表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/223

友好のあくしゅを

「大きいねー」


 王都を囲う城壁の内側にもう一つあった壁の先に俺達はいた。

 目の前には城。近づくことでその大きさがよく分かった。城なんて日本の物くらいしか見たことがなかったけど、高さがあるせいか、ずっと大きく感じられる。


「来たか……ようこそ、オリジン。我々は貴殿らを歓迎する」

「こ、これは元帥閣下」

「ご苦労だった。あとは私がお連れしよう」

「はっ」


 城の門の前で待っていた男に俺達を引き渡し、ここまで案内してくれた兵士達は去って行った。

 それを見送り、元帥と呼ばれた男を見る。


 金髪の30歳前後の男だ。日本人は童顔だというから、実際は40近いかもしれない。両サイドのもみあげだけが胸の前まで届くほどに長いのは、俺達と同じように魔力の影響なのか、そういうヘアスタイルなのか。

 服装は兵士達と似たデザインだが、数段グレードアップしていて、その地位の高さを感じさせた。

 

 詳しくはないけど、元帥って明らかに偉そうな肩書きだが、お偉いさん自らの出迎えとは、なにかプレッシャーを感じるな。


「これより、謁見の間にご案内する。我々は貴殿らに敬意を持って対応させていただくが、陛下に無礼があった場合はその限りでは無い」


 ピリピリしているのは、やっぱり王様を暗殺されたばかりだからだろう。そんなタイミングに素性の知れない人間を招き入れるんだから無理もない。


「とまあ、形式的に言わせてもらったが、気にすることは無い。お前たちが妙な事を企んでないことは、魔女の予見でわかっているからな」


 そう言って元帥は、俺達を安心させるよう、にっと笑った。

 いい人そうだ。だからこそ、俺はさっきからずっと思っていたことを、口にしてしまわない様に胸に仕舞った。

 アゴがお尻みたいだって、ケツアゴだって……言ってはいけないんだ。だから琴音も、その一点に注いでいる視線を他に向けるんだ。


「もう聞いてるかもしれないが、この国……セレフォルン王国はオリジンに何も強要しないと決めている。それは王亡き今も変わらん。世界を跨いでしまった迷い人として、無事に帰れるよう手助けをするべし、とな」


 暗殺された王様は、本当に優しい人だったんだな。

 利用しないまでも、俺達がこの世界で生きていくことを決めるだけでも大きな意味を持つだろうに、帰る方法を探してくれようとしていたなんて。

 

 会いたかったな。会ってお礼を言いたかった。だが殺されてしまった。

 暗殺した奴を許せない気持ちはあるけど、おれが優先すべきは琴音の安全だ。これから会う女王がどんな人物で、どんな話をしてこようと、その優先順位だけは揺らがせないように気をつけよう。

 

「さあ、ここだ。礼儀作法なんかも違うだろうから気にする必要はないぞ?」


 元帥の合図で、大きな扉の両脇に控えていた守備兵がその扉を開ける。

 ゆっくりと開いた扉の先は、巨大な廊下のように広く長い部屋になっていて、その両サイドに偉いぞーっといった恰好の人々が並んでいた。


 そしてその部屋の最奥。爛々たる豪奢な玉座に彼女は座っていた。周りの重鎮と比較した時の圧倒的な存在感。違う、と一瞬で感じさせられた。


「ようこそおいで下さいました、オリジン様。私がこのセレフォルン王国の女王、アルスティナ・S・ラーズバードです」


 俺達に語りかけつつ、彼女は決して俺達を見ない。その視線を独占しているのは、女王の前に跪く側近。


「私達は心よりあなた方をか……かん、か……」

「歓迎し」

「歓迎し、友として友好の…………」

「握手、です陛下」



 側近の女性が持つカンニングペーパーに向けられていた。


「わかんないもん! だから難しい漢字は使わないでって言ったのに!!」

「先日の教養の時間に教えたではありませんか!?」

「しらなーい。おぼえてなーい」


 玉座に座った彼女は周りの重鎮と比べて明らかに浮いていて、一目で「あれ?」となる程に幼かった。

 

 12,3才くらいか。まだランドセルを背負ってても違和感の無いサイズの体だ。見た目は白い肌に純白の髪、金色の瞳と全くランドセルとは無縁なんだが。

 箱入り娘だったのか、発言や仕草は見た目の年齢よりも更に幼い。

 この子供が、女王?


