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その、魔王の名前は?

「魔王……?」


 それは空想上の存在じゃなかったのか?

 リリアの方を見てみると、知らんと言うように首を振った。いやいやお前はこの時代で生きてたんだろ? 自分が生活してる場所に魔王なんてものがいて、知らないっていうのも変な話じゃないか?


「その様子からして、後世には伝わってねーってことか。ま、それもそうか。誰にも言ってないからな」

「え? 知られてないのか? 魔王だろ?」


 魔王って言ったら、やっぱり世界征服とか、そーいう人類の天敵っぽい活動をしてるもんだろうし、堂々としているイメージなんだけど、この世界の魔王はコソコソと活動してるんだろうか?


「魔王だろ、と言われてもなぁ。魔王なんてアイツしか知らねぇし、自分でそう名乗ってただけだからな。俺様にもよく分らん」

「よく分らないのに倒すのか」

「奴が放置できないクソ野郎だってことは分かっているからな」


 魔王と俺の呼称が同じなのが猛烈に引っかかるが、まあ置いておこう。要するに魔王を自称して暗躍しているヤツがいるってことだな。それにしたって何者だ? この時代、この世界でオリジンに目をつけられて逃れ続けられる人間なんていないと思うんだが。


「どこのどいつか知らんがな、鬱陶しいクソ野郎だ」

「具体的にその魔王は何をしてきてるんだ?」

「まあ、色々だ。タケツナのクソ野郎を唆したり、他の連中にもちょっかいをかけてるみてーだ」


 自分以外の男は全員クソ野郎なのかよ。

 アランの話によると、今でこそオリジン達はバラバラに活動しているが元々は特別仲が悪かった訳でもなく、文化の違いから衝突することはあっても何だかんだ協力しあってやってきていたらしい。


「リリアちゅわんの母親なんて、タケツナのクソ野郎とリディアさんの間に生まれた娘だしな」

「あれ? 時系列がおかしくないか? もしかしてイリアさんとは母親が違う?」

「はい。私の母は第一妻で、リリアの母は第7妻になります」


 礼儀正しい態度でイリアさんが答えてくれた。本当に血が繋がってるのかってくらい似てない親子だ。でも母親が違うのにこんなに姉妹が似てるってことは、父親の血もしっかりと受け継いでるってことなんだよな。あれか、反面教師だ。きっとそうだ。


「ぬははは、羨ましいだろ!」

「……別に」


 ホントだぞ! 一応俺だってオリジンなんだ、セレフォルン王国じゃ実は結構モテてたんだからな!

 けど群がってくる女性はみんな、俺をオリジンとしてしか見ていないんだ。俺と恋人になりたい訳じゃなくて、オリジンの恋人って肩書きが目当てだって分かりきっていると、ぶっちゃけ萎える。ましてや「オリジンの血を継いだ子供」が欲しくて肉体関係を迫られても、なぁ。モテてるけど、モテてる感じが全くしないんだ。

 まあ目の前でスケベそうに笑う男みたく割り切れれば楽園なんだろうけど、ちょっと俺には一生無理そうだ。


「ま、それはさて置きだ。あのクソ野郎は俺達オリジンの仲を引き裂いて、何かにつけて争わせようとしてやがる。実際俺様も、暴走し始めたタケツナのクソ野郎の抑止力になるためにこの国を作って対立する羽目になっちまったわけだしな」


 そしてアラン、タケツナ、リディアという最強クラスのオリジンが二国に別れて国を作ったことに対抗するために、3人を除く7人のオリジンが集まって作られた国がオルシエラなんだとか。

 つまり団結していたオリジン達を分断して、以後1200年間争い続ける3国家を作り出した黒幕こそが、その魔王ということだな。なるほど、長い年月の間に戦争で死んだ人間の数を考えれば、その元凶になった人物はまさしく魔王と呼ぶに相応しい。


「他のオリジン達は、その魔王のことを知ってるのか?」

「いや、知らねーよ。連中につまんねーことを吹き込んでいるヤツがいるはずなんだが、どいつもこいつも知らんの一点張り。俺様も独自に調べちゃみたが、妙なヤツが近づいてる様子は無かった。けどな、全員が全員、示し合わせたみてーに争い合う方向に進んでるってのは、どう考えてもおかしいだろ?」


