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お待ちしておりました

 巨大な壁だった。

 おそらく円形をしているだろう純白の壁は高さ20Mはあり、都市の様子を完全に隠してしまっている。見ることが許されたのは、中央にそびえる白と青の城のみ。ちょっとネズミ王国の城を思い出した、あんなとんがってないけど。


 遠くの方で、二重丸になるように新しい城壁の建築が行われている。ちらほらと城壁の外にも家がある辺り、人口が増えて増築してるのか。一度壁を作ってしまうと広げられないからな。そうだとすれば、確かに善い王様なんだろうと想像できる。莫大な時間と予算を国民の為に使ってるってことだ。


 さて、城壁の中はどうなっているのか。それを見に行く前に考えなければならない問題が一つ。


「この髪、どうするかな」


 さすがは王都と言うべきか、人の行き来が活発だ。東西南北に伸びた道から様々な人々が集まり、門の所で兵士らしき人から検問を受けている。そして当然、俺達も今から受けることになる。


 ここに着く前から少しずつ人とすれ違うことも多くなっていたが、誰一人として俺達の髪の色に反応しなかった。ゲンサイさんがそうであったように、やっぱりオリジンの特徴である髪の色の変化は、一般には知られていないようだ。


 だが、だからといって国に仕える兵士が知らないと決めつけるのは楽観的すぎるというものだろう。


「琴音は髪が長いんだし、隠せるんじゃないか?」

「やってみるね」


 琴音か髪がばらけないように緑色になっている髪を三つ編みにすると、後ろ髪の中に潜らせてピンで止めた。ちょっと髪のバランスはおかしくなったが、いくら門番でも女の子の髪型に文句を言ったりはしないだろうし、いけそうだ。


「大丈夫そうだな。俺は……別にこだわりとか無いし、切るか」


 洞窟から拝借したままだったナイフで、もみあげ部分の青い髪を根本からバッサリと切り落とす。これで服装が変わっていること以外、怪しまれる要素はないと思う。というか恰好に関しては、ゲンサイさんがOKなら大体OKだろ。れっつごー。






「こ、これはオリジン様!?」


 何故ばれた?

 俺の切られた髪の意味は一体……。


 俺達が城壁に近づいた途端、兵士の詰所らしき場所からドカドカと人が出てきて整列した時は驚いた。捕まるかと思ったよ。

 整列した白い兵装の男達は深々と頭を下げ、持っていた槍を腕をクロスさせて地に着ける。なるほど左手が上にくるように交差して穂先が右にあっては、すばやく槍を構えることは出来ない。この国流の無抵抗のポーズなのかな。侍が刀を腰から離して横に置くみたいな、不意打ち不可能のポーズ。


「お待ちしておりました。貴方様方の来訪は、時流の魔女の予見にて知らされておりましたので」

「そんな魔法まであるのか」


 便利そうだな。そして反則的に強そうだ。

 オリジンは最強。みたいな事言ってた割に、俺より強そうなのが多いような……俺がへっぽこすぎるだけじゃなかろうな。不安になってきた。


「王城にて陛下がお待ちしております。ご同行頂けますか?」


 ご同行するしかないだろ。EXアーツは人それぞれ違ってるみたいだから、全部同じ形をしてる兵士達の槍は支給された普通の槍。つまり抵抗しても勝てないってことだ。ほんと俺の魔法は使い勝手が悪いなぁ。

 この国の王様は良い人らしいし、大人しくしておこう。


「わかりました。もしもの時は抵抗しますよ?」

「はっ。オリジン様に歯向かう愚か者などおりませんが、御身が危険を感じられたのなら、それは我々の不徳の致すところ。甘んじてお受けいたします」

 

 堅苦しい人だな。過去の英雄と同郷ってだけのガキに対し。まあ、この人達は俺の魔法の不便さを知らないから、怒らせたら国ごと吹き飛ばされる、くらいの事を想像してるのかもしれない。それを期待してのハッタリだっだ訳だし。



