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こ、こやつ本当に人間なんじゃろうか……?

「ケイツ。周りの兵を下がらせてくれ」

「……そうするっきゃねーみたいだな」


 どういう手段を使ったのかは分からないけど、一万もの人間を事も無げに倒してしまう人間に人海戦術を選ぶのは自滅行為だろう。作戦を立てるにしても、まずは様子を見なくては。


「全軍後退!! オリジンが戦う、巻き込まれるな!!!」


 そうして人の壁で円形の闘技場が出来上がった。その中心で王者のように待ち構えるゲンサイ。そこに近づくのは、まるでライオンの檻に足を踏み入れるような気分だ。


 どれくらいの強さなんだろうか。

 復活したフォカロルマーレとの戦いでは、その腰の刀を俺程度では計れないような技量で振り回して戦っていた。その実力はアシストアーマによって人間を超えた身体能力を発揮するロンメルトをも上回っていたように思う。

 だけど、じゃあ一万もの兵を1人1人その刀で斬ったのかというと、それはさすがに不可能なはずだ。実力うんぬん以前に時間が足りない。そもそも話によれば不完全な復活をする以前の、完全体だったフォカロルマーレをゲンサイは討伐しているんだ。あの時見た実力は当てにしない方がいいだろう。


 となると気になるのはやっぱり魔法だ。属性は確か『悪』。琴音の『愛』みたく名前と効果が微妙に違う場合もあるけど、もし名前通りだとすればどんな魔法が想像できるだろうか。

 悪。悪か……。ううん、漠然としすぎている。イメージとしては、卑劣な感じかな? 裏切者だとか……そうだ、例えば洗脳とか悪者っぽくないか。それなら短時間で1万の兵だって倒せそうだ。5000人に裏切らせて同士討ちさせればいいんだからな。


「いや、よそう」


 憶測で戦っても危険なだけだ。なにが起きてもおかしくないという気持ちでいる他ない。それこそ、後ろの仲間から攻撃されても動揺しないくらいに。


「王様、前衛を頼む! ユリウスは王様をフォローしてやれ! リリアと琴音は天帝フルフシエルと戦った時みたくサポートに専念!」

「お、おい! オレはその天帝との戦いなんて知らねーぞ!?」

「近づかれたら死ぬと思っておけばいいよ!」


 ケイツの近接戦闘技能がどれほどのものかは知らないけど、武器が銃である以上は本職じゃないってことだ。それではとてもゲンサイの剣技に対処できるとは思えない。というかこの場でそれができるのはロンメルトくらいだと断言できる。


「よかろう! もはや尊敬できぬ師など、ここで超えてくれるわ!!」

「超えてもらいたいものだ。できるものならば、な」


 ロンメルトの大剣が唸りを上げる。風圧で周囲の砂利を巻き上げながら、防ぎようの無い大質量の鉄塊がゲンサイに叩き付けられた……かと思われた。

 ギャリンッと鳥肌の立つような音が響き、一瞬遅れて鉄塊が地面に転がる。


「ウソだろ、斬ったのか!?」


 思わず目をこすってもう一度見てみても、結果は変わらなかった。信じられない。薄っぺらな鉄板や細剣じゃない、厚さだけで5センチ以上ある大剣だぞ!? いくら日本刀がよく斬れるからって、それは不可能だ。不可能なはずだ。よしんば刀が折れないにしても、人間の腕力でできることじゃないだろ!?


「ふはははは! その程度、覚悟の上よ!!」


 ロンメルトがガーランド袋に手を突っ込んだ。取り出したのは、また別の大剣。そうか、この間テロスに壊されたことを反省点に、予備を用意していたのか。

 居合抜きのように、袋から取り出しながら振るわれた剣。いける、ゲンサイは刀を振り下ろした体勢のままだ。


 だけどギャリンッ、と再び同じ音が響いた。


「ふ、はは……ありえん。あそこから間に合うというのか……!」

「そうだ。それはつまり、同じ速度で貴様も斬れると言うこと」

「王様!!」


 隙だらけのロンメルトにゲンサイの刀が突き刺さる直前、炎の弾丸がその間を引き裂いた。


「おらららららーーーー!!!」


 ケイツが連続で引き金を引く。雨のように飛来する弾丸を、しかしゲンサイはことごとく躱し、弾き、防いでいる。火薬を使っていないからか、本物の銃弾より遅いとはいえ何て反応速度だ。

 だけどその隙にロンメルトがまた新しく剣を装備できた。


「ちぃっ! 意味わかんねーくらい避けやがる!! おいユート、奴の足場を崩せ!」

「おう!! 世界が命じるオーダー、大地!!」


 剣技を振るうのも足場あってこそだろ!

