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ダメだ、もう正気ではない

「ひゃっほぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 最高だ。最高の気分だ。俺は今日この瞬間のために生まれてきたと言ってもいい。

 圧倒的質量で大気を掻き分けて大空を舞う様は、優雅にして重厚。まるで大地に立っているかのような安心感に支えられている。


「お、おい。あまり暴れるな。落ちる時は落ちるのだぞ?」

「落ちても平気だから、もっと飛ばせーー! あっ、もう飛んでるかぁ。あっははははははははは」

「ダメだ、もう正気ではない。アインソフ、気にせず安全飛行で頼む」

「グオオッ」


 なんだ、つまんないの。

 しかし気持ちいいなぁ。魔法で空を飛ぶのとも、昔旅行で乗った飛行機とも違う。魔法を自転車、飛行機を車に例えるなら、ドラゴンはバイクってところか。景色を置き去りにするスピード。叩き付けられる突風。あるいは煩わしいとも思える風も、これが醍醐味と思えば心地よい。


「みぎゃ、みぎゃっ!」


 オル君もテンションアゲアゲだ。もうすぐ3年俺と共にドラゴンを探す旅を続けてきたオル君だ。心は同じと信じている。お前もいつかこんな風に飛べるといいのになぁ。


「そろそろ降りるぞ? アインソフが疲れ始めた」

「ええ! もう終わりなのか!?」

「もうって……そろそろ4時間ほど飛んでいるのだが。かくいう私も疲れた。休ませてほしい」

「うう、そうか。じゃあ仕方ないな……」


 わがままを言って嫌われたくはないし、ここまで付き合ってくれたことに感謝しないとな。でもまた明日も頼んでみよう。





 リゼットが王都にやってきて、既に一ヶ月が過ぎていた。


 あれからオルシエラ軍を迎え入れるための兵舎を地形操作で造ったり、その近くにコトネの森を増殖させたりと奔走し、無事3万の援軍を収容することが出来た。

 その合間合間に俺が頑張っていたことはというと、リゼットの相棒こと翼竜のアインソフと仲良くなることだった。


「ありがとうな、アインソフくん。また明日」

「グルル……」


 感謝を込めてアインソフの鼻先を撫でる。若干「え、明日も?」みたいな雰囲気を感じないでもなかったが、こうして触れ合えるまでになったの偏に一ヶ月間ずっと彼のもとに足しげく通った成果と言える。

 最初は、それはもう酷いものだったからなぁ。目が合えば唸り声を上げられ、近づけば威嚇の咆哮。リゼットのおかげで人に慣れている筈なのにコレだ。野生のドラゴンと仲良くなるのが不可能だと言われている理由が良くわかった。


 これはいよいよオル君ドラゴン化計画を真剣に考えるべきだろうか。あ、いや、オル君はドラゴンだけど、もっと大きな空を飛べるようなドラゴンにっていう意味ね。そこ勘違いしないように!

  少なくとも鱗はドラゴン級の強度になってるわけだし、頑張ればイケるんじゃないかなぁーって。あと体が5メートルくらい大きくなって、羽が生えて、牙も生えて、あわよくば炎が吐けるようになればいいだけだし。……先は長いなぁ。


「やれやれ、ユウトとアインソフが仲良くなれたことは喜ばしいことだが、まさかこれから毎日せがまれるのではないだろうな?」

「え?」

「……え?」


 ダメ……なのか? いや、ガマンだ俺。嫌われてしまえば、それこそ二度と乗せてもらえなくなるかもしれないんだ。それを思えば少しガマンするくらいは--


「2日に1回……で、ガマンする、よ!」

「そんな断腸の思いのように言う事でもないだろうに。……言うほどガマンできていないし」


 協議の結果、毎日の散歩がてらに乗せてもらえることになった。ドラゴンは1日1時間!


