表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/223

始まりの更に始まりの話さ

「テロス・ニヒ……? なんで……」

「なんで? それは、わざわざ言わないと理解できないことかな?」


 アンナさんだったモノがニヤニヤと笑う。テロスになったモノが、ニヤニヤと笑っている。

 混乱し、体の動かし方を忘れてしまった俺とアルスティナ。琴音達も同じような状態らしい。そんな中、リリアだけは驚き、動揺しながらも一歩前へと歩み出た。


「いつからじゃ」


 その質問の意味を理解するのに、少し時間がかかった。

 そういえばケイツはアンナさんを幼馴染だと言っていた。ということは子供の頃から一緒に成長してきたということだ。だけどテロスは年を取らない。少なくとも1200年前と現代の姿を同じだ。見た目を自由に変形させられるのでなければ、最初からアンナさん=テロスではなかったということなんだ。


「うん? いつからだったかな? 深層と常緑が世界を越える少し前から準備は始めていたから……うーん、3年くらい前からかな?」


 3年。そんなにも前から、アンナさんはテロスとすり替わっていたのか。3年前に本物のアンナさんはテロスに殺され、食われていたのか。そして俺達が知っているアンナさんは、最初からずっとテロス・ニヒだった。俺は自分達を異世界に放り込んだ張本人を、師匠と呼んでというのか。リリアの父親を殺し、世界を戦乱に叩き込んだ奴と、毎日顔を合わせてヘラヘラ笑っていたというのか。


「なんなんだよ! お前、何がしたいんだよっ!!」


 コイツだけは理解ができない。

 みんな目的や目標があって行動している。もちろんテロスにもそれはあるんだろう。だけどまったく理解できない。


 俺達が異世界に来るように誘導し、わざわざ敵を用意してけしかけ、俺達が迷宮塔の最上階に行くのを妨害し、戦争が悪化するようにガルディアスの王女シャロンを殺した。

 1200年前の世界では仲が悪かったわけでもないオリジン達を争うように仕向け、10あった回廊の内9を破壊。そして「父さん」と呼ぶ獣人を接触しようとしていた。


 まるで一貫性が感じられない。何をしたいのか分からない。「父さん」というのが中心にいるというのは想像できるけど、その人物は1200年前の迷宮塔でなにやら儀式めいた事をしていたことしか分かっていない。


「何をしたいのか、かぁ。それを、君が、僕に聞くんだね」

「だから、意味がわかるように言え!!」


 意味深な発言は、もううんざりだ。コソコソコソコソ動きやがって、いい加減にしろ。


「そうだね。そろそろ、頃合いだし。それに常緑のお姉さんとも約束したし、ね?」

「琴音?」


 琴音が、テロスと約束? まさか琴音まで、テロスと繋がっていたっていうのか? 

 いや、違う。バカか俺は! こんな奴の言葉に惑わされてどうする! ここまで一緒に戦ってきた仲間を信じられなくてどうする!!


「違っ!? わた、私は……」

「ああ。誤解させちゃったかな? 違うよ、違う。僕が一方的に約束しただけさ。戦争が終われば、この世界の真実を教えてあげるってね。その為に、戦争で勝つために、お姉さんには力を貸してあげたくらいだよ?」


 力を貸した? そういえばゲンサイに向かっていった時の琴音の力は普段とは隔絶していた。俺も何度か「魔法の使い方」を理解して成長することがあったから、それと似たようなものだとばかり思っていたけど。

 そのおかげで助かったとはいえ、なんてうかつな。こんな奴を信用するなんて。いや、信用してしまうようなことを言われたのか? 琴音だって敵だと認識してる奴の言葉をすんなり受け入れる程、のほほんとはしていない筈だ。


「悠斗君、あのね? テロス、くんに言われたことなんだけどね? 思い返してみると、テロスくんは私達が強くなるように導いてたみたいじゃなかったかな? だから私、その、信じて……」

「なるほど、な。確かにそんな風に考えられないこともない。だけどな琴音、俺は手段を選ばない時点でコイツを信用することなんてできないんだよ。なにが「世界の真実」だ。どうせろくな事じゃない」


 俺がそう言うと、テロスの表情が少し苛立ったものに変わった。


「君に、そんなことを言う資格なんてないのにね。いいさ、聞いておくれよ。そのろくでもない真実を……この世界の歴史を」


 世界の歴史。それが事実かどうかはともかく、確かにソレを語るならテロス以上の者はいないだろう。なにせリリアをも上回る、それこそいつから生きているのか分からない奴なのだから。


「君達も聞いたことがあるんじゃないかな? 世界は初め、『無』であったと」

「創世神話、だったか? あっちの世界の」

「……知ってるんだ。まあ神話の冒頭なんてどれも似たようなものだけど、それで合ってるよ。もっともあっちの世界だけの話じゃない。世界が分離する前……始まりの更に始まりの話さ」


 今でこそ異世界の人々はオリジンを信奉しているけど、それ以前では世界を創った聖霊を崇めていたらしいな。今でも少数だけど聖霊信仰は残っているようだけど。

 ただ、俺はそれに関してそれほど詳しくはない。なんといっても宗教に雑な日本人だからな。だけど1200年前の世界で、塔の最上階で出会った「父さん」の言葉くらいは覚えている。


『世界は初め、無であった。そこにはただ1つだけ生命が存在し、無限に広がる虚空を漂う。ある日、ソレは夢を見た。どこまでも広がる果てしない『青』。青い海、青い空、青々と生い茂る草木。色も何もない世界に漂っていたソレは、その青に憧れ……それらを創造した』


 それが創世神話。崩れてしまった天井の壁画からも、その内容が間違いでないことは分かった。


「創世の聖霊。あるいは創世の鳥とも呼ばれる「彼」は、夢に見た青い世界を作り上げ、思う存分その世界を飛び回ったらしいよ。だけど結局1人ぼっちなことに変わりは無くて、彼は仲間を創ることにしたんだ。左の翼から生命の聖霊を生み、右の翼からはぐくみの聖霊を生み出した」


 ちょっと待て。鳥だって? それに生命と育みって……。


「生命の聖霊は世界に命を生み出し、育みの聖霊はそれを育てた。そうしてこの世界には多くの生物が暮らすようになった。やがて『人間』が生まれ、そして聖霊達は新しい夢を見つけたんだ」


 心がざわつく。俺はこの話を、知っている--?


「彼らは人間に生まれ変わろうと考えたんだよ。生命の聖霊メルと、育みの聖霊シィル。そして創世の聖霊ジルは、人間になりたくなったんだ」




 その言葉を受けて、俺の肩に止まっていた青い小鳥は困ったように「ピィ」と鳴いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