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孤独の王なんぞ存在しねーよ

「シャロンが死ぬ予定だった、だと? 貴様、どの道殺すつもりだったというのか!!」

「違う違う、僕が手を出さなくても死ぬ運命だったっていう意味だよ。仮に死なずに済んでも、死んだ方がマシな目にあってただろうね。あれ? そう考えると僕はむしろ救ってあげたんじゃないかな?」

「っ!!」

「やめろ王様、消されるだけだ」


 感情のままに掴みかかろうとするロンメルトを止める。その直情的なところはロンメルトの魅力ではあるけど、さすがにテロスに掴みかかるのはマズイ。


「それで、どういう事じゃ? あの小娘が死ぬ定めであったと?」

「そうだよ。ガルディアス王ウルスラグナは敵に大人しく捕まって、あまつさえノコノコ帰って来るのを許すような男かい? 帰れば王位継承権は剥奪。監禁して世継ぎを強要するだろうね」


 皇帝という割には、俺達が初めて異世界に来た時に俺達を狙ってきた商人と同じ発想だな。血を絶やさないための子づくりマシンにするってことか。ゲスい。


「そして監禁されるにしろ、うまく逃れるにしろ、革命なんて真似をすれば皇帝は彼女を殺すだろうね。あの男は王族の血筋なんて、ガルディアス帝国のための部品程度にしか思っちゃいないよ。より多くの民意を束ねて封殺する? 聞こえてきた時は笑っちゃいそうになったよ」

「なぜじゃ。国という形を考えれば、より多くの国民を味方につけた方が……」

「鐵のオリジンが黙っちゃいないよ。あれは戦場を求めている。戦争を止めようなんて考えた時点で、お姫様が殺されるのは確定してるんだよ」


 アンナさんから鐵のオリジンが戦争を起こそうと暗躍しているって話は聞いていたけど、そこまでなのか? 皇帝に従っているなら、水面下で勢力を集めて政権を奪えば鐵のオリジンも新しい皇帝に移るとばかり思っていた。


「あれはガルディアス帝国にも、皇帝にも忠誠なんて誓ってないよ。邪魔をするなら神だって殺す、そんな男さ」


 そうか。俺達の認識が甘かったのか。だけどそれでも、例え無理矢理にでも、世継ぎの子供が生まれるまでは生かされたはずだ。生きてさえいれば、助け出す目も残っていたんだ。ここで殺すことが救いだなんてことは、絶対に認めない。


「無抵抗でセレフォルン王国に捕まった時点で監禁生活は確定だったろうけど、和平を目指すなんて言わなければ僕に殺されることも、鐵のオリジンに殺される心配も無かったろうに……君が焚き付けたから妹が死んじゃったよ、お兄ちゃん?」

「ぬ、あああああああ!! どけ、ユート! 例え殺されようとも、こいつだけはぁっ!!」

「ふざけるなよ! シャロンの代わりに王様になるんじゃなかったのか!?」


 確かにテロスは絶対に許せない。だけど1人で戦って勝てないことはここまでの攻防で身に染みて分かっているはずだ。


「シャロンの仇は必ずとる。だけどそのために死んじゃダメだ。お前にはまだその先があるんだろ!?」

「ユート……。う、ぐぅぅ」

「死んでもってぐらいなら、手段を選ぶなよ! まず俺達を頼れ! さっきの見てただろ? みんなで力を合わせれば、不可能じゃない」


 ロンメルトの体から力が抜ける。分かってくれたか。


「君は相変わらず、叶えられるかどうかも考えずに夢を語る」

「知ったようなこと言うなよ。それに、叶えてみせる」

「ほら、それも根拠の無い妄言さ。それに、君達に頼って敵討ちして、皇帝の座を奪ったとして、そんなものが王様と呼べるのかい?」


 いかにも友達がいなさそうなテロスらしい考え方だな。王になる者が他人に頼っちゃいけないって? 俺はそうは思わない。

 そしてそう考えているのは俺だけじゃないみたいだぞ?


