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わかってくれ

 ちょっと目の前の状況を上手く呑み込めない。

 だけど事態は俺を待たずにさらなる進展を見せた。なぜか死を覚悟したような悲壮な表情を浮かべたリリアが、アルスティナの後を追う形で現れたのだ。


「男の家に血縁でもない幼女が2人! これは……捕まる!」

「おい、やめろ。怖くなってくるだろ」


 洒落にならないシャレをぶちこんできた智世を黙らせる。シャレ……だよな? 通報したりしないよな? たとえ冗談でも、この現場を常識を持ち合わせた人が見れば通報待ったなしだ。いやまあ同年代の女の子もいるから、その妹とでも言い張れば大丈夫だろうけど。

 男が「子供好き」と言って不穏な空気になるのって、きっと日本だけじゃないだろうか。


「いや、そんなことよりなんで来てるんだよ!? っていうかなんで来れるんだ!?」


 世界と世界を移動できるのはオリジンだけじゃなかったのか? 移動したからオリジンなのではなく、移動できるのがオリジンだというのは田中(中田だっけ?)が回廊に入れなかったことから明らかだ。


「うむ、ワシも突然ティナが「えい」と歪みに飛び込んだ時は肝が冷えたわい。みなを代表してワシが追うことにした時も、飛び込むと同時に体が消し飛ぶのではと……生きた心地がしなかったのじゃ」


 相当な勇気が必要だったのか、その瞬間を思い出しながらリリアが身体を震わせた。


「うーん……もしかしたら回廊に入れるのがオリジンだけなのかなぁ?」


 その可能性は高そうだな。薄雲のオリジン、リディア・ボルトキエヴィッチがこの世に生み出した空間属性を利用した移動なわけだし、元々この世界に存在しなかった力によるルートだから、抜け道みたいなものなのかもしれない。そういえばテロスが迷宮塔でリゼットを日本に送ろうとしてたっけ。


「ふむ、では残してきた皆も呼ぼうではないか。異世界を見物するなど、心が躍るぞ! ふはははは!」

「なんで普通に来てる」


 地球の日本の、ごくありふれた一般人が35年ローンを組んだ民家に当たり前のように全身鎧の男がいるんだが? 背中にバカデカイ剣を馬鹿正直に背負っているんだが?

 転移したのが自宅で良かった。こんなの町中で解き放っていたらどうなっていたことか。警察との追いかけっこは前回だけで十分だ。


「ということで呼んで来たのである」

「なんで普通に呼んでる」


 ケツアゴはともかく、ケモ耳ショタまで追加されてしまった。一瞬にして日本にファンタジー空間が生まれる。これはさすがにダメだろ。


「わかった。俺も異世界を見れると言われて黙っていられるタイプじゃないから、観光することを止めたりはしない」

「ふははは、さすがユート話が早い」

「やったぁー!」


 喜ぶ王族2人の後ろでケイツが頭を抱えた。そりゃそうだ、たぶん今あっちの世界で一番忙しいはずの2人なんだからな。こんな所で遊んでいていいわけがない。


「心配しなくてもいいぞ。どうせあの森からオル君無しで帰ろうとすれば2日近くかかるんだから、転移で王都に直接送ればちょっと観光しても支障はないだろ?」

「それは、まあそうだがよぉ」


 理屈では分かるがこの忙しい時に観光なんてと、意外と常識人なケイツは悩んでいた。が、無理矢理連れ戻してもアルスティナが機嫌を損ねて結局仕事にならないと諦めたみたいだった。


「それで、なんだが……気を悪くしないで聞いてほしいんだけど、転移で送るからケイツとユリウスには王都に戻っていてほしいんだ」


 まるで……というかまるっきり仲間はずれな扱いを口にすることには抵抗があるけど、俺にはこれを言う義務がある。何も知らない仲間達を、そのまま町に出せば傷つく思いをすることは目に見えている。仲間だからこそ、心を鬼にしなければいけないのだ。


「あ? まあオレは仕事が溜まってっから、どっちにしろ戻るつもりだったがよ。ユリウス坊を帰らせるのは可哀想じゃねーか」


 そんなことはわかってるよ。ああ、ユリウス、そんな悲しそうな顔で俺を見ないでくれ。


「仕方ないんだよ……。この世界には魔法は無いし、餓獣もいない。ドラゴンだっていない、そんな世界なんだ。髪の色くらいならどうにでもごまかせるけど、ユリウスの尻尾は、なぁ」


