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未来ならば変えられるのじゃ





「小僧! 起きんか小僧!」

「ん……?」


 リリアが俺の肩を揺すっている。

 そうだ。俺達は怪しい3人の獣人の儀式に巻き込まれて……どうなった。光に飲み込まれてからの記憶がまるで無い。どうやら気絶していたらしい。


「ここは」


 荒野、か? まるで整地したようにまっ平らな地面には、申し訳程度に雑草が生えている以外は土と石しかない。いや、遠くの方には緑が見える。変な生え方してるなぁ、と思ってよく見てみると、どうやらあの緑のある辺りはここより低くなっているみたいだ。あれ? 見覚えがあるぞ。まさかここは!!


「うむ、くろがねのオリジンと戦った、ヴァーリデル山脈じゃ。まあ、山は無くなってしもうとるがの」


 ということは、元の時代に戻ってきたのか? 雑草が生えているということは、あれから多少時間が過ぎているみたいだけど、せいぜい数週間前後だろう。だけどなんで? リリアは時間移動の魔法なんて使っていない。確かにあの時、魔法は使った。でもあれは時間停止の魔法だったはずなのに。


「ワシにもよくは分からん。ゆえにこれは推測にすぎんのじゃが……あの儀式の光が関係しとるのではないかの? あれにワシの時属性が加わった結果、と考えておるのじゃが」

「リリアにわからなけりゃ、俺にもわからないよな」

「1つ言えることは、ワシは元の時代に戻ろうとして力を使っておらんかったということじゃ。つまり、あの儀式は最初から1200年後に向けられておった可能性が高いのじゃ」


 ってことは、あいつらもこの時代に用があって儀式をしていたってことか? テロスも「父さんのため」って言っていたし、この時代、この世界のどこかに居るのかもしれないな。

 けどテロスの親分--もしかしたら本当に親--だというのに、見つけ出して倒さないといけない! って気持ちにはならないんだよな。なんとなく悪い奴じゃなさそうっていうか。まあ、あの儀式がなんだったのかにもよるけど。


「すべて推測じゃよ。考えても正解かどうかすら分からんわい」

「それもそうか。ま、結果オーライってことだな」


 あの3人がどういうつもりだったのかは謎だし、あの儀式の意味も不明なままだけど、そのおかげで意図せず元の時代に帰ることができた。アランに魔力を強化してもらって時魔法を使う予定だったけど、なにせ初めての試みだ。時間移動は、行先を自分で決められるかどうかもわからない不明瞭なもの。もしかしたらうまくいかないかもしれない可能性だってあったんだから、こうして帰れたことは素直に喜ぶべきだ。


「そうだ、アラン! どうだサバ子、記憶に変化はあるか!?」


 歴史ではあの日アランは死ぬはずだったらしい。けど別れ際のアランは大ケガこそしていたけど自分の足で立っていたし、俺達を待ってるって言っていた。見た目では元気そうだったし、歴史を変えられたんじゃないか?


「最初から分かっておったことじゃ」

「え?」


 リリアの表情は、暗い。

 変えられなかったのか? もしかして、戻ってこない俺達を待ち続けたせいで?


「ワシが父様を救えば、父様を救いたいと願うワシはいなくなるじゃろう? そうすれば父様が死ぬと知らぬワシは、父様を救おうとしない。望んで歴史を変えることなど、最初から不可能だったのじゃよ。変えられるとすれば、それは意志の介入しない、偶然の結果のみ。じゃが……わかっておったが、試さずにはおれなんだ」


 じゃあ、結局あの後アランは死んだっていうのか。あの傷が原因、だよなどう考えても。アイツ、自分が死ぬってわかっていて俺達を行かせたのか。まだ方法があったかもしれないのに……助けられたかもしれないのに。


「……そうか、アランも気づいてたんだな」


 そうでなければ、ウソをついてまで俺達を行かせる理由なんてない。先に帰ってるとは言わずに、待っていると言ったのは、ひょっとしたらもう動くことさえできなかったからなんじゃないか?


「じゃろうな。ワシが助けたいと願っているからこそ、父様は死なねばならんかったのじゃ。……父様のウソつき」


 だけどそんなのって……。じゃあ変えたい過去ほど絶対に変えられなくて、どうでもいいことばかり変化していくって言うのか。悲しい思い出があって、過去を変える方法を持っているのに、それだけは変えることが許されないっていうのか。

 それは、あまりにも残酷じゃないのか。それならいっそ、過去に戻れるなんて知らない方が幸せだ。


「……じゃが、未来ならば変えられるのじゃ。小僧も本当ならば、もう死んでおったはずなのじゃからの。より良い未来を掴むためにこそ、ワシらは努力せねばならんのじゃ」


 そっか。そう、割り切ることにしたんだな。


「ああ、行こう。あれから何があったのか調べないとな。みんな無事だといいけど」

「今は、信じるしかないのじゃ。王都に向かうぞ、小僧」


 そうだな。みんなも無事なら王都に戻っているはずだ。頼むから無事でいてくれよ。過去は、変えられないんだから。


「む。しかし王都までの道のりをどうするかのう。旅の道具も食料も持ってきておらんのじゃが」

「あ、そうだよな。この辺りは最前線で、村とかも無くなってるし」


 騎獣に乗っても10日くらいかかる道のりだ。徒歩で、となると一か月くらいかかってもおかしくない。

 まいったな。もともと奇襲作戦のために来ていたものだから財布とかも持ってきていないし。そもそも買い物をする場所すら無い。食料の宝庫だった森も、そのほとんどがゲンサイの一撃で吹き飛ばされている。


「みぎゃ?」

「オル君はいいよな。地面を掘ればゴハンがあるんだから」


 俺達も食おうと思えば食えるんだろうけど、まだ命と誇りを天秤にかける段階じゃない。

 と、その時、呼んでもいないのにジルが飛び出してきた。いや、そりゃジルは羽があるし巨大化もできるけど、人間2人乗せて飛べるほどのパワーは無いだろ。なんたってベースがか弱い小鳥さんだからな。


「あ、いや? 待てよできるのか?」


 ふと思いついた。もしかしたらジルからイメージが流れてきたのかもしれない。とにかく試してみよう。これが可能になれば、ぐっとできることの範囲が広がるはずだ。







 試みは成功した。ひとしきりはしゃいだ後、まっすぐに王都を目指す。


 あっという間にセレフォルン王国王都アセレイにたどり着いた俺とリリアの見たものは、無残にも崩れ落ちた城壁と半壊した王城、そして無数の墓石だった。

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