだ。こっちに1人でいると、あっという間に飲み込まれるぞ」


 琴音を食らって聖霊の右翼を手に入れたテロスは、きっと左翼も欲しいと思っているに違いない。それがのほほんと日本で暮らしていたら、どうだ? 俺なら即行で襲いかかる。


「そだね。わかった。ボクも琴音を苦しめたあいつを許せない。ついてく、最後まで」

「ああ。厳しい戦いになるはずだ。そういう意味でも智世がいてくれると助かる」


 母親にあれこれ言われているけど、智世は申し訳なさそうにしつつも取り合わないでいる。智世も辛いだろうに、せっかく親に無事な姿を見せてあげられたのに、また心配させることになって。

 絶対に守り抜かなければ……今度こそ。


 琴音のお父さんは、何も言わなかった。ただ、異世界へのゲートに向かう俺達に向けて頭を下げるだけ。きっとその動作には、万感の思いが込められている。良くも、悪くも。


「帰ろう。向こうの世界へ」

オリジンの名前を決めるのが大変でした(^^;)

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