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最後の最期まで足掻こうよ

 なんだこれ? これじゃまるで……。


「攻め込まれたのじゃな、ガルディアスに。いや、鐵のオリジンに、かの?」


 近づくにつれて明確に見せつけられる傷跡。そのどれもがゲンサイの存在を匂わせている。一撃で粉砕されたような痕跡を残す、役目を果たせなかった城壁。そして白亜の城には、普通ならありえないと一笑する……刀で切り裂かれたかのような傷が残されていた。。

 こんな真似ができるのは、ゲンサイ以外にありえない。


「オリジン様……」

「深蒼のオリジンだ」

「時流の魔女もいるぞ」


 意気消沈となりながらも、どうにか瓦礫の片づけをしていた人達が次々と俺達に気付き、視線を向けてくる。


 その目には色々な感情が込められていた。

 助けてくれと救いを求めるように。今更どうなるものかと諦めたように。なぜ肝心な時にいなかったのかと恨むように。これで何かが変わるのではと期待するように。

 そのどれもが俺の言葉を待っていた。だけど状況を完全に把握できていない状態では答えようが無い。


「城へ行くのじゃ。誰かしら残っておるじゃろう」

「いや、待ってくれサバ子」


 視線を振り払って進もうとしたリリアを引き留める。

 あれは--アンナさんだ。なんで城の外に? それに……ユリウスもいる!


「ユリウス! 良かった、無事だったんだな! 他のみんなは!?」

「……」


 ユリウスが悲しそうに首を振った。

 どういうことだ? ユリウスがいるってことは、一緒に未来に飛ばされた琴音達もいるってことじゃないのか?


「アンナよ、何があったのじゃ?」


 地面に膝立ちになっていたアンナさんが立ち上がった。それによってアンナさんの体に隠れていた物が見えた。墓だ。2つあるけど、誰の? それに小さくて気付かなかったけど、2人の他にももう1人いた。幼い女の子だ。この子は確か、スフィーダの妹の……。


「鐵のオリジンが攻めてきたのです。兵を集める間もなく、あっという間に王都は制圧されました」

「やはりそうじゃったか」

「その子は? 確かチッタちゃんだっけ?」


 アンナさんのエプロンを不安そうにぎゅっと握ったまま、チッタは俺を見上げてきた。以前会ったことを思い出したのか、表情から不安が少し消えた。


「はい。保護者の方が亡くなったので、一時お城で保護しております。今日は、お墓の掃除に」

「保護者って」


 チッタの両親は開戦時の奇襲で既に亡くなったいたはずだ。だからスフィーダが両親の代わりにと一生懸命--


「右がスフィーダさん。左がチェルカさんのお墓になります」



「…………そんな……」

「妹さんを守るために、誰よりも先に鐵のオリジンに挑み……。チェルカさんも共に」


 必ず強くなって、俺達と一緒に迷宮に行くんじゃなかったのかよ。

 戦争やってるんだ、命が軽いことはわかってた。俺も、何人も殺してる。けど、こんな……こんなにも呆気なく逝ってしまうのかよ。ほんの少し留守にしている間に、いなくなってしまうのかよ。


 俺が……俺があの時ゲンサイを止められていれば--


「小僧」


 俺が弱かったから、俺のことを強いと尊敬してくれていた2人は!


「小僧! 過去は……変えられんのじゃ」

「ああ。そうだったな」


 過去は変えられない。それは思い知ったばかりのことだ。だから決めたじゃないか。せめて、より良い未来を掴むために努力しようって。

 後ろばかりを見るな。前も見ろ。後ろは、忘れないように時々振り返るだけで十分だ。


 ごめんなスフィーダ。チェルカ。仇は取るよ。妹も、必ず守りきる。どうか見守っていてくれ。


「……他のみんなは? 当然、戦ったんだろ?」

「はい。集められるだけの兵を集め、しかし」

「まあ、そうだろうな」


 アレは人数でどうにかなる相手じゃない。それは一度戦ったことで嫌というほど理解させられたことだ。それでも、戦うしかなかったんだな。

 そして負けた。だけど一緒に戦っただろうユリウスが居るってことは、生きてはいるってことだ。皆殺しにしてユリウスだけ見逃すような男じゃない。


 考えられるのは、捕虜か。それならユリウスだけ見逃された理由にもなる。ユリウスは変異属性ってこと以外は、何の権力も権威もない一般人だからな。


「アルスティナ陛下、琴音様、智世様、ケイツ元帥、リーゼトロメイア様は公開処刑のためにガルディアス帝国へと連れていかれました」


 ひどい話だ。

 いや、ゲンサイの力なら可能なことは分かってる。けど、戦略も何もあったものじゃない。個人が敵の本拠地に攻め込んで、そこを壊滅させ悠々と要人を捕虜にして帰っていくなんて。今まで必死に戦ってきたのは何だったんだ。


「先日の奇襲作戦で奪取した浮遊船でガルディアス帝国に戻っていったので、おそらく既に王都に着いている頃かと」



「わかった。助けに行ってくる」



「無茶です悠斗様! あれは、あの力はあまりにも理不尽です!」

「じゃあ、みんなを見捨てるのか!?」

「ですがっ……勝ち目が無いではありませんか。もし救出できても、鐵のオリジンを倒せなければ死者が増えるだけなのですよ?」


 言いたいことは分かる。ここでみんなを見捨てれば、これ以上の被害は出ない。助け出せば、戦争が再開して更なる犠牲者が生まれるだろう。

 だけどアンナさん。そんなに悔しそうに言っても説得力は無いよ。


「それがどうした。俺は不特定多数の人より、仲間が大事だ。第一、それを言うなら戦争が始まった瞬間に降伏するべきだっただろ? それが許せないから足掻いたんだろ? だったら最後の最期まで足掻こうよ」


 未来を掴むための努力ってそういうことだろ? もういいとか、仕方ないとか、そんな妥協した結果なんてクソくらえだ。


「ワシも行くのじゃ」

「当たり前だろ? 最初から勘定に入ってるよ。ユリウスも行くのか? 人間が乗れるくらいの鳥がいるなら頼む」


 ユリウスが頷いた。これで帰る手段も確保できたな。また浮遊船を奪うとなると苦労しそうだから助かった。


「空を飛んでいくから、すぐ帰れると思う。それまでここを頼むよ、アンナさん」

「……わかりました。無事救出に成功し、ガルディアス帝国の追撃があるものとして準備しておきます。どうかその準備が無駄になりませんよう……陛下をよろしくお願いします」

「必ず助けてくるから」


 こっそり助け出して逃げられるなら、それが最高だ。だけどそれが難しい状況なら……敵の本拠地で正面突破か。いや、ゲンサイはそれをやってのけたんだ。俺だって同じくらいのことができないんじゃ、どのみち未来は掴めない。いっそ、最終決戦に備えてゲンサイ本人に一当てして行くぐらいが丁度いい。


 さて、急いで行かないと処刑が始まってしまう……っとその前に。さっきからずっと様子をうかがってる人達に一言くらい言っていかないとな。


「俺は一度、鐵のオリジンに敗北した! だけどもう負けない!! その証明として、今からガルディアス帝国の帝都に乗り込んで、鐵のオリジンから陛下を救い出してくる!! 必ずだっ!!!!」

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