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本当に不思議だったよ?

「やだよーー! 帰りたくないー! 今度はチョコのアイス食べるのー!!」

「そう急がんでもいいのではないかの? ほれ、あのゲーセンという所を見てからでも良いのではないかのぅ?」

「待つのだ! この国では旅をすると木刀を買うのが王道なのであろう!? 王として、買わずに帰るのはいかがなものか!?」


 うるさいわ! お前らの要望にいちいち答えてたら日付が変わる!


「アルスティナ、アイスも太る食べ物だぞ。サバ子、ゲーセンに子供が入ってもカツアゲされるか金をむしり取られるかのどっちかだ。王様、それなんか違う」


 論破したはずなのに尚も騒ぎ続ける3人に、俺はもうそのまま放って帰ることにした。異世界で右も左もわからない3人は、俺がいなければ家に帰ることさえできない。それどころかはぐれてしまうと元の世界に帰ることすら不可能になってしまう。

 どう足掻いても最終的には俺に従うことになるのだ。はっはっは。背中に恨みがましい視線が突き刺さってるなぁ。



   ●



 一度家に帰って支度を整える。

 見送ると言い出した両親を振り切るのには苦労させられた。これから異世界に帰ろうかという時に、隣で親同士の挨拶なんてされるのは精神面の問題で勘弁してほしい。


 帰還は琴音の実家でもある神社で行うことになっている。あの鳥居を通って世界を渡れるのはオリジンだけのようなので、神社でやる必要は無いのだけど、異世界に行くのならあそこと自分の中にインプットされているのだ。転移先のイメージもやりやすいし。


 そして神社に到着して、その判断が間違っていなかったことが分かった。


「君が悠斗君かい? 琴音が世話になったね」


 そう言ってきたのは着物を着た男の人だった。きっと琴音のお父さんだ。ぶん殴られてもおかしくないと思っていたけど、琴音がうまく話してくれたらしい。その表情は複雑そうながらも険しくは無い。

 そしてその後ろから駆け寄ってくる女性は、誰なのかすぐに分かった。面識もある。智世のお母さんだ。


「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!! あんなに、あんなにも元気に……っ」


 こっちは果たしてどんな説明を受けたんだろうか。親の前では普通だと言っていた智世だけど、まったく話を盛らずにいられる性格でもないから、ちょっと怖い。ある意味では娘さんの病状は悪化している訳だけど、どうやらそっちは宣言通りうまく隠しているのか何も言われなかった。

 ところでお宅の娘さん、元気になるどころか死人すら元気にできるようになっているんだけど、それはいいのだろうか?


「夫は急な事に仕事を抜けられず来れませんでしたが、同じように感謝していました! なんとお礼を言えばいいのか」

「あ、いや、勝手にやったことですし。むしろ強引なやり方で心配もかけてしまったし」

「そんなこと! そんなこと、この喜びと比べれば些細なことです!!」


 や、やりにくい。自分の親と同じくらいの人に敬語を使われていることなんて、違和感が半端じゃないぞ。そして感謝のされ方も半端じゃない。誰の了承も得ずに自己満足で行動した結果だったけど、それは間違ってしなかったようで誇らしい気持ちだ。


「また、こっから行くんだな」

「本当に来たのか? 付き合いのいい奴だな」


 何度も言うけど俺と中田の付き合いなんて、ほんの数日程度のものだぞ? 転校した日と、琴音の神社に行って異世界に飛ばされた日。そしてテロスに日本へ飛ばされて、智世を一緒に誘拐同然に連れ出した時だ。

 ……濃いなぁ。


「君達も友人同士だったのかい?」


 琴音のお父さんは少しだけ驚いた様子だった。だけど意外というわけでもなく、そうだったんだ程度のものだ。どういう反応だろうと思ったけど、そういえば俺がテロスの手で日本に送られた時、中田は神社にいた。俺達のことを気にしてか、たまに足を運んでいたという話だったけど、その時に知り合っていたんだろう。「琴音の友達」として。

