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じゃあ、後は頼むよ

 セレフォルン王都は賑わっていた。最初は良い意味で、今は悪い意味で、だ。


 俺が宣言通りにアルスティナ達を救出して帰ってきたことで、絶望していた多くの人達が息を吹き返すように活力を取り戻した。ガルディアス帝国の奴隷になるのだと思っていたところから一転、まだ戦える、まだ勝機があると、民間人が自主的に義勇兵を募って登城してきたくらいだ。

 これから始まる大逆転劇を夢想して、あるいは身近な人の仇を討てると歓喜して、それはもう盛り上がっていた。


 それが今は喧騒に変わっている。


「なんつー数だ。あちらさん、出せる船を全部出しやがったな」


 ケイツが望遠レンズから顔を離して、そう呟いた。バルコニーから身を乗り出しながら見ていたソレを、俺も見る。もう肉眼で確認できる距離まで近づいていた。


 ガルディアス帝国の浮遊船が1つ、2つ、3つ……っていうか数えるのめんどくさい。


 ノンストップで空をかっ飛び、やっとセレフォルン王国に帰ってきて、よし生還を祝ってパーッとやろう! って時にコレだ。気の休まる暇ぐらいくれたっていいだろうに。


 さすがに疲れ果てていたアルスティナと琴音と智世。あとお子様2名はお休み中だけどな。リリアはお子様にカウントされるのか疑問だったけど、体は子供だから寝ると押しきられた。

 という訳で今この場にいるのは俺とケイツ。それとロンメルトの3人だけだ。リゼットはというと--


「見てきたぞ」


 バルコニーに通じる窓から風が吹き込み、バサバサと音を立てて翼竜アインソフが舞い降りる。その背中から、浮遊船の偵察に行っていたリゼットが飛び降りた。


「良い知らせと悪い知らせがある。どちらからでも構わないが、おすすめは良い知らせからだ」

「そうだな。なら、おすすめで」

「わかった。アインソフに乗り、可能な限り近づいて全ての船を見て回ったが、どうやら鐵のオリジンは来ていないようだ」


 それは素晴らしいね。

 一度は敗戦同然まで追い込まれたセレフォルンの、それもゲンサイに壊滅させられた王都には大軍を迎え撃つ用意なんて無い。兵士すらろくに集まっていないんだからな。そんな状態でゲンサイの相手なんかしてられるか。


「ふはははは! では全て雑兵ということであるな!」

「そうだ。見た所、およそ10万のたかが・・・雑兵だ」

「じゅっ……!? ふ、ふはは、なかなかではないか」


 なかなかで済むかよ。セレフォルンの動かせる全兵力とほとんど変わらないぐらいだぞ。ガルディアス帝国の総兵力はセレフォルンの倍以上らしいから、ほぼ半分を動員してることになる。俺達が軍備を立て直す前に、全力で叩き潰す気か。しかも誰1人として逃がさないつもりなのか、ばっちり全方位から包囲してくれている。

 しかしゲンサイが来ていないのは、なんでだろ? ガルディアス帝国は完全にこの一戦でセレフォルン王国の息の根を止めるつもりだっていうのに。


「おおかた、疲れてるお前と戦ってもつまらないとか考えてやがんだろ」

「いかにも言いそうだけどさ」


 そんな感じの事を言って皇帝の命令を無視するゲンサイの姿が容易に想像できる。この大軍勢を撃退しようとすれば、セレフォルン側も大損害を被ることになる。その後にのんびりやって来れば、煮るのも焼くのも自由自在というわけだ。


「けど、このピンチを損害を抑えて切り抜けられれば、一気に俺達の大チャンスだよな」


 なにせ敵の半分だ。俺達オリジンを抑え込む「化物」もいない。うまくやればこっちの戦力を減らすことなく、敵の戦力を激減させられるってことだ。

 そうなれば残ったガルディアス軍とオルシエラ、セレフォルン連合軍の数は対等になる。俺がゲンサイを抑えれば、むしろ俺達の方が有利なくらいだ。


「そういうこった。で、悪い知らせってのは?」

「龍がいる」

「……は?」


 龍。つまりドラゴン。人に使役されるなんて、まず有り得ない怪物中の怪物。だからこそドラゴンと絆を結んだリゼットは竜騎士として世界中に名を轟かせたわけで……そのドラゴンが敵にいるって?


