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恐れるからこそ戦うのじゃよ……生きるために

「最近元気が無いのう? 子供は元気が一番じゃぞ?」

「もう子供ってほどの歳でもないぞ」

「かかか。ワシから見れば子供じゃよ」


 そりゃお前から見れば全員子供だろうさ。そんな面白くもないことを言いに来たわけでもないだろうに。


「まあ、なんじゃ。長生きしとる分、悩み相談ならお手の物じゃぞ? 最近ならば……そうじゃな、ケイツ坊やの初恋を実らせてやったものじゃよ。まあ数日で破局したがの」


 それ最近じゃないだろ。上げて落としてる分、普通に失恋するよりダメージ大きそうだし。

 もしかしてツッコミ待ちだったのか? 俺が反応しないでいるとあからさまにつまらなさそうな顔になった。


「ちなみに相手はアンナじゃよ」

「マジでっ!!?」


 満足そうな顔してないで詳しく! その話詳しく!!

 だけどリリアはニヤニヤするだけで何も言わなかった。もしかして気を引くための冗談か? だとしたら俺はまんまと引っかかったわけだ。



「訓練が上手くいっておらんようじゃの。父様も、急に様子がおかしくなったと心配しておったぞ?」

「俺にもよくわからないんだ。なんか体が重くって……頭もうまく回らないって言うか」

「らしいのう」


 何かの病気なのかとも思ったけど、普段はなんともない。なのにいざ訓練だ、ってなると途端に自分の体じゃないみたいに言うことを聞かなくなる。


「怖いのじゃな」

「怖い?」


 何が? 訓練だぞ。なにも危険なんて無い。実際、10日目辺りまでは何の問題もなく訓練に参加できていた。


「さっきの訓練、ワシも見ておったのじゃよ。かか、お主まるで戦場に初めて出た新兵のようなビビりっぷりじゃったのぅ」

「そんな馬鹿な。仮にそうだったとして、なんで急に。そんなの、変だろ」


 今までどれだけ戦ってきたと思ってるんだ。そりゃ、元々この世界にいた人からすれば新米もいいところだろうけど、それでも時間なんて問題にならないくらい何度も修羅場をくぐってきたんだ。

 アガレスロックと戦った時は圧倒的な差に絶望したし、迷宮では何度も死を感じた。最上階でのフルフシエルとの戦いなんて完全に死を覚悟したくらいだ。フォカロルマーレには腕を切り落とされたりもした。苦労も、苦痛も、一通り味わい尽くしてる。


 それが今更、どうして恐れることがある?


「なんだかんだ、何とかしてきておったからのう」


 リリアが慰めるように俺の頭を撫でてきた。見た目だけとはいえ子供になでなでされるなんて恥ずかしいし情けないのに、その手を振り払う気が起きないのは何でだろう。


「お主が今まで戦ってきた敵は、強大ではあったものの対抗策を思い付く余地があった。じゃが、鐵のオリジンには何も通用せなんだ。力も策も、何もかも一蹴にして踏みにじる。ワシも小僧も、あわや殺されるところじゃった」


 ゲンサイ以外で最も死を感じたのは、フルフシエルと戦った時か。あの時は次々と仲間が倒れていく中で、敗北が確実だった中で、それでも何か手があるはずだと必死に抗った。……抗えた。

 だけどゲンサイは、あれは無理だ。抗う気力も湧かない。何も通用する気がしなかった。


「そしてテロス・ニヒもまた、倒しきるビジョンが見えん敵じゃ。いくらか命のストックを削れたとして、一体いくつ殺せば良いのやら。立て続けに勝てない敵と戦い、死にかけ、逃げた先でまた戦うかもしれんとなっては……恐れぬ者などおるまいよ」

「サバ子は平気そうじゃないか」

「かかか! そりゃ年の功というヤツじゃて。それにのぅ、1000年も生きれば自分の命など、わりとどうでもよくなるのじゃよ。ワシは十分すぎるほど長生きしたからの。飽いた自分の命より、儚き他の命の方が大事に思えてきとるんじゃよ」


 そういや迷宮の中でも俺達を庇って死にかけてたっけな。


「命短き者が死を恐れるのは、当然じゃ。人も獣も、命あるモノ皆すべからく死を恐れるのじゃ。しかしな、恐れるからこそ戦うのじゃよ……生きるために」


 俺は……怖かったのか。いや、怖かったんだ。

 何をどう足掻いても勝てる気がしない相手。そんな奴ともう一度戦うために、同じくらい強いだろう魔王と戦わなければいけない。どっちも怖くて、どっちとも戦いたくなくて。なら、そのための訓練に気持ちが入らないのは当たり前の事だ。っていうかアランも現状勝てる気配が無い相手の1人だし。