「驚くだろうな、やっぱり」


 そう言ったのは、俺達の横で跪いていた元帥だった。腕を交差させた、門番達がやっていたポーズだ。


「だが正真正銘、陛下の御息女。新たなセレフォルンの王だ」

「あんな子供を暗殺される危険のある責任者にするなんて、本気なのか?」


 俺の言葉に元帥は困ったように笑い、額に手を当てた。


「分かってるさ。だがお前達には解らないだろうが、我々にとってオリジンの血の濃さは絶対なのさ」


 向こうが揉めている間にざっくり説明しておこう。そう言って元帥はこの世界のルールを教えてくれた。


「オリジンの血の濃さ……つまり魔力の強さは10段階に分けられている。オリジンをはじまりとして、第1期から第10期まで。11期は無い。それはもう、魔力が無い人間だ。第1期はオリジン自身の子供や孫。そこから代を重ねるごとに、魔力はどんどん弱くなる。ま、当然だな」


 商人アンゴルも言ってたっけ。今の人間はオリジンの血が薄まりすぎて、かなり弱体化してるって。つまり第1期はほとんどオリジンと変わらない魔力を使えるけど、第10期は逆に、もうほとんど魔法を使えない状態か。


「そして現在、ほぼ全ての人間が第10期。元帥の地位に就く私ですら、第8期だ。だが王族は1200年経った今でなお、第5期を維持している」


 それは、たしかに凄い。昔の人は10代半ばで子供を産んでいたらしいことを考慮すると、1200年で80回も代を重ねていることになる。最初の子供は半分の50%の血を受け継いでいるとして、つまり血の濃さは1%もない。相手もオリジンの血を持っていることを計算しても2%いけばいい方だ。そんな時代で25%はつまり、1200年後に孫や曾孫が生まれてるようなものだろ? 尋常じゃないぞ。


「全員がオリジンの末裔である世界で、その血の濃さはそれだけで民衆を統率できる。見ろ、あんな子供が玉座に座って、はしゃいでいる姿を見せて、不快そうな人間が一人でもいるか?」


 見回して驚いた。

 国王が亡くなれば、跡目争いや乗っ取りやら、腹黒い権力者の暗躍が起きてもおかしくない……いやむしろ、起きない方がおかしそうなものだ。

 だけど元帥の言う通り、そんな不穏な空気は微塵も無い。

 呆れたように笑う者。困った顔で見ている者。怒ってないかと俺達も方を心配そうに窺うもの。全員が子供女王を、いい意味で気にかけていた。


「この国ではそこまででもないが、オリジンを神として信仰している国すらある」


 それだけ1200年前のオリジンの影響残ってるってことか。世界を救って国を作って、全員の祖先となれば無理もないのかもしれない。


「もっとも、子供であることに変わりはないからな。王としてはまだ勉強中だ。我々が支えなくてはならん。そして……命に代えても守らねばならん」


 肝心の本人は側近にカンニングペーパーの作り直しを要求してるけどな。もう意味ないだろ。


「えへんっ! じゃ、気を取り直して……」


 女王……アルスティナがてててっと走り寄って来る。え? 女王ってそんな近づいてくるもんなのか? と思って側近の人の方を見ると、もうどーにでもなれ、えいって顔で子供を見送る母親のように手を振っていた。諦めたのか。


「友好のあくしゅを!」


 ぺい、と出された小さな手のひらを見て、琴音と顔を見合わせる。

 やばいぞコレは。仮に今のセリフが「一緒に死んでください」でも、手を握り返していたかもしれない。だって拒めないだろ、胸が痛くて。


 琴音は一足先に握手する。そして再び出された手のひらと、疑うことなく向けられた瞳。選択肢があるようで全く無い。


 差し出された手を握り返す。

 今後この笑顔で無茶な要求をされないことを願いながら。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