 なかなか不可解な状況らしいな。

 この時代の人間の数は、せいぜい数万人。そういうと多そうだけど、日本で言えば平均的な町1つ分くらいの人口だ。全員把握するのはもちろん難しいが、その半数近くを占める子供を除外すれば、ある程度は把握できる程度のものだ。知人の周辺の人、と絞り込めばなおのこと。

 にも関わらず不審な人間が見当たらない。どこを見ても見覚えのある人間ばかり。なのに暗躍しているヤツがいて、正体が掴めない。まったく不可解だ。


「そうやって嗅ぎまわっていたおかげかね、野郎は俺様にだけは真正面から接触してきやがった。だからこそ俺様だけがヤツの存在に気づけているんだがな」


 まあ怪しんでるアランに戦争を推奨するような発言をしたら、その瞬間にバレるだろうからな。


「もちろん速攻でぶっ飛ばしてやろうとしたんだがな。あのクソ野郎、妙な力を使いやがる。正直俺様1人じゃ手に余っていた所だ。そ、こ、に、お前らが来たって訳だ」


 そういうことなら断る理由は無いな。

 この時代での行動で未来が変わるかどうかなんてのはやってみなければ分からないけど、それで3国の争いが根本から解決するのなら万々歳だ。ひょっとするとゲンサイと戦わずにすむ未来にだって変わるかもしれない。それは楽観的すぎるか。

 でも、わざわざ戦乱の原因を見過ごすこともない。


「オッケー、やるよ。それと、その魔王を倒せたら元の時代に戻るのに協力するって約束も忘れるなよ?」

「おおっと、そいつはお前の働き次第だぜクソ野郎。俺様の後ろでチョロチョロして『一緒に倒した』なんてのは許さねーよ」

「期待していいぞ。その期待を上回ってやるからさ」


 『強化』はもちろん凄い魔法なんだろうけど、俺の『世界』だって負けちゃいない。理不尽大魔王やら黒マントやら黒いドラゴンやら、黒っぽい連中にはことごとく負けてる気がするけど、俺の魔法は強い! はず!!

 とりあえずこの時代の魔王が黒っぽくないことを祈ろう。


「言うじゃねーか。とはいえ、野郎の居場所が掴めないことには戦いようが無いんだけどな。まあそれはイリアたんに任せてっから、修行でもしながら待ってろや」

「イリアたん言うな。魔王の実態は全くの謎ですが、『オリジンを争わせる』という目的から、魔王が行動を起こした場所は見当がつきます。明らかに人々の動きや考え方が変化しますからね。今、そこから活動範囲を絞り込んで拠点を探っているところです」

「よくわかんねーが、そういうことらしいぞ」


 優秀な娘さんがいて良かったな。たぶん国を運営してるのもイリアさんだ。俺達の時代の女王様もそんな感じだったから、たぶんそうだ。いや、アルスティナは大人になればきっと立派な女王になる。あの子の中に流れているだろうイリアさんの血の分を信じよう。


「じゃが、訓練をするならば魔王とやらの戦い方を知っておきたいのぅ」

「その通りだね、さすがリリアちゅわん! 魔王はな……ううん、なんて言えばいいのか。野郎はなんでも消せるんだよな。剣で斬りかかれば剣が消えてよぉ。魔法を飛ばしても魔法が消えるし。魔法……のはずはねーんだがなぁ」



 ……どうしよう。その戦い方、超聞き覚えがある。


「その、魔王の名前は?」

「ん? 確か魔王エンドとか言ってたか」


 あ、なんだ違った。待てよ、エンド? 英語でエンド、日本語で……終わり。そんな二つ名のヤツ、知ってる。いや、まだだ。偶然という可能性を諦めるな。そして常識で考えるんだ。ここは1200年前だぞ。リリアじゃあるまいし、いくら人外めいたアイツでも流石に1200年以上生きたりはすまい。


「真っ黒なマントで顔までスッポリ隠した変な奴だったぜ。声からして男のガキみたいだったけど……ありゃ絶対子供じゃないぜ」


 絶対アイツだーーーーーーーーーーー!!!

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