「ワシなど子供の状態で時間が止まってしまったからのう。成長できずしばらく弱いままで、そりゃあもう怖い思いをたくさんしたものじゃよ」


 その気持ちはちょっとわかるなー。最近は訓練しても強くなってる感じがしないから。周りは怪物だらけなのに強くなれないのは、不安だ。


「じゃがそれでも敵は問答無用で襲ってくるのじゃ。ならば戦うしかあるまい? どんなに怖くともじゃ」

「俺も、追い詰められれば戦えるかもってこと?」

「ま、それはお前さん次第じゃな。ワシはそうしてきたという話じゃ」


 うーん。それで危険に飛び込んでいって無理だったら笑えないんだが。


「そういえば聞いたことなかったよな? サバ子はどうして自分の時間を止めたんだ? それもそんな子供の状態で」


 成長できないことで怖い目にあったなら、一旦時間を進めて、ほどよく成長してからまた時間を止めれば良かったんじゃないのか。それができないんだとしたら、そもそも何で子供の状態で時間を止めてしまったのか。

 この時代のリリアちゃんの様子を見る限り、そんな馬鹿な行動をするような子には思えない。少なくとも実行する前にアランなりイリアさんなりに相談しそうなものだけど。


「ふむ、言っておらんかったかの? 好きで時間を止めた訳ではないのじゃよ。これは魔力が暴走した時の副作用で、たまたまこうなっただけなのじゃ」


 魔力が暴走? そんなことが起きるのか? だって魔法に目覚めた時、その魔法の使い方がなんとなく知識として頭に入ってくるんだ。危ないと分かっていて突っ込むようなものだぞ。


「父様が死んだのじゃ。それを聞いた当時のワシはパニックを起こして、の」

「……そうだったのか。それなら無理も無い--ちょっと待った。じゃあ近い内にアランが死ぬってことじゃないのか!?」


 だってこの時代のリリアは、目の前にいるリリアと全く同じ見た目だ。子供なんて1年でけっこう成長するものなんだから、少なくとも1年以内……それこそ明日にだってその魔力暴走とやらが起こってもおかしくないってことだ。それが意味することはつまり--


「それなんじゃがのう、暴走のせいで記憶が曖昧なんじゃよ。歳のせいではないぞ? 昔からよく思い出せんかったのじゃ」

「でも暴走する前の記憶……それがいつ頃だったとかは覚えててもいいんじゃないのか?」

「それは歳のせいじゃ」


 このババア。


「仕方ないじゃろー? 1200年前じゃぞ?」

「仮にも父親の命日だろ」

「仮ではなく実の父じゃ」

「そういう意味じゃないよ」


 まあ俺も1週間前の晩ゴハン思い出せないけど。


「ううむ、じゃがこうして懐かしい景色を見ておると、なにかが蘇ってくるような……おお、そうじゃ!」


 リリアがポンッと手を叩いた。何か思い出したのか?


「確か父様だけではなく、他にもいなくなった者がおったのじゃ」

「まさかイリアさんじゃ……」

「阿呆。姉様が歴史が変わるじゃろうが。セレフォルン王国の二代目は姉様なんじゃぞ」


 そうでした。けどアランと行動を共にしていてリリアちゃんと仲良くしてる人間なんて、他にはいないと思うけど。他の兄妹とか全然見かけないし。

 あ、もしかして俺達か? こうして過去のリリアに会ってる以上、今のリリアの記憶にも俺達が追加されてるだろうし。怖いな。俺達もアランと一緒に死ぬかもしれないのか? それとも元の時代に戻っただけなのか。


「あと何か、約束をしとったような……」

「おお、けっこう思い出せてるじゃん。脳みそは若いままってことか?」

「内容までは思い出せんのじゃ」


 それだけ思い出せるのも十分すごいか。なんせ1200年だし。


「おうクソ野郎! なんだちょっとマシな顔になってるじゃねーか」


 いきなりアランが現れた。俺のことをリリアに相談してたみたいだし、思った以上に心配してくれてたらしいな。クソ野郎呼ばわりは相変わらずだけど。


「まあいーや。最近お前元気無かったからよ、喜びそうなもん見つけたから持ってきてやったんだ」

「喜びそうなもの?」


 特にアランに何が欲しいみたいな話をいした記憶は無いけどなぁ。そもそもこんな文明も発達していない時代で欲しい物なんか何も--


「見ろ! ドラゴンの卵だ!!」

「ほしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

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