表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/223

余は、やらねばならぬ事ができたのだ!

「お前……何がしたいんだ。どんな目的があれば平気な顔でこんな真似ができるんだ!?」

「あは、内緒」


 フードが邪魔で表情は見えないけど、人を小馬鹿にしたような顔をしているに違いない。


「っと言いたい所だけど、ヒントだけあげようかな? 全ては父さんのためだよ」


 それはヒントじゃなくて答えなんじゃ……。黒幕はコイツの父親ってことだろう? ということは、他にもこんな怪物がいるってことなのか。

 なら尚の事、テロスをどうにかする方法をみつけないといけない。その父親とやらが出張ってきた時のためにも、なによりシャロンを殺したコイツを仕留めるために。


 シャロンは仲間だった。ただみんなで仲良くしたいという、単純な夢を共有した仲間。それを殺されて、和平の可能性を潰されて……ここまで引っ掻き回されて黙って帰らせてなるものか。


「そうだろう! 王様!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ロンメルトが剣を拾い、振りかぶる。その心の乱れの一切を封じ込めた一振りは、美しい軌跡を描いてテロスの脳天に叩き込まれた。

 

「うん、無駄だね」


 音も衝撃も何もなく、ロンメルトの振り下ろした大剣の刃は消失していた。


「殺されてあげるのは一度だけだよ、王子様」


 テロスがゆったりとした動作で手を持ち上げる。その掌を向けられたロンメルトが飛びのこうとして……動かなかった、何事かと思って見てみると、テロスの全身を包むローブの足下から這い出るように、何人もの人間が手を伸ばしてロンメルトの足を掴んでいた。

 そのあまりにも不気味な、ホラー映画に出てきそうな光景に誰ともなく悲鳴を上げて息をのむ。


 いや、それよりもロンメルトだ。いくらアシストアーマでも、あんな人数に足を掴まれていちゃ逃げようがない。テロスの手がロンメルトに近づいていく。消す気なのか、食う気なのか、どっちにしろ碌なことにならないことは確かだ。


「死ぬのと、死ぬことが許されなくなるのと、どっちがいい? どっちでもいいんだよ? 僕の作るストーリーに、君は別に必要ないからね」

「どちらも断る! 余は、やらねばならぬ事ができたのだ!!」


 刃の部分を失った大剣を、足を掴んでいる手に向けて投げつける。いくつかの手はそれで離れたが、振りほどけるようになるほどじゃない。だがこの手はどうやら触れるらしいことが確認でき、ロンメルトがアシストアーマの力を全開にして拳を叩き込んだ。


「我が妹の仇、貴様を殺すこと! そしてシャロンに代わってガルディアスを導くことである!!」

「そう。儚い夢だったね」


 ロンメルトが無数の手を振り払って後ろに飛んだ。だけど俺は知っている。テロスが「食う」ことを選んだならロンメルトに触れる必要があるのかもしれないが、「消す」だけならその必要が無いことを。少し離れたくらいじゃ、テロスの射程からは逃れられない。だが--


「儚くなんかないさ。王様には俺がついてる。俺達がついてる!」


 テロスの体が宙に浮いた。上にではなく、下に。


世界が命じるオーダー、大地」


 地形を操作し、テロスの足下にそこが見えないくらい深い穴を空けてやってのだ。森羅万象一切を寄せ付けないかのようなテロスの力だが……2つ、確かに干渉を受けているものがあった。

 重力、そして地面だ。

 テロスの触れる物全てを消し去っているように見えて、だけどしっかりと地面に立っていた。もちろん無重力という雰囲気でもない。なら、地面が無くなれば当然落ちる。


 飛べなければ、これで終わりなんだろうけど……そうはいかないだろうな。


「で?」


 マグマが噴き出るギリギリまで深くしたはずなのに、明らかにもっと近い距離からの声が届いた。光が届かない穴の先の、しかしきっとすぐそこでテロスは落下を免れている。そもそもテロスは食った人間に変身できるのだから、風属性の魔法士になれば飛べるのは当たり前だ。


 よし、じゃあ蓋をしよう。

 地面にポッカリと空いた穴に、周囲の地面を流し込むように蓋をする。せっかくだからもう少し穴を深くしよう。どうせ蓋をするんだから、もうマグマいっちゃおう。


「……で?」


 普通に地面を消し飛ばして出て来てしまった。ローブにすらダメージが見受けられない。やっぱり俺だけ・・じゃ厳しいか。


「タイムストップ」

「な……」


 テロスが穴に落ちている隙に背後に回っていたリリアの魔法が、テロスから時間を奪う。

 やっぱりだ。認めるのは非常に不本意だが、テロスの謎魔法と俺の世界属性は似ている。つまり空間や時間、強化に愛といった属性……その実体があやふやな物には干渉できないのだ。ヤツの力が「消滅」だと仮定して、実体の無いものは消せない。

 さっき矢の時間に干渉しようとしたリリアの魔法を防いでいたのは、たぶん何かしらの細工があったんだと思う。不安だったから念のため不意打ちをしてもらったが。


 そして地面を消していなかったのに、いざとなれば消したということは、その力を任意でコントロールして地面を消さないようにしていたということ。つまりあの力は無意識ではなく、意識的に使っているもの。