 もっと小さい、猫とかネズミみたいな程度なら無理をすれば大きめの服でごまかすこともできたろうけど、ユリウスの尻尾はフカフカモコモコの体と同じくらいの大きさなのだ。これを隠しきるなんてことはできない。


「わかってくれ! この世界には頭に耳が生えてる人も、オシリから尻尾が生えてる人も、ましてやアゴからケツが生えてる人もいないんだ!」

「ちょっと待てやゴラアアアアア!!」


 真面目な話をしていたのに、突然ケイツが大声を出した。


「アゴからケツが生えてる奴なんざ、どこの世界にもいねーよ!! てめぇそんな理由でオレを送り帰そうとしてやがったのかぁ!! つーかいるだろ! この世界にもオレみてーなの絶対いるだろ!!?」

「こんな見事なケツアゴを、俺は今まで見たことが無い」

「嬉しくねぇよ!!」


 外国人はもちろん、日本人でもたまにアゴが割れてる人はいるよ? でもケイツほど完璧に割れている人なんてテレビでも見たことが無い。それはもう、指でつまんで「パカッ」ってできそうなぐらい割れてるんだもの。

 まあそれが理由というのはもちろん冗談だけどな。ユリウスだけだと本当にかわいそうだから、同じような理由で外される人がもう1人欲しかったんだ。1人だけ帰るっていうのも、理由を理解してても悲しいものだしさ。


「そういうわけで、外に出るとどうしても目立つんだよ。アクセサリーだって言い張るには、ちょっと立派過ぎる尻尾だからさ」


 そういうとユリウスは自慢の尻尾を憎々し気に睨んだ後、渋々と言った様子で頷いてくれた。うう、ごめんよ。上手に隠せる方法、考えておくから。


 ということで来た時のゲートも消えたことだし、王都の俺の部屋へと新しくゲートを作り出す。

 やれやれ、空間属性を余分に借りて来ていて正解だったな。ぴったり2個だけだったら、この時点で全員帰さなければいけない上に、俺は回廊を使って戻るはめになる所だった。またガルディアスとかに飛ばされたら面倒くさいことこの上ない。


「……陛下を頼んだぞ?」

「(ぶんぶん)」


 まだ少し怒りながらケイツがゲートに入り、バイバイと手を振りながらユリウスが続く。その尻尾はやっぱり淋しさからか、艶が3割減しているように思える。


 2人が帰り、これで不審人物は3人に減った。と言っても多少変な身なりをしているからと子供に疑念を持つ人は少ない。アルスティナとリリアに関しては服装さえ普通にしていれば外国の子供と思ってくれるはずだ。ロンメルトはとりあえずアシストアーマーを没収だな。行動も制限できて一石二鳥だ。


 ならやっぱりまずは服の調達だな。

 ロンメルトの分は俺ので問題無く着れると思う。身長はロンメルトの方が高いけど、大きめの服をいくつか持っているから、それで何とかなるだろ。

 むしろ厄介なのはアルスティナとリリアの分だ。女の子用の子供服なんて家には無いぞ。さすがに母さんも自分の子供時代の服なんて持ってないだろうし。


「ティナちゃんとリリアちゃんの服は私が家から持ってくるよぉ」

「ああ、そうか。その手があったな。じゃあまずは琴音と智世の服か」


 そっちは母さんの服が借りれる。2人をきちんと送っていきたいし、アルスティナ達が勝手に出歩いたり機械を壊したりしないよう見ていてもらうためにも、ここは母さんの協力が必要だ。


「ちょっと母さんを探してくるよ。直接会う前に事情も話しておかないと混乱するだろうし」


 異世界の存在については話しているとはいえ、なにせ行方不明(息子が誘拐したと思われている)の女の子を変な格好のまま連れて来ている上に、不自然な髪色の幼女2人。そして赤髪の大剣担いだ鎧男だ。説明無しはマズイ。特に最後のがマズイ。

 家にいないなら電話で呼んででも来てもらわないとな、と思いながら客間のドアノブを掴もうとして、空振りした。俺が開ける前に開いたのだ。


「泥棒、覚悟ーー!! うりゃあー!」

「のわああああ!!?」

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