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戦闘用意っ!

 戦場予定地を見渡せる砦の屋上であぐらを組む。この体勢に深い意味は無い。ただ「ぽい」と思ったから座禅の真似をしているだけだ。

 うっすらと目を閉じると見えてくる。厳密には視覚として認識しているわけではないが、感じるのだ。世界中の草木のざわめきが、水のさざ波が、風のうねりが。 


 これを感じるようになったのは、ジルと合体した時からだ。目を閉じていても自分の手足がわかるように、世界のさまざまな物を感じることができる。まるで世界と一体化するかのように--


「来たか」


 世界が怯えているのが伝わってきた。

 負を体現した者が近づいてきている。恐怖そのものがやってくる。周囲に死と絶望をまき散らしながら、まっすぐに此方に向かっている。


 立ち上がるも、ここからではまだ視認できない。だけどもうすぐ近くだ。


「ケイツ!!」

「配置につけぇっ!! 戦闘用意っ!!!」


 20万を超える人間の足踏みに地面が揺れているような錯覚を覚えた。その音が轟くだけで士気が高揚する。

 だが、地平線を隠す小高い丘の向こう側から聞こえてくる地響きが、その興奮を冷ましていった。


 ダン、ダン、ダン……と、連合軍をも上回る人数でありながら断続的に聞こえてくるということは、それほどまでに一寸違わぬ行軍をしているということ。恐ろしいまでに統率され、訓練されていることを否応なく理解させられる。

 そして地響きの原因が姿を現した。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 足音より声の方が大音量なのは当たり前だ。だが地響きすら引き起こすほどの大軍勢の雄叫びは想像を遥かに上回り、極限まで高まっていた連合軍の心を呆気無くへし折った。

 そしてそれらを率いるように先頭を悠然と歩む、黒い羽織をまとった魔王。


「はい、ドーン」


 落とし穴発動! まさか仕掛けていないとでも思ったか! ここ最近無かったから油断していたろう。1200年続いた戦争の決着? 宿命の対決? 知るか、なりふり構ってる余裕なんか無いんだよ!


「おいユート」

「なんだよ。どうせもうブチ切れてるんだから、もう一回くらい落としてもいいだろ?」

「いや、落ちてねーぞ」

「え?」


 ドーン、という轟音と共にゲンサイの1歩が落とし穴を周囲の岩盤ごと踏み砕き、更なる1歩で瓦礫に埋まった穴を踏みならす。できあがったのは大きな穴ではなく、あそこちょっと凹んでない? ぐらいの窪地だった。




 ほあ!? え!? 1000人は入れる大穴だったんですけど!? 結構な被害が出るはずだったんですけどぉ!!?

 おおお、なんてことだ。ゲンサイを落とし穴にはめて皆の緊張をほぐしてやろうと思ったのに、むしろ奴の人外っぷりを強調してしまった。


「ケイツ、信じられるか? 俺、今から……アレと戦うんだぜ?」

「泣ける話だな」


 主に俺がな。


「心底気の毒だとは思うがな。見ろ、刀を振りかぶってやがる。しかもめちゃくちゃデカくなってんだぜ? ありゃ、お前じゃねーと止められねーよ」


 うわ、マジだ。アレを放置すると、こんな砦なんて一撃で吹き飛ばされる。っていうか戦争が終わる。なんたって山を吹き飛ばす一撃だ。


「来い、ジル! 魔導兵装・CODE-DeepBule!!」


 全身に光の鎧をまとう。この状態ならゲンサイの攻撃にだって耐えられることは、既に実証済だ。だけど今は後ろに大勢の仲間がいる。俺1人が無傷なだけじゃ意味が無い。


「パクらせてもらうぞ、ゲンサイ!」


 腰の剣を引き抜く。昨日ガガンから受け取った時にも思ったことだけど、驚くほどに軽い。無骨に性能だけを求めていた今までの剣とは違い、意匠も凝っている。作った本人はまだまだ不完全だと言っていたけど、これはいい剣だ。

 前の愛剣と同じく疑似EXアーツの機能を備えた剣に魔力を流すと、高い親和性を持つ刀身は俺の体の一部になったかのように、魔導兵装の青い光に包まれた。

 そしてゲンサイがそうしているように、どんどん魔力を流し込んで光を巨大化させていき、完成したのはゲンサイの闇色の剣とそっくりな光の剣。


 およそ4kmは離れた距離から、剣と剣をぶつけ合う。


 結果は、互角。これには正直、俺のほうが余程納得がいかなかった。だってこっちは「世界」だぞ。悪意単品で互角なんて、世知辛いなんてものじゃない。もちろん戦争の最中だからというのも理由なんだろうけど、餓獣問題などなど、それだけ世界中に苦しんでいる人達がいるということなんだろう。


 ともあれ相討ち、相殺だ。押し負けたのなら大問題だが、そうでなければ何とかなる。


『うわあああああああああああああああああああああああああああ』


 だけど俺の方が後出しで攻撃した分、セレフォルン側に近いところでぶつかりあったせいで、兵士達が余波で吹っ飛んで行ってしまった。半分は俺のせいだけど、余波でこれかよ。こりゃ砦や城壁の近くで戦ったら、意図せず破壊してしまいそおうだな……気を付けよう。


 しかしまずは眼前の問題だ。隊列の乱れた連合軍に、好機と見たガルディアス軍が突撃してきた。

 対する連合軍は、前列が余波でガタガタになっているために後列が身動きできず、吹き飛ばされて地面に転がった兵士達が起き上がって隊列を組みなおすには、あまりにも時間がない。

 バタバタしている内に、ガルディアス軍から魔法が飛んでき始めた。まだ距離があるかげで、ここまで届く魔法は多くない。が、このままではとてもじゃないが勝負にならない。


「後退!! 外城壁まで戦線を下げろ!!」


 ケイツの素早い指示が飛んだ。背後に王都を背負っている状況から考えれば、むしろ素早すぎて問題なくらいに早い。

 といってもケイツの言葉にあったように、ここは王都を守る二枚の城壁の外側ではなく、それよりも更に外に俺が作った即席の砦だ。なのでここを手放しても、当初の予定通りになるにすぎない。


「砦に火を放て! このままの状態で使わせるな!!」


 セレフォルン軍から火の魔法が飛ぶ。が、それはあまりに弱く、油などを用意していたわけでもない石の砦を燃やすには到底足りなかった。

 多少焦げ目がついた程度で、砦を放棄して撤退する。その無様さに、ガルディアス軍の嘲笑が背中を叩く。だが、それでも構わず俺達は撤退を続けた。


 当然のようにガルディアス軍に奪われた砦。俺達は外城壁から、その砦の天辺にガルディアス帝国の旗が掲げられるのを眺めていた。



 と、まあここまでは予定通りだな。

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