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俺にドラゴンを殺させるとか

「この化け物めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 振り下ろされた剣を素手でつかみ取ると、剣はドロリと溶け落ちた。俺の「世界」の中には火もたくさん含まれているのだから当然の結果だ。矢は風によって方向を変え、魔法は喰らってエネルギーに変える。


「化け物か。まったくだな」


 彼らのか細い攻撃は、1つとして俺には届かない。魔力も、周りに数えきれないほど転がっていて食べ放題だ。具体的に言うと10万人分ほどある。まあノーナンバーも混ざっているだろうから、実際にはもっと少ないだろうけど。

 ガルディアス軍から見れば、まるでゲンサイと戦っているような気分だろう。敵の攻撃によって俺が傷つくことがない、という点では同じだ。


 なら余裕で勝てるのかというと、そうもいかない。ただ耐えるだけなら何時間でも耐えられるだろうけど、俺はコイツらを殺しに来たんだ。魔力を大量に消費して発動する広域魔法。そしてそれに飲み込まれて消えていく燃料達。力任せに戦っては、いずれ魔力が尽きて無力化するのは目に見えている。

 じゃあ魔法に頼らずにに戦えばどうなるか。魔法を防御にのみ回して、剣で攻撃していけば魔力が枯渇する心配は無い。が、体力が尽きる。眠っている間も魔導兵装を維持できるかどうかは、残念ながらまだ試していない。


 そして何より、精神がゴリゴリと削れていく音が聞こえているような気がするのだ。

 俺を殺そうと目を血走らせて襲い掛かって来る人の群れ。それらを殺していく自分。むせかえるような血の匂い。常に背に死神を背負っているかと錯覚するプレッシャー。

 この場の人間全員の一挙動一投足が、この場の空気が、何もかもが俺の精神に負荷をかけてくる。正直、まだ始まったばかりだというのに頭がどうにかなりそうだ。


「死ねぇぇぇ!!!!!」

「ああ、死ね」


 頭を掴み、首をへし折る。なるべく血を浴びたくなくての選択だったが、後頭部が背中に付いた状態の死体とたまたま合わさった虚ろな視線が、心に重くのしかかってきた。


 何も見るな。何も感じるな。何も考えるな。


世界が命じるオーダー、水! 雨を!!」


 何も無いところに魔力で水を生み出すと、消費する魔力が激増する。なので空気中の水蒸気を集めて無理矢理に雨を降らせる。だけど所詮は無理矢理だ。周囲の水蒸気をかき集めても、それほど広範囲には降らせることが出来なかった。


「仕方ないか。オーダー、雷!」


 電光が弾けた。雨に濡れた地面を走り、その範囲に立っていた人間に流れ込む。人間の焼ける臭いに吐きそうになりながら、走る。


 雑魚ばかり相手にしている場合じゃない。この戦い、最初から一人の人間だけを俺は狙っていた。

 むこうも俺の狙いに気づいたのか守りを固め始める。人間の兵士なら何人いても突破するのに苦労はしないのだが、もっとも警戒すべきヤツらも集まってきてしまった。


 ドラゴンだ。

 種類は色々入り混じっていて分からない。分かるのは、そんな同一種でもない多種多様なドラゴンをまとめ上げていたボスドラゴンが相当な力量をもったドラゴンだったのだろうということだ。

 ロンメルトの予想通りなら、そのボスドラゴンの血を注入してドラゴン達のボスの座をかすめ取った人間が、今このドラゴン達を操っていることになる。


 逆に言えば、そいつを倒してしまえばドラゴン達は自由になる。そしてこの場にはドラゴンの餌になる人間がウジャウジャ……さぞ暴れてくれるだろう。

 敵の敵は、やっぱり敵なんだけど、相討ちになってくれるなら味方みたいなものだ。


「俺にドラゴンを殺させるとか、お前ら正気か? 覚悟できてるんだろうな!」


 今まで散々探してほとんど見つからなかった原種ドラゴンが100匹だぞ、100匹! なんで俺がそれを殺さなきゃいけないんだよ!? おかしいだろ、どー考えても!!