 そりゃ琴音の実家だもんな。というか転校したてで面識も何も無い俺の名前なんて言っても意味がわからないんだし。


「琴音から一晩かけていろいろと聞かされたよ。神を奉じる立場でこういうのもおかしな話だけれど、信じがたい話ばかりだったよ」


 まあ異世界に行ってデカい亀やら鳥と戦ってたんだからなぁ。おまけに最後には戦争までしてたんだ。むしろよく精神病院に連れて行かれずに済んだもんだ。ああ、俺みたいに自分の魔法を見せたのかな?


「話を聞けば聞くほど、君には世話なったのだとわかったよ。本当にありがとう」

「……元々、俺が突っ走らなければ異世界に行くことになんてならなかったんだ。怒られこそすれ、お礼なんて」

「ここはウチの敷地だよ? この鳥居は大昔から由来もわからないまま建っていて、何十年に一度かは整備していたんだ。きっといつかはこうなっていたさ」


 いや、回廊に入ってしまうことはあっても、その先に進むかどうかは別だ。だけどそんな俺の考えを予想していたかのように、琴音のお父さんは首を横に振った。


「大人しい子だけど、好奇心は人一倍でね。最初は怖がって逃げるだろけど、一生確かめないままなんて有りえない。そうだろう? 琴音」

「え、えへへ」

「と、いうことさ」


 この親子はそっくりだ。親子揃って、甘いくらいに優しい。

 琴音を無事に連れ帰ることができて、本当に良かった。この親子が笑顔で再会できて本当に良かった。心からそう思う。


 そして思い知らされるな。俺は本当に親不孝者だと。親は子をこんなにも心配してくれているっていうのに、俺はこの生まれ育った世界の全てを放り出して異世界で生きて行こうと思っているんだから。

 2人はもう、あっちの世界には行かない方がいい。戦争が無くなったって言っても、常に餓獣という脅威にさらされている世界だ。テロスのいう不確定な危険もある。みんなに会いたいというのなら、俺が連れて来ればいい。


「よし、決めた」

「え? 何を?」

「この鳥居を壊すよ。もう誰もあっちに迷いこまないように」


 過去の世界でアランが言っていた。テロスが世界を繋ぐ回廊を破壊して回っていると。

 どうしてこの回廊だけが残されたのかは不明だけど、これを壊してしまえば、もう空間魔法以外で世界を渡る方法は無くなる。琴音と智世が自力で異世界に行く手段は失われ、その子々孫々が迷い込む危険も無くなるんだ。


「アルスティナ、王様、それでもいいかな?」


 このことで一番損をするのは、異世界側だ。この鳥居が無くなれば、今後新しいオリジンが生まれることは無い。近い将来、あっちの世界は完全に魔法という力を失うことになるのだから。


「え? いいよ、ティナのじゃないし」

「構わん、やるがよい! ふはははは! もとより余は魔法の無くなった後の時代の備えておったのだ。恐れることなど何も無いわ!!」


 アルスティナはイマイチわかっていなさそうだけど、ロンメルトは理解した上でのゴーサインだ。リリアも止めようという気配は無い。まあセレフォルン王国は俺達が迷い込んだ時も、故郷に帰らせてあげようと協力してくれたくらいだから愚問といえるか。