 整地された状態だった地面を、ゲンサイの周りだけデコボコに変えてやる。これで--って、普通に避けてる!!? さっきまでと何ら変わってないんだけど、どういうこと!?


「だったら!」


 足場を崩すなんて生半可な真似はやめだ。俺達がアガレスロック相手に散々苦しめられた串刺し攻撃を喰らえ。


「ふっふふふふ。愉快愉快。もう少しセレフォルンに留まっていればアガレスロックと戦えたものをと後悔していたのだ。是非本物とも戦ってみたかった」

「悠斗君、避けてる! 避けてるよぉ!?」

「こ、こやつ本当に人間なんじゃろうか……?」


 リリアが疑問に思うのは当然だ。俺も今そう思っていた。

 不規則に地面から突き出す岩の槍を、まるで未来予知でもしているのかと思うくらい呆気なく避けていく。そして避けながら弾丸も防ぎ、時には岩を利用して弾丸を避けたりもしている。こっちはリリアの魔法でゲンサイの動きがゆっくりに見えているっていうのに、まるで当たる気がしない。


「だったら! 世界が命じるオーダー、雷!!!」


 地面を操っていたんじゃロンメルトやユリウスが参戦できない。だったら通用しない攻撃なんてすっぱり諦めよう。それに電気は金属に引き寄せられるって言うからな。刀を持ってるゲンサイは避けられないはずだ。


「ふっ、なるほど」


 空気を焼きながら飛ぶ電撃を見ながら、ゲンサイが笑みを浮かべた? と思った次の瞬間、ゲンサイは刀を上に放り投げていた。電撃が軌道を変えて、空中の刀にぶつかる。しまった、電気の性質を逆に利用して防いだのか!

 だけどおかげでヤツは武器を手放した。


「行け、王様!!」

「おおお! 奥義、墳破墜星剣!!」


 よけられそうな大技を持ってきたことには驚いたが、ケイツが弾丸で退路を塞いでいた。


「予備を持っているのは、貴様だけではないぞ?」

「ぬ!?」


 ゲンサイの羽織が揺れ、その隙間から見えたあの袋はまさか--

 避けろ! と叫ぶ間もなく煌いた剣閃がロンメルトの剣を切り裂いた。そしてそのままロンメルトの首筋へと吸い込まれていく。


「「わん!」」

「ぐおっ!!?」


 ユリウスの指示か、ツヴァイリングヴォルフがロンメルトのマントを咥えて後ろに引っ張った。ゲンサイの刀は空を切り、マントが千切れて放り出されたロンメルトが地面に転がった。その首筋には赤い線がうっすらと見える。本当にギリギリだったみたいだ。グッジョブ、ユリウス!


 すかさずトドメを刺そうとゲンサイが追撃してくる。させるか!


世界が命じるオーダー!! 雷!」


 何本でも出せ、何本でも使えなくしてやる。投げる刀が無くなるまで撃てば防ぐ手段は無くなるだろ。

 案の定、またしても刀を投げて電撃の軌道を逸らすゲンサイ。そこにケイツの弾丸が飛んだ。うまい! さあ新しい刀を出して防げ。またすぐ雷を撃ってやる。


 と、そこに最初に投げた刀が落ちてきて地面に突き刺さった。

 ゲンサイがその刀を掴み、弾丸を弾く。地面に刺さった時に刀に溜まっていた電気は全部流れていってしまったのか、ゲンサイは平気そうに刀を握っている。


「もっと手数を増やせ! その内対処できなくなる!!」


 電撃を撃つ。刀を奪う。1つ前の刀で攻撃を防がれる。電撃を撃つ--。なんでだ! なんでそんな曲芸みたいな戦いかたを維持できる!? しかもケイツ、ロンメルト、ユリウスの三人がかりの攻撃を避けながらだぞ!? どんな集中力してるんだ!