 そうして数人の護衛兼案内人に連れられ、俺達はようやく異世界の町へと足を踏み入れた。


 

 俺達を待ち受けていたのは、まさにファンタジー。


 町並みは城と同じ、白い建物に青い屋根が多い。お城に合わせたのか、そういう風習なのか。ここまで統一されたら、風習でなくとも違う色にはしづらそうだ。え、お前なんで屋根赤くしてんの? とか言われかねない。

 そしてその町に生きる人達。多種多様な髪の色、肌の色に、動物っぽい人。様々な人々でごった返していた。

 家畜も色々いるらしく、馬車を引いている動物だけ見ても、普通の馬のようなものに始まり、トカゲや鹿、亀のような動物までいる。亀に引かせて時間的に大丈夫なんだろうか。


 しかし違和感があった。

 一瞬考えて、違和感の正体に気づく。


 これだけの人々が行き来しているというのに、まるで活気がないのだ。

 会話が重なってざわめきとなってはいるが、その声は全て暗い。なにかあったのか? そんな考えが顔に出ていたのか、案内をしていた兵士が沈痛な面持ちで口を開いた。


「やはりお気づきになられましたか」

「みんなどうしたのかな? すごく悲しそう……」

「はい、恥ずかしながら……我々の力が及ばなかったばかりに」


 兵士の表情は、今にも自害するのではというほど思いつめたものだった。そして次の言葉に、その表情の理由を知ることになる。



「数日前に、国王陛下夫妻が暗殺されてしまったのです……っ」


 

 は? ちょっと待って色んな前提が崩れ去っていく。

 暗殺された? 王様が? 噂の良い人がなんで?


「まさか……戦争してるのか?」


 だとしたら国の保護下にはいるなんてヤバすぎる。戦場送りにされない方が不自然だ。なんてったって俺達はこの世界で一番強力とされる存在なんだから。

 事実、俺の能力は戦場なら、ほぼ無敵と言っていい。人がたくさんいれば、魔法もたくさんある。それらが全て、俺の力になるんだから。


「ご安心ください。まだそこまでは進展しておりません。そしてオリジン様を強引に巻き込まないことは国の方針として既に決定しておりますので」


 だがそれは王様が生きてた頃の決定だろ。指導者が変われば方針も変わるんじゃないのか? そして国王を暗殺されて、戦争に発展せずに済むとも思えない。そんな強攻に出る相手との決着なんて、戦争か降伏か。


 とはいえ抵抗して無事に脱出できる保証も無いし、どうしたものか。


「今は誰がトップに立ってるんですか?」

「国王陛下、王妃殿下が亡くなられたため、王女殿下が女王として先日即位されました」


 きついな。両親を殺されて、いきなり責任まで背負わされたのか。

 俺達はそんな追い詰められた状態に現れた英雄候補って訳だ。子供が親と同じ考え方を持ってるとは限らないし、このままついて行くのはやっぱり危ないな。


「そういえば俺達一文無しなんですけど、日雇いの仕事なんてありますか?」


 兵士が足を止めた。まずったかな、出ていこうとしてるのバレバレなセリフだったし。


「難しいですね。住民証明が無ければどこも雇ってはくれないでしょう。しかし国から援助は得られますし、断られるにしても住民証明を作ってからにするのがよろしいでしょう」


 以外にもあっさりしたものだな。本当に干渉する気が無いような発言だ。内心どう思っているかは別として。


「詳しい話は謁見の際に受けられます。どうぞ、こちらへ」


 再び兵士が歩き出す。

 俺達もその後を追って歩き出した。

 

 俺達は何も知らない。何が真実で、何がウソなのか判断する知識も無い。教えてもらうにしても、教えてくれる相手を信用する必要がある。

 現時点で俺が信用しているのは、第三者として、ここに行けば助けになってくれると言ったゲンサイさんの言葉のみ。五里霧中の状態から脱するために、おれはゲンサイさんが信用したこの国を信じることに決めた。



 王城はもう、目の前だ。

 

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