 ガルディアス軍だけを狙ってくれるなら殺さなくても済むんだけど、王都に向かうドラゴンもいるだろうからな。さすがにそれはマズイ。だから、だからここは涙を呑まなければならない。血の味がする涙を。


「ちっくしょう!!」


 すれ違いざまにドラゴンの翼を切り落とす。すまない、王都に行かせずにガルディアス軍と戦わせるには、こうするしかないんだ。

 俺が一瞬でドラゴンを撃墜したことにガルディアス兵が慌てた。その中で1人だけ余裕を感じさせる兵が1人。アイツか。100匹のドラゴンを支配して、かつ強大なドラゴンの血を手に入れているんだ。それがあの余裕の正体と見た。


「オリジン、か。かつては聖霊のごとく敬愛していたが……今の私から見ればなんと卑小なことか」

「その血を取ってきたのは鐵のオリジンだろうが」

「あの御方は別格だ」


 そりゃまったく同感だけど、さすがに俺のことナメ過ぎじゃないかな? 確かにドラゴンは強いよ。普通なら世界最強の生物だ。だけど……餓獣王ほどじゃない。所詮は常識の範疇、獣の中の王者だ。


「我が血肉となりし、ジャッジメントドラゴンの力を受けるがいい!」

「うおっ!?」


 空から光の柱が降って来た。ギリギリで避けられる、と思ったら方向を変えた!?


「ぐっが、ああああああああああ!!?」


 油断していた。魔導兵装を突破できないと思っていた、なんの覚悟もしていない状態での激痛。これはきつい。

 ジャッジメントドラゴンって言ったか? 確かセレフォルン城にあったドラゴンの図鑑で見た記憶がある。だけどその能力までは覚えていなかった。


「なんだ、今の……」

「ジャッジメントドラゴンの裁きからは逃げられん。罪に追従し、罪の重さに比例して威力を増していく」

「なるほど」


 魔導兵装をスルーされた理由はわかった。罪に対する罰、なんて土や風等々で防げるものじゃない。そもそも罰を防ぐってなんだよ、って話だ。

 だけど無防備に食らったわりには、俺は死んでいない。


「その罪っていうのは、誰が決めるんだ? 何を基準に決めるんだ? 法律なんて、国が違えば変わってくるだろ?」

「そ、れは……」

「殺すのは罪か? いいや、生きるためには絶対に何かしらを殺す。俺がお前らを殺すのは罪か? いいや、殺さなければ俺達が殺されるんだ。それが罪だなんて認めない。だからお前らが俺を殺すのも罪だとは思わない」


 だがもし、誰が決めるでもなく「罪」と断定できるものがあるとすれば、それは「生きるために必要ではないのに殺す」ことだと思う。

 だとすれば俺の罪は、迷宮で殺した明らかに格下の餓獣達の分だな。殺される心配もなく、お金が必要だったわけでもなく、念の為程度の気持ちで殺しておいた、あれは罪だ。


「だとしたらぬるい裁きだな。命を奪った罪への罰が、この程度だなんて」


 きっとそれすら罪に入っていない。だとすればジャッジメントドラゴンが裁く罪ってなんだ? 誰が決めている? そんなもの、裁いているジャッジメントドラゴン自身に決まってるだろ。


「結局のところ、ジャッジメントドラゴンがムカついたかどうか、だろ? この痛みは、さっき仲間の翼を切り落とした分か」

「そ、そんな馬鹿な。話が違う」


 その話ってゲンサイからの情報だろう? あの人はきっとジャッジメントドラゴンの所に辿り着くまでにさんざん他のドラゴンを殺していただろうから、相当な威力だったはずだ。傷つかなくても裁きの分の痛みは通っただろうし、たぶんこの世界で一番ゲンサイを痛めつけてみせた敵に違いない。

 だけど俺は、コイツの前では仲間のドラゴンの羽を斬った以外は怒られるようなことはしていない。その罰も、もう受けたしな。


「さ、さんざん僕らの同志を殺してるくせにぃーーーーー!!」

「むしろお前らが恨まれてる側だろ」


 殺して仲間を操ってるんだからな。

 っていうかお前そんな喋り方だったのか。他人から貰った他人の力に、薄っぺらな仮面。こんなヤツに良いように使われているドラゴン達が哀れで仕方ない。最終的には死んでもらわなければいけないとはいえ、ひとまず解放してやるからな。


「お前らしさを出して死んでみろ」


 ぎゃーぎゃーと悪態を吐く口をふさぐように顔を掴み、俺に噛みつこうと向かってきていたドラゴンの口

を目がけて放り投げてやった。


「待て、待て待て待って! 口を閉じるなあああああぎゃああああああああああああああ!!!」


 もうちょっとオリジナリティが欲しかったかな?

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