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やっぱり恐ろしいわ、セレフォルンのオリジン

 俺も変装しました。

 って言っても帽子を被って髪の毛を隠しただけだけど。この青い部分の髪を出しっぱなしにしていると、せっかくアルスティナが変装しても結局衆人の視線を集めることになってしまう。琴音や智世ほど民衆ウケがいいわけじゃないけど、一応これでも英雄扱いされているのだ。

 同じ理由でリリアも変装したほうがいいんじゃないかと思ったけど、意外と顔は知られていないらしい。そして知らなければ、こんな幼女が1000年以上も生きているババアだとは夢にも思わないだろう。


「さあて、どこに行きたいのじゃ?」


 万全の準備を整えて城の裏口から町に下りたが、その行き先はまだ決まっていない。決めるのはやっぱり言い出しっぺのアルスティナに任せよう。

 聞かれてアルスティナが頭を捻る。その頭上にはあの伝説のサンドアーマードラゴンが鎮座していた。今日のオル君は女王様の絶対守護者。最強のボディーガードなのだ。いや、冗談ではなく、元々の優れた危機察知能力に加えて強固なウロコを手に入れたオル君の防御力はまさに鉄壁。ぶっちゃけ守ることに関しては俺より頼りになると思う。

 うーん、うーん、とアルスティナが頭を揺らす度に、オル君も振り回されている。落ち着きが無いから大変だろうけど、頑張れ!


「んーとねぇ……んと、お外で遊んだことあんまり無いから、よくわかんないや」


 まあ元王女様で女王様だもんな。でも俺も娯楽に関してはよくわからない。日本なら、ゲームセンターなりアミューズメントパークなり『遊ぶための場所』っていうのがあるから簡単なんだけど、こっちじゃ遊ぶ場所って言うと娼館っていう意味になるし。

 一応、俺の尊厳のために言わせてもらうとそういった店にお世話になったことは無い。いやだって知らない人となんて嫌だし、なにより有名人がそういう所に行くと、あっという間に噂が広がるのだ。バレる上に王都中に広まると分かっていて行くほど、俺は勇者じゃない。……興味が無いといえばウソになるけどね。


 と、とにかくだ。普段から町をうろついている俺でも分からないんだから、城に引きこもっているアルスティナにわかるはずもない。本から得た知識から行ってみたいと思っていた場所なのか、今も悩みながら「海!」とか「森!」とか言ってるけど、そんなの王都の中に無いし。


「んーとねぇ、じゃあ……歩こっ!」

「歩く、だけですの? 楽しいかしら、それ」

「楽しいことを探しながら歩くんだよ!」


 普段出歩かないアルスティナにとっては、普通の町中ですら初めて見る物がたくさんさるだろうし、シャロンもセレフォルン王国に来た事が無いはずだから、ただ見て回るだけでも楽しいかもしれないな。


 ということでアルスティナのシャロンの気の向くままに、俺達は王都の町並を練り歩いた。

 時にお菓子屋で色とりどりのキャンディーに喜び、時に広場で行われていたショーに目を奪われ、時に大通りを闊歩する大きな騎獣に驚く。俺から見れば「そういうものなのか」で済ましてしまうものにも、いちいち大はしゃぎしている姿は、見ている方まで楽しい気分にさせてくれた。


「あそこは何かしら?」


 そんな中シャロンが目を付けたのは、基本的に「王都」として扱われている大きな城壁の内側ではなく、その外。「外周居住区」と呼ばれる区域だった。


 三重の円形を書いて、その中心が王城、王城を囲っている範囲が城下町。そしてその城下町をさらに囲っているのが外周居住区だ。外周居住区を守る為の防壁は、俺と琴音が初めて王都にやって来た時にはすでに途中まで作られていたけど、その作業は今でも続いている。まあ、かなりの広範囲を囲う壁だからな。あと5年はかかると言われている。


 そんな未完成な場所だ。当然餓獣なんかも入り放題なんだけど、それでも既に多くの人々が暮らしていた。そのほとんどが戦争で故郷を焼かれた難民達だ。家も財も、人によっては家族も奪われて、それでも生活を立て直そうとあそこで頑張っているのだ。


「あそこは外周居住区と言ってな……」

「そんなことは知っているわよ。そうじゃなくて、あそこ」


 知ってるのかよ。よく考えれば王城の窓からだって見えるんだから当たり前か。

 じゃあ何が分からないんだ、とシャロンの指差した先を見てみると……なるほど、あの不自然な部分か。一度全部整地されているにも関わらず、何十年、いや何百年もの年月を感じさせる森がぽつんと存在していた。うん、分かりきっている。あれは琴音の仕業だ。最後に王都を出た時には無かったはずだから、最近できたんだろう。


「行ってみるか?」

「ええ、なんだか気になるもの」


 こいつ琴音の魔法は見たことあるはずなのに、予想できてないのか? あそこには多分、お前がいまだにビビってる「オリジン」がいるんだけど。あ、俺もか。

 まあ本人の希望だ。アルスティナもあの森の存在を知らなかったのか、行ってみようって言ってるし。



「ふうん、そっかぁ。ゆっくり見てってねぇ」


 大きな木の上から、この森の支配者が歓迎の言葉を落下させてきた。ちゃんとおいしく育ったかどうか、木の実の味見をしようと登っていたようだ。せっかくだから一個貰ったけど、めちゃくちゃ甘かった。むしろ甘すぎて胸やけしそうなんだが、なんで他の子はみんな笑顔でこれを食えるんだ?


