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これが世界の「真実」さ

「そして聖霊から人間へと生まれ変わることを決めた彼らは、聖霊として最後にあるモノを残していった。そのまま勝手に堕ちて行けばよかったものを、余計な気遣いをして、誰にとっても最悪な置き土産を残していったのさ」


 それこそがこの話の核心だというように、テロスがわずかに声を荒らげた。


「僕だよ。自分達が退屈な世界を抜け出せずに苦しんだからって、この世界が滅びを求めた時、それを叶えるために新たな聖霊を生み出して行ったのさ」


 今まで完全に体を覆い隠していたテロスのマントが、膨れ上がった魔力に揺られてその中身を外気に晒した。あれは……足だ。だけど人間の足じゃない。あれはまるで、鳥のような--



「改めて自己紹介をしよう。僕の名前はテロス・ニヒ。世界を滅ぼす「無」の権能を与えられた、右翼のシイル・左翼のメルに次ぐ第三の存在。創世の鳥の脚より生み出された「終焉」の聖霊」


 テロスはまっすぐに俺を見ていた。嬉しそうに、悲しそうに。


「やっと話せた。ようやく会えた、父さん。そして、姉さん」

「俺……が?」


 俺が世界を創った聖霊の生まれ変わり? 俺がテロスを生み出して、世界を襲わせている?


「バッカバカしい。今も言っただろ? お前の言葉は信用するに値しないんだよ」


 なんの証拠も無いそんな話、先祖が有名な武将だったとかいう話よりもなお信憑性が無い。これを信用するってことは、テロスが俺を誰の生まれ変わりだと言っても、それを全部信じるってことだ。これを馬鹿馬鹿しいと言わずになんと言う?


「そ、そうだよぉ! それに、オリジンが聖霊さんの生まれ変わりなら、ゲンサイさんや昔のオリジンさん達はどうなるの!?」


 琴音の言う通りだ。俺達は世界全体で見れば希少なオリジンという存在だけど、唯一無二では断じてない。それとも聖霊は3羽だけじゃなく、次から次へとおおよそ11羽ほど湧いてきたとでも?


「なにもおかしな事なんてないさ。聖霊が、その本来あるべき器を捨てて人間になろうとしたんだよ? 世界を創る絶大な力が、たかだかヒト猿ごときの体に収まりきるはずが無いじゃないか」


 大きな水瓶からコップに水を移せば、当然その大半がこぼれてしまうってことか。


「父さん達の転生は、今回が初めてじゃない。1200年ほど前、一度試みて、そして失敗してるのさ。中途半端な、鳥と人が混ざったような姿。その姿のままなんとか世界に順応しようとしたみたいだけど、無理だった。そしてもう一度、今度こそはと聖霊の力を増幅できる「原初の塔」で儀式に望んだのさ」


 まさか、リリアと一緒に見た1200年前の塔での出来事は、まさしくその儀式の瞬間だったのか? テロスが「父さん」と呼んだ、塔の最上階で謎の儀式を行っていた3人の鳥獣人。そういえば彼らは創世神話について妙に詳しげだった。そしてその儀式に巻き込まれた結果、1200年後の現代に流れついた。あれは儀式の結果、彼らがこの時代に転生したからという可能性が脳裏に浮かんだ。

 確認の意味を込めてリリアを見ると、同じことを考えていたのか重々しい雰囲気で同意するように頷いた。


「そしてその1回目の失敗は、世界に様々な影響を与えたのさ。なにせ創造神の力が世界に漏れ出してしまったんだからね」



 テロスが俺達によく見えるよう腕を突き出して、指を一本立てた。


「まず1つ目は、餓獣の誕生。世界に氾濫した莫大なエネルギーは原生生物達の生態系を大きく狂わせた。人間がその影響を受けなかったのは、まあ人間への憧れが力にも多少なり宿っていたからだろうね。だけどその憧れは良くも悪くも働いたみたいでね、餓獣達は人間に固執するように襲い掛かった」


 餓獣が、聖霊の転生による副産物?