「孤独の王なんぞ存在しねーよ」

「んむ。人が集い、束ねる者が現れ『王』となるのじゃ」

「1人で王を名乗るとか、ただの痛い厨二病だし」

「私は1人でなんでもできる王様より、みんなと助け合える王様の方がいいなぁ」

「ティナも王様だけど、アンナに一杯助けてもらってるよ?」

「(コクコク……)」


 8の視線を受けて、テロスの雰囲気が変わった。一歩後ろに下がったのは、果たして意識してのことなのか。

 ふと、その間に兵士達の陣形が少しずつ変化していることに気づいた。テロスもまた気づいたのか、苦々し気な舌打ちが聞こえる。


「争いも論争も、どうやらどっちも分が悪そうだね。用は済んでることだし、引かせてもらうよ」


 ケイツがまた新しい戦略を考え付いたと思ったのか。

 このまま逃がしてたまるか……とは思うものの、現状打つ手が無い。リリアの魔法を当ててからでなければ手も足も出ない訳で、そのタイミングはケイツに任せている。そのケイツが何も行動を起こさないということは、今動いても上手くいかないってことなんだろう。


「ふっふっふ、ボクに恐れをなして逃げる気か」

「誤解してるバカがいるみたいだから言っておくけど、殺していいなら君達なんて5秒もあれば皆殺しにできるよ? それだと都合が悪いから困ってるんじゃないか。それとも……それが負け惜しみじゃない証明に、1人くらい殺してから行こうか?」

「ひぃっ!?」


 不敵な笑みを浮かべていた智世が、一転して俺の後ろに隠れた、何してんだコイツ。


「待て。無理をすれば打つ手が無いではないが、黙って見送ってやる。その代わり1つだけ答えて行きな。今回の件……オルシエラ共和国の指示ってことでいいんだな?」


 そうか、テロスは一応オルシエラに所属しているんだったな。確か元老院だかの特殊部隊……みたいな話だったような気がする。

 っていうことはちょっと待て、オルシエラ共和国も交えた三つ巴の戦争になるのか?


「君が何を心配してるのかは分かってるよ千戦。安心しなよ、きっともう僕はオルシエラから除名されてる筈だからね。さすがに勝手しすぎたかな?」


 除名って。こんな怪物、味方なら相当頼もしいだろうに、それを除名されるだけのことをしでかしたのか。いや、今も独断で他国に戦争を吹っかけるような真似をしてるんだから、当然といえば当然なのか?

 なんにせよ良かった。その言葉が本当なら、オルシエラとは争わなくて済むってことだ。あの国にはリゼットがいるからな。一緒に迷宮を制覇した仲間とは戦えない。


 しかしこいつ後ろ盾が無くなったって割には余裕が感じられるな。ガルディアス帝国に亡命とかだけは勘弁して欲しいんだが。


「それじゃあバイバイ、深蒼のお兄さん。そろそろ鐵のオリジンが出て来るだろうけど、負けないでね」


 聞き捨てならない情報に呼び止めようとした時には、もうテロスはどこにもいなかった。やっぱり空間属性なのか?



「引き上げるぞ、ユート。あちらさんも今は事を荒立てる気が無いらしい」


 ケイツの言葉にガルディアス陣営の方を見てみると、もう浮遊船に乗り込んで離陸するところだった。シャロンと従者さんの死体は無い。ガルディアス陣営が回収したんだろう。自国の王女だ、手厚く弔ってくれるのは疑っていない。


「すまんが元帥よ、あの船が見えなくなるまでは見届けさせてもらいたい」

「ああ、そうだな……急ぎゃしねーよ。ゆっくり見送ってやれ」


 ロンメルトが山の向こうへと消えていく浮遊船を黙って見つめている。自然と俺もそれに倣い、気づけ全員が空を見上げてシャロンを見送っていた。

 さようなら、シャロン。お前のお兄様はきっと立派な王様になって故郷に帰るから、先にガルディアス帝国に戻って待っていてくれ。それまでは俺がロンメルトの力になってみせるから。



 日が傾き始め、空が茜色に染まる。血の色のようにも見える夕焼けの赤を、こんなにも悲しく残酷に感じたのは生まれて初めてだった。

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