「セレフォルンのオリジンは素晴らしいわ。鐵のオリジンなんて、壊すしか能が無いんだもの」


 魔獣と戦う方法だから「魔法」なんだし、琴音や智世の方が不自然なんじゃないかと思うんだけど、この魔法が素晴らしいってことには全面的に同意だ。品種改良のしていないこの世界の果物や野菜は正直あんまりおいしくなかったから、今の俺達の楽しい食卓は琴音によって守られていると言っても過言じゃない。

 それに、こうして集まってきている難民だって、本当なら食料が無いからと地方に放り出すしかないはずだったのが、琴音のおかげで生活できているんだ。そうでなければきっと大勢の人が飢餓苦しんで死んでいたに違いない。


「ふははははは!! それだけではないぞ。見よ、魔法に頼ってばかりだった貧弱な男達の、見違えるような働きぶりを!!」

「お前、見かけないと思ったら……」


 アシストアーマの上から作業着を着て収穫用の大きなカゴを背負ったロンメルトの姿は、シュールと言う以外の表現が思い付かないものだった。しかしどこかで修行でもしているのかと思っていたら、まさか農作業をしていたとは。

 そしてロンメルトが示した先では、琴音の成長魔法を受けたらしい難民の農夫たちがせっせと働いていた。せっせと、と言うよりズバババババババッって感じで働いてるな。見ろよあの冴えないおっさんを。二本の木の幹を交互に蹴って、木の実のある高さまで駆け上がってるぞ。


「やっぱり恐ろしいわ、セレフォルンのオリジン」

「ええ!? なんでぇ!?」


 それも同意だ。70歳くらいのヨボヨボのお爺さんが切り株を引っこ抜いて100M先の焚火に投げ込んでるんだもんな。いや、そもそもジジイを成長させたら死ぬんじゃないのか? さすが「愛」属性、理屈じゃないんだな。


「きゃあ!? ちょっとあれ! 餓獣が入り込んでますわよ!!」

「ユリウスまで……」


 大事な仕事だとはいえ、みんなして琴音の言いなりだな。ユリウスの姿は見えないけど、その友達の獣や餓獣が忙しなく動き回っては機材や収穫物を運んでいた。人前ではあんまり使うなって言ってあったはずなんだけど、きっと琴音に頼まれてのことだろう。しかし猿の仕事ぶりが半端じゃないな。こっそりつまみ食いしてるからプラスマイナス0だけど。


「そういえばすぐ近くのテントで智世ちゃんが今日来た難民の治療をしてるよ。様子を見て来てあげたらだうかなぁ」

「そうなのか? まあ近いならちょっと覗いてみるか」


 そういう現場を見るのは、王族2人にはいい勉強になるかもしれないしな。リリアも俺と目を合わせて頷いている。もしかしたら刺激が強すぎる光景があるかもしれないと心配したけど、リリアがOKを出したなら大丈夫だよな。最悪、責任は全部お任せしちゃおう。


「ここか?」


 いかにも即席で作りましたって感じのテントだな。

 そっと中を覗いてみる。まがりなりにも王都まで自力でやって来た難民なんだし、そんなにグロテスクな状態になってる人はいないと思うけど、念の為先にチェックをね。


「あーーーはっはっはっはーーー!! 崇めよ、敬え、奉るのだーー!! ボクが新世界の神だ!」

「「ははーーーー」」


 …………想像以上に刺激が強かった。


「どうしたの? 入らないの?」

「やめておこう。あんなものは見るべきじゃない」


 俺も見たくなかった。あれ、本当に俺と同じ国で生まれ育った人?

 真っ赤に染まった(多分ぶちまけられた生卵)の中で高笑いする少女と、その周りで土下座みたいなポーズで平服する難民達。そりゃあ確かに魔法での治療なんて神の奇跡みたく見えるのかもしれないけど、あれは無い。


「そう……そんなに酷い状態の人がいたんですの。謝ってきた方がいいのかしら? だってガルディアス帝国のせいなのでしょう?」

「いや、確かに(精神が)酷い状態だったけど、あれは間違いなくガルディアス帝国は関係無いから。ほんとマジで」

「気休めはよして」


 悲痛な表情してるけど、マジで君ら関係無いからね。強いてどの国が悪いのかといえば、日本が悪いよ。


「気になるならば、これから頑張れば良いのじゃ。お主の行動は、多くの人々を救う可能性を持っておるのじゃからのう」

「ええ、そうですわね」


 キリッ、と顔を引き締めるシャロン。しかし「ですわ」が出る度に笑いそうになってるな、アルスティナ。さすがに一度注意されているからガマンしてるけど。


「おお、そうじゃあー」


 ん? なんか白々しい雰囲気でリリアが手を叩いたぞ。嫌な予感がひしひしと伝わってくる。また余計な事を企んでいるのか?


「多くの人々を救うという話で思い出したのじゃー。なんでも今、城下では新作の演劇がそれはもう大人気らしいではないか。確か、なにかしらの英雄譚を劇化したとか。面白そうじゃろう? 見に行きたいじゃろう? よし行くのじゃ!」

「わあ、見たい見たい」

「あら、こちらにもそういった文化はあるのね。よろしいのではなくって」


 俺はあんまり行きたくない。劇に興味が無いとかじゃなく、リリアの不気味な笑みが怖いから。でも王制だろうが民主制だろうが、多数決で負けた上に王族が二人とも賛成じゃ反論の余地は無かった。


 そして劇場の前でリリアの笑みの理由を知った。

 なんだよ「深蒼のオリジン、最期の戦い」って。勝手に演劇にするな。そして殺すな。

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