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リリアが名前つける!

「す、すごい! 本物かコレ!?」

「前にも同じ物見たことあるからな。間違いねーよ」


 なんて神々しいんだろう。いや、ぱっと見た限りはダチョウの卵にしか見えないが、ドラゴンが入っていると思えば黄金よりも輝いて見える……気がする。


 騒ぎを(ほぼ俺の声)を聞きつけたのか、イリアさんとリリアちゃんもやって来た。卵の中身に対する反応は全くの逆。イリアさんは恐ろしいものを見るように、リリアは楽しそうに見ている。

 輪を作るように並んだその中心に卵を置く。ゴトゴトと動いていて今にも生まれそうだ。


「だ、大丈夫なの? ドラゴンなんて、下手な餓獣よりずっと強いのに」

「へーきだって。怯えるイリアたんは可愛いなぁもう」

「殴るよ」


 一瞬にしてアランがイリアさんから逃げた。素早い動きだ、慣れている。


「この面子なら平気じゃろ。唯一心配だった奴も、さっきまでの悩みを完全に忘れとるようじゃしの」

「あ」


 そういえば戦うのが怖いって話をしてたんだっけ。卵の中身が暴れたら戦うことになるんだよな? 興奮しすぎてすっかり忘れてた。まあドラゴンといっても赤ちゃんだし、またたく間に制圧できる相手にまでビビらないってことが判明したわけだ。


「おい! 卵にヒビが入ったぜ!?」

「おおおおおおお!」


 生まれるのか! ん? 待てよ?


「鳥って生まれて最初に見たものを親だと思うって聞いたことがあるんだけど、ドラゴンはどうなんだろうな?」

「はて? じゃが歴史上、ドラゴンを従えた者は皆タマゴから育てたという話じゃったし……そういう刷り込みはあるのかもしれんのう。ま、殺されなければの話じゃが」


 普通の人は赤ちゃんといえどドラゴンに襲われたら死ぬからな。実際何人もの人がドラゴンを育てようとして死んだらしいし。

 だけどベビードラゴンの攻撃(じゃれつき?)さえ耐えられれば、あとは刷り込みの力で仲良くなれるかもしれないってことか。これは譲れないな。


「リリアは危ないから下がってなさい」

「やだー! リリアもドラゴン見るの!」

「生まれてから見せてあげるから! 最初に見たのがリリアだと大変でしょ!? お姉ちゃんの言う通りにしなさい!」

「やだー!!」


 よし、ライバルが2人減った。この調子で残る2人も排除して、俺がこのドラゴンの親になるのだ。おっと、オル君はしばらく袋に入っているんだ。君は最初じゃなくても親だと勘違いされそうだからな。相棒の野望ためだと思ってガマンしてくれ。大丈夫、ドラゴンを手に入れてもオル君のことは大事にするから。君が一番だから……さぁドラゴン!!


 しかしどうやってアランとリリアを排除しようか。ふむ……。


「おお、生まれるのじゃ」

「え? 父様大好き? そんなの自分で言えよ」

「は?」

「ホントかいリリアちゅわーーーーーん!!」


 リリアに抱き付こうと迫るアラン。突然のことに驚き慌てるリリア。よし、この隙に--


「何を言うとるんじゃ、おのれはぁぁぁぁぁ!!?」


 そしてリリアに殴り飛ばされる俺。



「キュゥ?」



 ドラゴンの赤ちゃんが最初に見たのは、殴り飛ばされた俺では無く、パンチを身体ごと振り切ったリリアでもなく、卵を飛び越えてリリアに抱き付こうとしていたアランだった。


 そ、そんなぁ……。


「自業自得じゃバカたれ。普通に頼めば譲ってやったものを」

「うう……だってドラゴンの親なんて、誰でもなりないものだろ?」

「自分基準で考えるでないわ」


 マジか。ドラゴン育てるのに興味ない人間なんているのか。じゃあアランもその権利譲ってくれないかな? いや、無理そうだな。ドラゴンに甘えられて(普通の人は死ぬ)嬉しそうにしている顔は、リリア達子供に向けるものと同質だ。