 なら、時間が止まって意識もクソもない状態になってしまえば、あの理不尽な防御は存在しない筈。


「これでええんじゃろう、坊や?」

「あんがとよ、婆さん」


 ここまでの流れ、全てケイツの思い描いた通りだった。

 『千戦』のケイツ。第8期という魔力は今の時代においては確かにスゴイが、いないという程じゃない。にも関わらず3国にその名を轟かせた理由がこれだ。

 本当に千の戦場を戦い抜いたわけじゃないらしいが、それでもこの世界の誰よりも最前線の戦いを見てきたその目は、文字通り戦場を見通す。魔法でも何でもない「経験による予想」こそがケイツの武器らしい。


 そしてその味方にすれば最高に頼もしい司令官が、高々と手を掲げ……振り下ろした。


「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 そしてロンメルトがテロスの気を引いている内に、奴を囲うように展開していた1000人の精鋭が一斉に魔法の力を行使した。といっても遠距離魔法に限定しているから数はその半分くらいだけど、それでも目が眩むような暴力の奔流だ。

 そして俺とケイツもそこに加わる。琴音の魔法は他の魔法とぶつかってテロスの盾になってしまうから今回はお休みだ。


 ケイツが二丁の銃に魔力を込めて引き金をひく。すでに他の兵の魔法でテロスの姿は確認できないがケイツのことだ、正確に狙いをつけているに違いない。弾丸の先を目印に、俺も魔法を行使する。

 準備はロンメルトが戦っている時から進めていた。戦場の上に集まった不自然な雷雲が光る。天帝フルフシエルのようにはいかなくとも、これだけ時間があれば少しの雷雲くらいは作れるのだ。


 映画のCGでしか見たことが無いような雷が降り注ぐ。

 他の魔法が作り出した土煙を一瞬で吹き飛ばし、雷光が視界を埋め尽くした。きちんと制御しなければ、この場の全員……いや、下手をすれば遠く離れた場所にいるガルディアス陣営さえも地面に流れた電流で全滅しかねない一撃だ。


「む、限界じゃ。ヤツが動けるようになるぞい」


 もうもうと立ち籠める煙を掻き分けるようにテロスが姿を現した。その足取りは明らかに重い。

 この世界に来て半年。ようやく一矢報いることができたようだ。


「は、はは……まいったなぁ。全然予定にないよ、こんなの。これだから変異属性は嫌いなんだ。オリジンでもないポッと出の人間風情が僕らの領域に手を伸ばしてくるんだもんなぁ」


 その口振りからして予想通り、リリアの魔法は消すことができないようだな。テロスが苛立ちを露わに腕を振り、まとわりつく煙を吹き払う。


「あー、裸!」

「だ、だめだよティナちゃん! 見ちゃダメ!」

「全裸のショタ……だと?」


 ダメとか言いながらガン見してんじゃん。


「美女になった方が良かったかな?」

「……そのままでいい」


 一瞬悩んだケイツが時と場所を選んだ。

 テロスが「そう?」と全く笑えていない笑みを浮かべながら新しいローブを取り出して身に纏う。服を換えてしまうと何のダメージも無いように見えるな。


「やれやれ、ひーふーみー……だめだぁ一万近く減っちゃってるよ。ああ、くそ! ウソでしょ、1000年くらい前に苦労して手に入れた英雄まで消えちゃってる!? 勘弁してよね、もう……」


 一万? 一万ってまさか今の攻撃で死んだテロスの中の人間の数か? あいつそんなに溜め込んでいたのか。いや、それだけ死んでも少し落胆した程度。コレクションの一部を失ったような反応だ。


「選り好みしてると、こういう時にダメだね。まあ僕もまさか、僕を殺せると思っていなかったから油断していたよ。これからは好き嫌いしないで、どーでもいい人間も食べることにするね」


 これは相当な数を貯めこんでいそうだな。死なないなら死ぬまで殺し続ける、なんて日本にいた時に聞いたことがあるけど、今の規模の攻撃をあと何回繰り返せばいいのやら。

 だけど一度は成功したんだ。テロスにダメージを与えることが不可能じゃないと判明した。


「もし同じ方法が通用すると思っているなら止めておいた方がいいよ。まったく過小評価してたよ、アランの娘リリア・ラーズバード。残念ながら君には大事な役割があるから殺せないけれど、こういう手があると分かってしまえば、あとは君だけ警戒していればいい話だ。他のみんなの攻撃は、放っておいても防げるんだからね」

「ならば違う手を使うのみじゃよ。こちらには千戦がおる」


 テロスが苦々しい表情でケイツを見た。確かにケイツなら、すぐにでも他の手を考えつきそうだ。


「千戦か。彼もまた、まだ役割が残っている。困ったなぁ、こんなにこじれるとは思ってなかった。ねえ、どうしてそんなに怒っているの? お姫様のこと?」

「当然であろう!! 余の妹を、余の……貴様だけは決して許さん!」


 怒り狂うロンメルトに、テロスが肩をすくめる。


「どうせ死ぬことが決まっていた子なのにかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