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これが『世界』だ

 マジでギリギリだったな。

 特に頑張ってくれたのはアインソフだ。帝都に向かっている途中で偶然見つけて合流したんだけど、ボロボロの状態でよくやってくれた。

 アインソフが骨折した翼で、それでも俺を乗せて飛んでくれていなかったら、たとえ間に合ってもゲンサイの攻撃を止めることはできなかった。なにせ俺の移動手段の最中は、今のこの魔法の使い方ができないからな。


 全身に纏っている青い光は、その光の色が示す通り、魔法ジルだ。


「魔導兵装・CODEコードDeepBlueディープブルー


 何度も言っていたことだ。ジルは、俺だと。俺自身だと。


 一度EXアーツとして顕現したジルを、再び俺の中に戻す。ただし、魔法としての形を崩さないままにだ。

 その結果、俺はジルを「着た」。もともと同じ存在なのだから、そう、難しいことじゃない。つまりは合体。片方だけの意思では成しえない、術士と魔法の両方の意思がある俺達だからこそ可能なのだとジルは言った・・・・・・


「ほう?」


 新しいオモチャを見つけたような目でゲンサイが俺を見た。そうだ、こっちを見ていろ。その隙にリリアが皆を解放してくれる。

 俺の仕事はそれまでの間、ゲンサイを引き付けておくことだ!


「止めたか」


 横に振り上げた剣に衝撃が走る。相変わらず凄まじい速さと鋭さだけど……見える。

 以前までなら反応すらできなかっただろう。だけど今は違う。俺の中にいるジルが電気信号に干渉し、全ての動作が加速する。人間の限界を超えた速度で反応できる。


「どんな手を使っているのかは分からんが、不可解なまでの反応速度。だがな深蒼、それだけではどうにもならん攻撃など、いくらでもあるぞ?」


 背後に回り込むつもりか!

 死角……見えないところからの攻撃なら、確かに反応速度以前の問題だ。防ぐためには、ゲンサイの移動速度を上回って死角を取らせないようにするしかない。俺にはそれができない……とでも思っているのか?


「舐めるな!」


 ゲンサイがどんなに速かろうと、魔法も何も使っていない状態で追いつけないと思っているなら心外だ。普通の人には見えないような速度だろうが、今の俺には少しゆっくりに見えるくらいだ!


「舐めてなどいない」


 しまった! 回り込む動作に見せかけて、実際は刀の鞘での殴打。こっちが本命か!


「反応が早いからこそ、つられてしまうだろう?」

「だけど、それも見えてる!」


 両手で持っていた剣から右手を離して鞘を受け止める。それなりの衝撃が来るかと思っていたのに、苦も無く掴めてしまった?


「だろうとも。だが、思考速度まで速くなったわけではないようだな」


 左から刀が飛んでくる。さすがに経験値が違いすぎたか、いいように翻弄されてしまったらしい。だけどな、ゲンサイ。どんなに近接戦闘能力が上がったとしても、俺はやっぱり魔法使いなんだよ。


「どうだ? 俺の魔法は」

「……見事」


 ゲンサイの刃は、届かなかった。

 ゆらゆらと揺れながら俺の体を包んでいる光は飾りじゃない。ゲンサイの刀は、光の膜でしっかりと防ぐことができた。


「これは世界だ。これが『世界』だ」


 ジルの力で喰らった物全てが、今この光の中に宿っている。今までジルの中にあったものが、今は俺の中にもある。

 今の俺は大地のように固く、光のように早く、風のように鋭く、水のように柔らかく、炎のように熱く、木のようにしなやかになれる。今までに食らった「世界」を、ジルが状況に応じて俺の意思をくみ取り、行使する。魔法のことはジルに任せて、俺は目の前の敵に専念できる。


 俺がゲンサイに勝つには……技術でも経験でも劣る俺が勝つにはどうすればいいのか。その答えがこれだ。


「俺が世界だ。斬ってみろ、侍」

「ああ斬ってやろう。世界ごと、貴様を」


 一緒に戦おう、ジル。俺達は1人だけど、2人だ。そして世界さえも俺達の仲間だ。質で勝てないから、量で勝てばいい。そして塵も積もれば、山だって上回れる。

 油断するなよ。世界中のあらゆる力を取り込んでも、本当にまとめて斬りかねない男だからな。なにせ悪意限定とはいえ、俺と同じく世界中からかき集めることができる男だ。


 ゲンサイの右目が邪悪に光る。ドス黒いオーラが吹き出し、周囲を染め上げていく。その姿に、処刑を見に来ていた民衆は恐怖するだろう。そして、それがまたゲンサイの力に変わる。

 全世界の負をエネルギーに変え、全世界の「魔王」のイメージを体現する男。魔王、ゲンサイ。


 ゲンサイの刀に邪気が吸い込まれ、刀身を黒く染めていく。

 防いでやる。ゲンサイの攻撃を全て躱せるはずがない。防げるくらいでなければ、この男とは戦いにすらならない。必ず防ぐ……いや、迎え撃ってやる!!


