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お前はどこの主人公だ

 ロンメルトが、どうなったって言うんだ……。


「あの王子は、そもそも捕まっておらんのではなかったかの?」

「へ?」


 え? いや捕まってるだろ。だって王子だぞ? ガルディアスの王子で、しかもシャロンが死んだ今、唯一の王位継承者だぞ? さすがにゲンサイも気を利かせて捕まえるだろう。


「じゃがおらんかったではないか」

「いやいや、それはやっぱり王子だから別室に幽閉されてるのかも」


 すると、助かった安堵から力なく突っ伏していた琴音がおずおずと手を上げた。学校じゃないんだから手を上げなくていいんだぞ?


「ロン君は捕まってないよぉ? 悠斗君を見つけて助けに行くって言って、ギリギリで逃げれたもん」


 ……そうなの? そういえばアンナさんが言ってた捕まった人の名前の中にも、ロンメルトの名前は無かったような。

 しかし確かにゲンサイから逃げて助けを呼べるとしたらロンメルトかリゼットくらいだったろうけど、あいつにそんな合理的な判断ができたとは。結果的に意味は無かったけど。


「というか、アレではないかの?」

「アレ?」


 アレ、と言われて指差された地上を見下ろすと、全身鎧の男が荒野を全力疾走していた。ああ、アレだ。


「王様!!」

「おお、おおおおおおおおおお!! ユート!!」


 地面ギリギリまで高度を下げてもらって声をかけると、もうそろそろ死ぬんじゃないかって疲れ具合になっていた。


「ぜえ、ぜえ……良いか、落ち着いて聞くのだ。コトネ達が捕まったのである」

「あ、うん、知ってる」


 俺の言ってる意味が一瞬分からなかったのか、きょとんとなった。そして気を取り直すように頭を振る。


「余はこれから帝都に強襲をかけ、皆を奪還する。手を貸してもらいたい」

「あ、うん、もう助けた」


 またしても一瞬きょとん、となったあと、緊張が途切れたのか糸の切れた人形のようにバターンッと倒れてしまった。あんまり大丈夫じゃなさそうな倒れ方だ。


「智世、一応回復してあげて」

「ふっ、とうとうボクの出番のようだね。悠斗だけにいい格好はさせない。これがボクの新・必殺技だ!」


 ロンメルトの頭に3連射で生卵がぶつけられた。まあこれで大丈夫だろ。


「ふっ、ただ3回投げただけじゃん、とは誰も言ってくれないらしい」

「面倒じゃ」


 



 その後、目を覚ましたロンメルトの話を聞くに、ゲンサイと戦ったヴァーリデル山脈付近で俺を探している途中、アルスティナ達の処刑の話を聞いて慌ててやってきたらしい。1人じゃどうにもできないだろうに、行く村々で騎獣を買っては限界を超えて走らせ、着いた村で売り払って新しい騎獣を買う、を繰り返していたそうだが、それでも間に合いそうに無く、アシストアーマーをフル稼働させて走っていたのだとか。


「それ、帝都に着いてもフラフラで何もできないだろ」

「ふはははは! 本当であるな、考えておらんかったわ!! だが良かったぞ、皆が無事でな! ふははははは!!」


 笑い飛ばしてるけど、リリアが下を走ってるロンメルトに気付かなかったら、コイツ自分から捕まりに行くところだったんじゃ……。危ない危ない。


「ああ。こうして生きているのはユウトと魔女殿のおかげだ。心より感謝する」

「まったくだぜ。さすがにもうどーしようもねぇと思ったが、まさかあそこからひっくり返してくれるたーなぁ」

「えええええーーん!! 怖かったよぉ、お兄ちゃーーん!!!」

「おっと」


 飛びついてきたアルスティナを受け止める。さっきまでグッタリしてたから心配だったけど、元気になったようで何よりだ。なにせタックルの勢いで、オル君の上から落ちそうになったくらいだからな。