「敵にも竜騎士がいるってことなのか?」

「いや、そうではない。あれはそんな生易しいものではない。どんな手を使ったのか……およそ100近いドラゴンが浮遊船に追従しているのだ。統率されている様子さえあった」


 100!? それは確かに竜騎士の可能性が低いな。なにより、そんな簡単にマイドラゴンを手に入れるなんて、神を許しても俺が許さん。

 ということでガルディアス帝国はなんらかの方法で龍を支配する方法を手に入れたと見るべきだ。


「余に心当たりがある」

「ホントか王様!?」

「ユート、お主も知っているであろう? 余の父上の研究を思い出すのだ」

「父……マクリル先生か」


 マクリル先生の研究は確か、餓獣の血液を人間の中に入れることで、餓獣の能力を手に入れることだったな。


「余の父、マクリル・アレクサンドルは海王フォカロルマーレの血を注入し、その能力を得た。そして海の餓獣を支配していた。そうであろう?」

「そうか! ドラゴンのボスを殺して血を奪えば、ドラゴンのボスに成り変われるかも!」

「うむ。あちらにはそんな怪物も簡単に仕留めて持ち帰れる男がいる」


 アインソフが平気そうにしているってことは、あのドラゴン軍団は元々1個の群れだったのかもしれないな。1匹のボスが従えていたドラゴンの群れ。クッ、そんなパラダイスが存在していると知っていれば遊びに行っていたのにっ!!


「なんでおめーは悔しそうなんだ」

「そっとしてやってくれ元帥殿。ただの発作だ」


 人を病人みたく言うな。

 けどロンメルトの仮説は、可能性としては十分あるそうだ。マクリル先生の家……つまりは研究室は、ガルディアス帝国の領土にある。別に壊したりもしていないのだから、研究内容は持ち出し放題だ。ましてやガルディアス帝国のオリジンであるゲンサイは、まさにその研究の成果をその目で見ていたんだからな。


「おのれ、余の父上の研究を勝手に……ましてや人殺しに利用するなど、断じて許せぬ!!」


 ロンメルトのやつ、今にも剣を持って飛び出してしまいそうだな。


「落ち着きやがれ! この戦が今後を左右すんだ。考え無しで戦うなんざ、それこそ許されねぇ。見ろ、もう日が暮れる。敵さんもこのまま夜中に攻め込んでや来ねーだろうし、一晩じっくり考えようや。こっちの被害を最小限に抑えて、敵さんをぶちのめす最善の方法をよ」


 ぐぬぬと唸りながらもロンメルトは引き下がる。

 それでひとまず解散という流れになった。これからどうするかは皆が起きてから考えるとして、まずは休もうと。特にリゼットは女の子だし掴まっていたしで疲れ果てているはずだ。あ、ケイツも捕まってたっけ。まあアイツはいいや。


 さて、浮遊船でやってきたガルディアス軍も予想通り一晩休むつもりなのか着陸し始めたし、俺もそろそろ行こうかな。




「待てユート。お前の部屋はそっちじゃねーぞ?」


 目ざといな。まあ最初からケイツには話して行くつもりだったけどさ。


「被害を最小に抑える方法なんて、話し合うまでもなく分かってるだろ?」

「馬鹿野郎! それで失敗すりゃあ、次の戦いどころじゃねぇ! ここで全部終わっちまうぞ!?」

「なら、終わらないようにしてくれ」


 俺も、そうならないように頑張るけどさ。


「じゃあ、後は頼むよ」

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