「くっ、決定打が欠けてやがる。作戦変更だ! テロス・ニヒ対策でいくぞぉ!!」


 テロス対策!? リリアの時間停止か!!

 ゲンサイのすぐ近くにいたロンメルトが巻き込まれないよう距離を取った。そしてリリアが一歩前に出た所で……ゲンサイがギロリとリリアを見た。まさか、勘づかれた!?


「時流の魔女か。なるほど厄介だ……先に仕留めておくとしよう」


 まずい、守らないと!


「え?」


 リリアの方へ行こうと目を向けると、そこには既に刀を振り上げたゲンサイの姿があった。いったいいつの間に? リリアの魔法の補助が無くなっていたとはいえ、いくらなんでも速すぎる。


恵みの雨レーベンフリューゲル!! 逃げて、リリアちゃん!!」

「ぬぅっ!!?」


 琴音の強化を受けたリリアが、常人離れした身体能力を得て後方に飛ぶ。だけどダメだ。その男から逃げるには、常人離れ程度じゃまるで足りない。

 一瞬でゲンサイがリリアに追いつく。くそ! 助けに行くにも遠すぎる!!


「この……化け物め」

「光栄だ」

「ぁがっ--」


 リリアの肩から胴にかけて、真っ赤な線が走った。一瞬遅れて、おびただしい量の血が噴き出す。

 だけどこっちには、ここから本領を発揮する仲間がいるんだよ!!


生の卵ヴィ・シゴーニュ

「ぬぅぅ、助かったのじゃトモヨ。む……血は戻らんのか。ちとふらつくが、仕方ないのう」


 すぐさま駆け寄った智世の魔法は、どうやら間に合ったらしい。即死だと、さすがにどうしようもないからな。


「ほう、やはり見事な魔法。だが、刹那に命を賭ける戦いにおいては……少々無粋ではないかな?」

「ひ--」


 つまらなさそうに見下ろすゲンサイの目に、智世が小さく悲鳴を上げて腰を抜かした。実戦経験の少なさが出たか。だけどもう間に合う距離だ。


「智世から離れろ! 世界が命じるオーダー、大地!」


 地面を隆起させ、ゲンサイと智世達の間に壁を作る。壁の向こうで智世がリリアを引きずるように逃げていくのが見えた。

 しかしまずいな。リリアはかなり弱っているようだし、なによりゲンサイにかなり警戒されている。魔法を当てるのは難しいと言わざるをえない。だけどそれじゃあさっきまでと変わらない。どうする。そうすればこの男に勝てる。


「何やら考え込んでいるようだが、いいのか?」

「なにが……?」

「仲間達と離れてしまっていいのかと聞いている」


 しまった……!! リリアと智世を助けるために急いで来たけど、ロンメルトは体勢を崩した状態だったし、ユリウスはその介助をしていた。そしてケイツには接近するなと忠告している。今ここには俺とゲンサイの2人だけ。

 やばい。俺も接近戦でやり合うなんてできない。


「その迂闊の代償、手足の一本で済むといいがな?」


 ゲンサイが刀を振り上げる。俺も腰の剣を抜いてはみたものの、まるで木の枝でも握っているかのような頼り無さだ。

 太陽を背にするゲンサイの腕が動き出すのが、妙にゆっくりに見えた。リリアの魔法はとっくに効果が切れているはずなのに……ははっ、そんな話を聞いたことはあったけど、本当にゆっくりに感じるんだな。


 時間から切り離された世界で、ゲンサイを見る。

 強かった。本当に強かった。結局どんな魔法を使っていたのかさっぱり分からなかったけど、でたらめな強さだ。


「あ……!」


 原種ドラゴンもそうとう強いらしいけど、どっちが強いんだろうか。それはこれからこの目で確認できそうだ。


「ユウト!!」

「来たか、竜騎士!!!」


 太陽と重なるように上空から急降下してきたアインソフの爪がゲンサイの体を吹き飛ばした。さすがというか、しっかりと刀で受け止めていたが質量の差はどうにもならなかったらしい。


「無事か! ユウト!」

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