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影話・愚か者2人



『ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……』




「そろそろ行くぞ、リスの子よ」

(コクリ)


 頭上から地盤を貫いて響いてきた怒号に、地下道にて待機していたロンメルトとユリウスが動き出した。

 なんら整備のされていない、むき出しの地面。巨大なモグラの巣に潜り込んだかのような空洞を駆け抜ける。その先にはロンメルトの実父にしてガルディアス帝国皇帝、ウルスラグナ・F=ガルディアスがいる。


「どこまでも続いていそうな闇であるな」


急ピッチで作られた地下道だ。日本のトンネルのように照明を用意するような気遣いなんて当然のように無く、ロンメルトの手に握られた松明たいまつだけが道を照らし出す。ゆらゆらと揺れる光によって闇の掃われた数mメートル分ほどの空間が、今の二人の全てだ。ユリウスは鼻をスピスピさせているので、もう少し広い範囲を把握しているのかもしれない。


 これが仲間の作った道でなければ、恐ろしくて走るなんて真似はとてもできなかっただろう。文字通り、一寸先は闇。だがロンメルトの速度は遅くなるどころか、どんどん速くなっていく。


「ふはははは! いかな闇とて、それが友の作り上げたものならば何を恐れる必要があるというのか!! ふははははは--おごぉっ!!?」

「……」


 仲間を信じる自分に酔って熱くなっていた頭は、冷たい岩盤に叩きつけられて冷まさせられた。もっとも、ぶつけた部分は真っ赤に腫れ上がって熱くなっているが。

 ユリウスの目がこう語る。言ってたじゃん、と。


「ぬおおおおお!? な、なんだこの壁は! 道が塞がっておるではないか!! …………おお、そう言えばそのような事を申しておったな!!」


 悠斗は確かに伝えていた。ゲンサイのせいで地下道が崩落しているかもしれないと。そもそも、それに備えてのユリウスの同行だったはずなのだが、ロンメルトの頭から抜け落ちていたようだ。思い出してしまうと忘れていたことが恥ずかしくなったのか、ごまかすように「わはは」と乾いた笑い声を繰り返している。


 呆れた様子でユリウスが背中に背負っていた大きな本を降ろして開いた。

 ポン、と発生源のよくわからない煙と共に現れたのは、地面を掘って生活する修正を持つ餓獣、モットモール。モール(もぐら)という名のわりに、モグラというよりはハムスターに似ている毛玉である。


「もきゅ?」


 突然呼び出されたモットモールは、何事かとキョロキョロ周囲を見回し、とても居心地の良い最上級のトンネルが途中で途切れていることに気付いた。


「きゅ!」


 モットモールはすぐに察した。そうか、この極上の住処の完成を……最後の一堀を自分に任せてくれるのかと。もちろん間違っているのだが、結果としては何も問題は無い。

 モモモモモッ。あっという間に地下道は再び開通した。


「もきゅ!!」


 どうだ、とご主人様を振り返ったモットモールは、土まみれになったユリウスに頭を撫でられた後、引っぱたかれて本の中へと戻っていった。戻された。


「やれやれ、ひどい目にあった」

(コクリ)


 モットモールにかけられた土を払いながら漏らした不満の声が地下道内に反響する。あっという間に掘り進めるということは、掘り出された土は後ろに放り投げられるということ。道をふさいでいた土を後方に投げたことで2人が砂まみれになったことはもちろん、後方の道まで埋まってしまっていた。


「戻る必要など無いがな! ふははははは!!」


さっきまでの勢いを取戻し、ロンメルトが進む。ついさっき石と石頭比べをする羽目になったばかりだというのに、もうそんなことは忘れたといわんばかりだ。崩落が一か所だけだという保証など無いというのに。


 そして--


「ほごぉっ!!?」


 二回目の衝突。ええい、またか。と石頭勝負の新たな対戦相手を睨みつけるロンメルトは、その相手が崩落した岩石でないことに気付いた。


「む? 行き止まりではないか?」


 それは、これまで通ってきた地下道の壁と同じ、悠斗の地形操作で形成された土壁だった。それが意味する答えは、1つ。


「ふ、ははは……どうやら着いたようであるな」

(コクリ)


 袋小路になっているように見えたが、よく見れば一部不自然に色が異なっている壁があった。周りが様々な種類の鉱石や土で構成されている中、その部分だけは一種類の土石で形作られている。それは悠斗が用意した目印だった。


 こん、と軽く蹴り飛ばしてやれば簡単に崩れ落ちてしまった土壁。その先にはもう一枚、壁があった。砦などで一般的に使用されている、ありふれた石材の壁だ。


「なるほど、この先であるか。覚悟は良いな、リスの子」

(コクリ!)

「ではゆくぞ!!」


 アシストアーマーによって増幅された脚力が、石材の壁を勢いよく蹴破った。ここも見た目には頑丈そうだったが、蹴ってみればそう大した固さでもない。どうやらこの方法であっていたようだ、と思いながら踏み込んだ先は、砦には似つかわしくない空間だった。


 それはまるで、玉座の間。

 広大な空間に存在するのは、装飾品だろう壁に立てられた5メートル以上ある巨大すぎる剣と、たった1つの椅子だけ。そしてその椅子には、突然の訪問にも眉1つ動かさずに悠然と座する男が座っている。


「ほう、懐かしい顔が、底辺の人間に相応しい所から現れるおったわ」


 王、というよりは歴戦の大将軍のような男だった。

 鍛え上げられた2メートル以上ある巨体に、貫録以上に凄味の濃い顔立ち。ロンメルトと同じ真紅の髪は後ろにかき上げており、全身を包む紅の衣装と相まって、一瞬頭から血を浴びたのかと幻視させられた。


「ふはは、そちらは随分と大層な椅子に座っておるではないか。せいぜいしがみ付いているがいいわ。もうじき引き摺り下ろされるのだからな!」


 ロンメルトが身の丈ほどもある大剣を抜き、ウルスラグナに突きつける。


「まさかとは思うが、貴様が? このワシを? 出来損ない風情が、このガルディアス王を討つと?」

「力が全てなのであろう?」


 自信に満ち溢れた表情で告げるロンメルトに対するウルスラグナの反応は「呆れ」だった。それこそ馬鹿なことばかり言う子供に困らされた父親のように。


「マクリルに任せたのは失敗であったか。あやつと同じく、実現できもせぬ夢を語る」


 その言葉に、ロンメルトはムッとなった。そんなことはない、と言おうとして……しかし言えなかった。ウルスラグナが立ち上がる。その動作と共にあふれ出した威圧感がロンメルトを黙らせた。

 立ち上がったウルスラグナは、壁に立て掛けられた剣へと歩み寄る。5メートル以上ある異様なまでに大きな剣だ。


「馬鹿な……」


 装飾品の類としか思えなかった代物を、こともなげに持ち上げたウルスラグナの姿にロンメルトが思わずうめいた。ありえないと。事実、どんなに鍛えたって人間の筋力で5メートルもの鉄塊を持ち上げられるわけがない。


「そしてワシに似て、実に愚かだ」

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