【……イメ、コロスナラバ、ナゼ、ウミダシ……タ…………】


 その言葉に、俺は思い出してしまった。

 アガレスロックを倒した時、俺は謎の声を聞いた。テロスの話を真実と仮定するなら、あの言葉の意味は……わかる。あの声は、アガレスロックはこう言ったんだ。


【聖霊め。殺すならば、なぜ生み出した】


 聖霊に生み出され、聖霊に殺される。その残酷さを呪う言葉だったのだ。だとすれば……だとすればアガレスロックを殺した、その呪いの行き先の俺は、俺達は……本当に聖霊だっていうのか?



 テロスが2本目の指を立てる。


「2つ目。こっちの世界と向こうの世界は、はるか昔に分岐した、いわゆる平行世界のようなものなんだ。君らが向こうの世界で活動してた大陸は、こっちでいうとオーストラリアにあたるのかな。ちょっと地殻変動のしかたも違うから完全に同じじゃないけどね。そして、向こうの世界に収まりきらなかった聖霊の力はついには2つの世界を隔てる空間を突き破り、こっちの世界にまで流れ込んだ。これが君達の通った回廊の誕生だよ」


 思わず、さっきまで黒鳥居が建っていた場所を見た。その話が本当だとすれば、なんて力なんだろう。それだけの力を放出させてなお、聖霊は不完全な転生しかできなかったって言うのか。



「そしてそれは、そのまま3つ目に繋がる。世界の亀裂から漏れた力は、聖霊の想いの影響か、近くにいた人間の中に流れ込んだのさ。そして彼ら、彼女らは、元の持ち主の下に戻ろうとするかのように、隣り合う世界へと引き寄せられた--それが、オリジン。聖霊の力を受け継いだ人間さ」


 俺は、納得してしまっていた。

 火、水、風、土、雷、光、闇、空間、重力、そして強化という名の、成長。それらはまさに、世界を構成する存在だ。実際、俺がジルを介して行使してきた力のほとんどが、この10種類の中に当てはまるものばかりだった。人から奪ったものも、世界から奪ったものも、餓獣から奪ったものも全部だ。


「そう、言うなれば彼らは聖霊より権能を分け与えられた、疑似的な聖霊となっていたのさ。肉体そのものまで作り変え、完全に別次元の存在となっていたんだよ」


 聖霊の力を少しでも宿した人間。それが世界を渡る瞬間を機に、文字通り生まれ変わった存在。それが……オリジンなのか。なら俺達も聖霊の力を持っているということになる。いや、力どころか、俺達こそが--?


「それに比べれな今回の転生はうまくいった方だと思うよ? 同じ病院で生まれた3人から、なおも漏れたわずかな力が、同じ時間に鍛錬で負った怪我の治療に来ていた男1人に流れ込んだだけで済んだんだからね」


 ゲンサイ、か。ということはあの大魔王との苦労の数々は自業自得と絶望的なまでの運の悪さが原因だったと? だめだ、あいつの言葉を信じ始めている俺がいる。だけど……あまりにも話は繋がりすぎている。



「最後、4つ目は軽い方かな? 鳥人間になっちゃって父さんと姉さん達は、諦めきれずになんとか世界に馴染もうと足掻いたのさ。その結果、獣人という不可解な種族が生まれた。まったく、生態系を無茶苦茶にするのも大概にしてほしいね。そういえば父さんは動物の言ってることが何となく解ったりしないかい? あのお仲間の獣人の気持ちも理解できてたみたいだったよね? 当然だよ。元は鳥で、獣人の祖先なんだからさ」


 誰もが言葉を失っていた。

 荒唐無稽な話だ。辻褄を合わせばかりで、明確な、目に見える証拠が出されたわけでもない。だけど、誰も「そんなわけがない」と。「でたらめだ」と言うことが出来ないでいた。


「どうだろう? 約束通り、話したよ。これが世界の「真実」さ」


 正直、俺はほとんど信じつつある。はは、琴音のことを言えないな、これじゃ。だけど俺の中の何かが認めてしまっている。テロスの話す内容に、懐かしさを感じてしまっている。

 どうやらそれは琴音と智世も同じらしく、揃って自分の中の何かに困惑している様子だった。


 ひとまずテロスの話を受け入れよう。だけどまだ、こいつからは聞けていないことがある。


「それで、結局お前は何がしたいんだ」

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