「しかしアインソフよりも立派なドラゴンだが、これが本当にあの小さなオル君だというのか?」

「ミギャオ」

「アッドアグニと同じだよ。魔法で体を作ってるだけで、本体は小さいまま」


 リゼットが感心したようにオル君を撫でている。やっぱりドラゴンへの興味が先立つみたいだな。いや、当たり前か。だってドラゴンだもの。


「そんなことよりもよぉ、いや同じ意味かもしんねーけど、すげえじゃねーかお前の魔法。あのゲンサイと互角にやり合ってみせるたぁな」


 互角か。ケイツにはそう見えたのかもしれないけど、果たしてどうだろうな。

 あのまま続けていたとして、最後に立っているのは俺だったか? いや、きっと違う。確かにスペックでは互角か、あるいは上回っていると思う。だけど結局、俺の魔法はゲンサイの「魔王の体は何者にも傷つけられない」というルールを突破できていない。ダメージを与えられないのに、どうやって勝つんだって話だ。


「仲間のピンチに覚醒するとか、お前はどこの主人公だ」

「別にあの瞬間に覚醒したわけじゃないし」


 過去の時代であった出来事を話そうかとも思ったけど、やめた。特にみんなに得るものがある話でもなし、リリアもいることだしな。


「ほう? それは興味深いな。余は見ておらんのだ、話すがよい」

「基本的には今までと同じだよ。ただ、体を動かすのは俺が、魔法を使うのはジルが、って風に役割分担することにしたんだ」

「それだけじゃ、あの体が青くなってたのは説明できねーだろ?」


 まあそうだよな。世界ジルを着た結果って言っても俺以外には意味わからないだろうし……そうだな。


「俺の魔法はさ、この世界にある物を食べて自分の物にしてしまうものだろ? 一旦ジルの中に溜め込んで、自由に吐き出す。でさ、食べたものが胃袋の中でどうなってるのかっていうと、ぐちゃぐちゃに混ざってる訳だ。その世界中のいろんな物が混ざりまくった魔法と合体することで、俺の体は地面みたいに固く、風のように軽やかになる……って感じかな?」


 言葉にすると難しいな、これ。感覚的にはこれ以上無いってくらい理解できてるっていうのに。


「あー? つまり、食ったもんをそのまま吐き出すだけじゃなくて、混ぜられるようになったってことか?」

「ああ! うん、そんな感じ。それで今はオル君がやってる「魔導兵装」は、持ってる材料を全部混ぜて作ったオリジナルの強化魔法だと思ってくれれば、まあ間違ってないかな」


 なんとかゲンサイの反則めいた性能に追いつこうとして編み出したものだし。


「ってこたぁ、火と地を混ぜて「燃える岩」とかも作れんのか!」

「……作れるけど、それはただの溶岩じゃないのか?」

「ふははははは、バカめ! 「氷の水」などであろう!?」

「うん、それは氷だな」

「ボクは理解したよ。つまり「凍る炎」とかだろう?」

「さすが厨二」


 ただし冷気を炎の形にする意味はまったく無いけどね。

 でもまあ、そういうことだ。俺が今までいいようにやられてきた相手……世界のルールをガン無視してるような連中と同じく、俺も世界の法則を無視したものを合成して生み出せるということだ。柔らかい石とか、遅い光線とかね。


「だがユウト。それでも鐵のオリジンの防御は突破できないのではないか?」

「鋭いね、リゼット。さっき戦ってみて確信したけど、まったく通用する気がしない。ヴァーリデル山脈での戦いでケイツが見抜いたように、世界のルールから外れた攻撃は無効化はされないけど、傷つけられもしない。「傷つけられない」のルールが厳しすぎる」


 ただ堅いだけなら、威力を上げ続ければいつかは砕ける。だけどアイツはそもそも、傷1つ付けられない。その鉄壁のルールの前に、ダメージが届いてすらいないんだから困ってるんだ。


「今から魔王の倒し方を物語にして広める時間はねーからな」

「ああ。今ある条件の中で突破口を見つけないといけない。……けど、実はそれについては当てがあるんだよね」

「マジか!?」

「マジだ」


 間に合うかどうかは分からないけど、アレならきっとゲンサイの防御を貫ける。

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