 魔導兵装に込める魔力をより高める。ジルもまた、迎撃に最適なパーツを厳選していた。最初の頃はあんなにも苦労したのに、今ではガルディアス兵から大量に魔法を食らったおかげで選り取り見取りだ。


「では参るぞ、世界」

「来い、魔王」


 天を突く勢いで伸びていた刀が振り下ろされる。受け止めるように、俺も目いっぱいの力を込めて剣を振り上げる。


 ぶつかり合った余波で舞台が砕け、足場を無くした体が吹き飛ばされた。

 後ろの方で観衆も吹き飛ばされたり、逃げ惑ったり、ひどい有様だ。などと考える余裕がある程度にはダメージは少ない。というかノーダメージ、ただ吹っ飛んだだけだ。どうやら完全に互角で、相殺したようだ。


「くっふ……ふっふふふふふふ。相殺、相殺だと? ふっふふふふふ」


 刀の一振りで煙を吹き飛ばし、すごく嬉しそうなゲンサイが姿を現した。当然のように無傷だが、俺と同じく飛ばされたのか少し距離が遠い。

 その距離を詰めるために、ゲンサイが歩きだした。


「見事だ深蒼。お前が初めてだ。ようやく、ようやく己の限界を試せる相手が現れた。ようやくだ!!」


 もっと戦おう。そう言うように刀を掲げて歩み寄ってくる。俺の答えは決まっていた。



「やなこった」



 もうとっくにリリアが全員救出してるんだよ。智世の魔法でアインソフを回復させたのか、ユリウスの友達の鳥さん共々、空の上だ。ユリウスの呼んだ鳥(たぶん餓獣。ヨダレ垂れてるし)は2人しか乗れないので、残り5人はアインソフの背中に。さすがに重いのか必死に翼をバタつかせている。


「正気か? ここで逃げるだと? ようやく楽しくなってきた所だというのに!?」

「むしろベストタイミングだろ」


 なにせ俺は全然楽しくない。

 そもそも敵地のど真ん中で戦ったら、仮に勝ててもその後で袋叩きにされるだろうし。ましてや俺がゲンサイにかかりきりになってる間にアルスティナ達が襲われたら大変だ。


 なので逃げる。戦いたければお前が来い。


「魔導兵装・CODE-|Orijinalオリジナル Dragonドラゴン


 ジルが俺の体から飛び出し、オル君の中に飛びこむ。

 さあ、ついにお披露目の時だ。ぶっちゃけ俺が変身した時よりもテンションが上がる。見ろ、そして見ろ、更に見ろ! これが俺の、お、れ、の、ドラゴンだっ!!!!!!!!


「みぎゃおーーん」


 ……やや鳴き声がかっこ悪いけど、気にしないでほしい。

 オル君を巨大化させた20M近くある体。サファイアのように光り輝く青色の鱗。そして空を飛ぶための立派な翼。どうぞ見てくれ、これが俺の相棒だ!


 俺が背中に乗ったことを確認し、オル君が空へと舞いあがる。ついでに言うと俺も二つの意味で舞い上がっている。どうでもいいか。


「逃がさん!!」


 下からゲンサイが何か飛ばしてきたが、それが何か確認する間もなくオル君の鱗に弾かれた。


「無駄だよ。基本的にやってることは俺の時と同じだから」


 俺の魔力に馴染んでいるオル君だからこそ、ジルと合体できるのだ。ちなみに本当にオル君が巨大化したわけではなく、迷宮で戦った火岩のアッドアグニに着想を得て、オル君の体に岩などで仮の体を作っているのだ。本体は視覚と声の都合上、頭の部分に収まっている。


 ゲンサイの殺意を受けながら高度を上げていく。さすがに「魔王は空を飛ぶ」とか具体的なことを考えているヤツは世界のどこにもいなかったようだ。良かった、マジで。


「サバ子、王様は?」


 ここに来た時から気になっていたんだけど、ロンメルトがどこにも居なかったんだよな。さすがに実の息子は処刑できなかったのか? それとも、もう……?


「小僧。あの王子は……」

「サンド」アーマードラゴンは実現せず

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