 気に入るのは当然だな。かっこいい黒のウロコに、つぶらな可愛い瞳。これで魅了されないなんて正気じゃない。そして正気な人間は正気を失う、そんな可愛さだ。リゼットのアインソフとは違って手足とは別に背中から羽が生えているタイプだ。


「というか当然の結果じゃな。前に言うたじゃろ。父様は史上最初のドラゴンを飼いならした人間じゃとな。あのドラゴンのことだったようじゃな」

「マジか……」


 じゃあ最初からアランが親になることは決まってたのか。いや、良かったのかもしれない。これが確定している歴史なら、俺が親になっていたら歴史が変わっていたかもしれないってことだからな。変えなくていい部分は変えるべきじゃない。

 だけどあと一歩で俺がドラゴンの主人に……もう一回過去に戻れないかな。歴史とかもうどうでもいい気がしてきた。


「おし、名前を決めねーとな! 娘にちなんで……アリアとか」

「この子オスよ?」


 イリアさんがベビードラゴンの股間を凝視してそう言った。いやん。


「パパはそんなふしだらな子に育てた覚えは無いぞーーー!!?」

「動物相手にそんなこと気にする方がキモイから」

「……なぜ小僧もショックを受けとるのじゃ?」

「いや……」


 微妙な沈黙を破るようにリリアちゃんが叫んだ。


「リリアが名前つける!」


 うかつにベビードラゴンに近づかないようにリリアに捕獲されていたリリアちゃんがキラキラした眼差しをドラゴンに向けていた。触りたいようだけど、さすがに危ないからダメだ。なら名前をつける権利くらいはあげるべきだよな。

 アランもそう思ったのか、うんうんと頷いてリリアちゃんの頭を撫でた。


「そうかぁー、リリアぴょんが考えてくれるのかー」

「うん! えとねー、えっと……」


 うーんうーんと悩みながら、何かアイデアを探すようにキョロキョロするが、どうもグッドな名前が浮かばないらしい。それでもうーん、と悩み続け、ついにはちょっと涙目になった所でイリアさんが慌ててフォローした。


「ゆっくり考えようね。急がなくていいから、ね」

「……うん!」


 いい子だねぇ。ペットの名前なんて思い付きでつけるものだろうに、我が子の名前を考えるかのような真剣さ。いや、ドラゴンの魅力がそうさせるのか。

 ちらりとリリアを見る。どこで間違ってこうなった?


 また殴られた。



   ☯


 それから数日、アランが自慢げにベビードラゴンを連れまわしたことで歴史通り「アラン・ラーズバードはドラゴンを飼いならしていた」という事実が広まっていった。嫉妬を力に変えることができたなら、ゲンサイにだって勝てるかもしれない。


 そしてドラゴンの名前はというと……。


「決まったー!」


 アラン、イリアさん、リリアと話し合いをしている最中、唐突にリリアちゃんが部屋に飛び込んできた。決まったというのはもちろんドラゴンの名前のことだろう。はたしてどんな名前に決まったのか。名付けた当人であるリリアにカンニングで先に聞いてみたけど、覚えていなかったんだよな。

 だけど--


「ごめんよぉ、リリアぴょん! パパ達今から行かなきゃいけないトコがあるんだよぉ」

「えー……」


 せっかく考えてきたのに後回しにされるのが不満なのか、リリアちゃんの表情が曇った。

 だけど急いで出ないといけないのも事実だ。名前を聞くだけなら一瞬だけど、娘が数日かけて一生懸命考えてきたドラゴンの名前を、事務的に「なるほど了解」といった感じに聞くだけ聞いて出て行くというのはアランにはできないよな。この男はそれこそ命名パーティを開きかねないくらいだ。ドラゴンのためではなく、娘のために。


 ほっぺを膨らませて不満をアピールするリリアちゃんの前に、イリアさんがしゃがみこんだ。


「帰ってからゆっくり聞くから。ね?」

「むー……わかった。いってらっしゃい」

「はい、いってきます」


 さすがお姉ちゃんだ。目線を合わせて優しく言い聞かせてみせた。

 俺達を見送る視線が淋しそうだ。可哀想だけど、ゆっくりしていては移動されてしまうかもしれないから仕方ない。


 やっと、魔王の居場所をつかんだんだからな。

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