 それともう1人、ある意味一番に許可をもらわないといけない人がいる。


「いいとも、やりたまえ。元より何の為にある物か分かっていなかったんだ。危険と分かれば守る理由も無いさ」


 この土地の、つまりはこの鳥居の持ち主である琴音のお父さんの許可が出た。


「だけど壊せるのかい? 第二次世界大戦の時でも傷一つ無かったという話があるのだけど」

「壊せるはずです」


 テロスはこれを破壊できた。そして俺の力は……ジルはテロスの力と似通った部分を多く持っている。それに感覚的にわかるのだ。俺にはこれを破壊できると。


「ジル」

「ピッ?」

「アレを壊してくれ。もう二度と、誰かが迷い込むことの無いように」


 異世界に渡って、多くの物を得た。智世にいたってはオリジンになったおかげで命が救われた。だけどそれは結果論だ。一歩間違えていれば、俺と琴音は最初の森で捕まって奴隷のように扱われていただろうし、どこで死んでいてもおかしくなかった。俺達は世界を渡るだけなら、もうこの回廊は必要無い。



 それでも、回廊よ。俺は感謝しているぞ。ここで俺はドラゴンに出会い、憧れ、世界を越えて多くの仲間と出会うことができたんだ。



 鳥居が早送りで風化していくかのように、サラサラと砂になっていく。それは風に乗り、やがて影も残さずこの場から消え去った。


「じゃ、俺達も行こうか」


 もう空も夕焼けに染まろうとしている。俺達は城に転移するからいいけど、智世とその母親、そして中田はこれから家に帰らなきゃいけないんだからな。

 鳥居があった場所に手をかざし、セレフォルンの王城……その俺の部屋を思い浮かべる。程なくして接続は完了し、目の前には帰還する時にも見た歪みゲートが現れていた。


「絶対また会いに来てね! 今度はみんなで、ゆっくり遊びに行こうね!!」

「ボクも体が治ったら行ってみたい所がたくさんある。どうせなら、一緒に行きたい」

「ああ! 俺、まずはオルシエラに行くから、リゼットも連れて戻ってくるよ。みんなで、きっと来るよ」


 手を振って、ゲートに近づく。何か不具合があるといけないから、全員で手を繋いで行って方が安全かな。と、そう考えた時だった。

 ゲートから手が突き出した。女性の手だ。もしかして俺の部屋に誰かいたのだろうか? だとしたら驚かせてしまったな。きっと掃除をしてくれていたメイドさんだろう。


 その予想は正しく、一度手をひっこめたかと思うと飛び出すようにメイド服の女性が姿を現した。


「アンナ?」

「はい、陛下。驚きましたね。陛下もご一緒とは」


 やって来たのは女王の側付きであり、俺の剣の師匠でもある万能メイドのアンナさんだった。


「やはり自室に繋がれましたね、オリジン・ユート。おかげで力を温存したまま、世界を渡ることができました」


 突然現れたメイドの姿に全員がポカンとする中に、その不可解な言葉は響き渡った。

 世界を渡ることができた? 予想通り? アンナさんは俺が日本から城の自室にゲートを開くと予想して、待ち構えていたのか? 何のために……いや、そんなことはどうだっていい。それよりも今の口ぶりだとまるで「自力でも世界を渡れたかのよう」じゃないか。


「おかしな顔をしていますね、オリジン・ユート。むしろ不思議なのは私の方だというのに」

「なに、を?」

「ただ身内だというだけで、どうしてあからさまに怪しい人物を警戒しないのか。1人の人間が武に秀で、智に優れ、政治にまで口を出す。それも、たかだか一介の侍女ごときが。なぜおかしいと思わないのですか? なぜ凄い人だという程度で済ましてしまうのですか?」

「何を、言ってるんだよ! アンナさん!!」


 アンナさんの顔に、気味の悪い笑みが浮かんだ。それは今まで、何度か見たことのある笑みで。何度も感じたことのある気配で。


「ダメで元々の気持ちだったというのに、本当に不思議でした。1つの体に複数の魂が宿る存在を知っていながら、1人では有りえない数の技能を持つ私をどうして怪しまないのか」


 アンナさんの体が泥のように崩れる。そしてそれこそ泥人形のように再び形造られたそれは--


「本当に不思議だったよ? 深蒼のお兄さん」

ちょっと書いてる時間が無いので、一回だけ更新休みます。次は21日で、すいません

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