「どちらにせよ、しばらくは乗れないだろうがな」

「そうだった……」


 というのも明日から行軍が始まるのだ。俺の地形操作と琴音の魔法でヴァーリデル山脈を整地しながら進むことで、軍での山脈越えが可能になる。そしてガルディアス帝国側の麓に建設された拠点、そこにある浮遊船の工場を破壊しに行く。

 そう、今まで防戦一方だったセレフォルン王国だったが、ついに攻勢に出るのだ。


 これまでセレフォルン王国は、どれだけ国土を侵されても和平の可能性を捨てず、守りに徹していた。だが唯一見えた可能性だったシャロンがセレフォルン側の放った矢によって殺されたことで、その可能性は0になった。実際はテロス・ニヒの仕業だったわけだけど、それはガルディアス帝国側の知らない事情だし、言って信じてもらえるとも思えない。

 なによりその前にガルディアス帝国側から飛んで来た矢が女王アルスティナに向けられていたことで、それまでは戦争なんてしたくないと願っていたセレフォルン王国内でさえ、ガルディアス帝国許すまじという考えが生まれ始めていた。

 お互いに許せないと思っている以上、そこに和平なんてものは有り得ない。


「どうせあの矢もテロスの仕業なんだろうなぁ」


 そうでなければ、あまりにも都合が良すぎる。本気で女王を暗殺しようと思ってのことなら、一本だけっていうのも不自然だし。


 まんまとテロスの思惑通りになっているのが気に食わないけど、もうどちらの国も絶対に止まれないところまで来てしまっている。

 となれば防戦一方では敗北の未来しかない。そこにオルシエラ軍が合流したことで、一気に攻め込んで敵の重要施設を破壊してしまおうという話になったのだ。浮遊船さえ無ければ、そう簡単に攻め込んではこれなくなるからな。まあガルディアス帝都にも工場はあるはずだけど、前線基地を潰せればかなり楽になることには変わりない。


「仕方ないとはいえ、守るのと攻めるのとじゃ気分が違うよな」

「そうだな。だが、勝たなければ全てを奪われる以上、これも立派な防衛戦といえる。気に病むことは何も無い」


 気は乗らないけど、やるとなれば迷わない。そう決めている。迷えばこっちの被害が大きくなって本末転倒になるからな。重要拠点ともなれば、ガルディアス側の抵抗も激しいものになるだろう。

 なんだろう。もう5ヶ月以上も戦場に立っているはずなのに、ようやく本当の戦争が始まったような感じがする。今までのは、やられないための戦い。そしてこれからは、やるかやられるかの潰し合い。きっとそういうことなんだろう。


「よっし、気合いれて行くか!」

「行くのは明日だがな」


 それは言わない約束だよ。



    ☯

 

 朝日が昇った。戦いの朝だ……って言ったら実際に戦うのは2週間ほど先だなんて言われそうだ。なんて思いながら太陽に照らされた城壁の上から、日陰になっている平原を眺める。

 

 壮観だ。

 攻め込むのは拠点の1つに過ぎないが、景気づけにと王都周辺に常駐している全ての兵力が結集していた。総数10万の大軍勢。これだけ見ていれば負ける気がしないな。

 もっとも奇襲や暴動、なにより餓獣への警戒のために動かせるのはこの半分程度。さらには今回連れていくのはオルシエラ軍2万にセレフォルン王国2万の合計4万だ。オルシエラ軍はもう少し減らしたかったようだが、同盟軍とはいえ他国の軍をあまり大勢王都に残したくなかったらしい。


「コトネちゃんがいなけりゃ、この人数でもなかなか動かせねーんだけどな。オリジン様様だぜ」


 4万人分の食料なんて、想像する分にもとんでもない量だろうからな。整地する手段が無ければ、ここに山越えのための装備も追加されるわけだ。そりゃ長年攻め切れない訳だよ。もちろん帰る時は整地した道はぶっ壊します。敵に使われたら大変だからね。


「よぉし、そろそろ行くか。お前も何かいい演説考えておけよ?」

「え!? おい土壇場で言うなよ!? おい、ケツアゴ!!」

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