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世界が命じる

新章開幕です

これからもよろしくお願いします

 荒れ果てた荒野が広がっていた。この場所がほんの数日前まで緑で溢れた森林地帯だったと言って、果たして何人の人が信じるだろうか。

 まあ、やったのは俺なんだけどさ。


「怯むな!! オリジンといえど同じ人間だ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 何千もの人間が殺意と憎悪の視線を集中させながら俺に向かって突撃してくる。魔法を奪われることを学んだのか、最近は俺に向けて魔法を撃って来るヤツはいなくなった。

 昔の俺なら……自分の属性を正確に理解できていなかった頃の俺なら、ろくな攻撃手段も手に入らず数の暴力にあっけなく押しつぶされていた。だけど今は--


世界が命じるオーダー、地」


 三界の餓獣王、地皇アガレスロックを喰らった時に手に入れた「地形操作」により、軍勢の足下に大きな窪地を作ってやった。いきなり真下に穴が空く回避不可能の落とし穴は、唐突に地面を失って足をバタつかせる兵士達を地の底へと引きずりこんでいった。

 元々ある物を操るからか、この地形操作はとても低コストだ。魔力の消費が少なく、かつ地面に立っている相手に対して理不尽なくらいのアドバンテージがあるため非常に重宝している。


 それでなくとも、俺の魔力総量は着々と増加しつつあった。

 普通、魔力の総量は生まれた瞬間から増えもしなければ減りもしない。しかし俺は他者の力を奪い取るという特性からか、どうも食えば食うほど魔力の量が増えているらしかった。


 第10期……魔法が使える最低限の魔力を1とするならば、第9期で3、第8期で9、第7期で27と一段階ごとにおよそ3倍の差があるとされていて、その計算でいくと第1期より少し多いくらいと言われるオリジンの魔力はおよそ20000~30000。

 第10期の魔法士がライター程度の火を起こす感覚で極太レーザーを撃てることを考えると、納得できる数字ではある。


 だとすると増加した俺の今の魔力は体感で倍近く増えているから50000くらいということになる。言われてみればアガレスロックに極太レーザーを撃った時に魔力切れになったというのに、以降は全然魔力切れになっていない。海王フォカロルマーレとの戦いでも魔力を使い切る気持ちで戦ったのに、結局無くならなかったしな。どうやら知らない内にじわじわ増えていたみたいだ。

 特に餓獣王を食った後はたくさん増えていた気がする。


 おかげで今は、こうして軍勢の最前線をまるっと飲み込むような巨大落とし穴を作っても息切れ1つしやしない。今なら真正面からのゴリ押しでもアガレスロックの甲殻を突破する自信があるね。


「あ、対策たててやがる」


 いつもなら突撃しか能が無い最前列の兵士は全員ノーナンバー……魔法を使えない兵士で固められていたのに、何度も落とされたことで軟着陸できるように風属性の魔法士で固めていたらしい。落とし穴からピョンピョンと兵士が飛び出してきた。真剣なんだろうけど、離れた場所から見ている分には馬鹿みたいだ。

 おまけにゴロゴロと重量感のある音を響かせながら、妙な木の塊が運ばれてきていた。台車にデッカイ木の板が立てかけられているような形だ。


 遠くでよく聞こえないが、「降ろせー」という号令がしたかと思うと、台車の上の板がゆっくりと倒れて落とし穴の上に橋が架かった。おお、わざわざ作ってきたのか。


「オーダー、地」


 ちょっと穴を広げてやると、橋と台車は無残にも穴の底に落ちていった。かわいそうに、頑張って作ったのになぁ。なんて酷いことをするんだ。また作り直してきてね、また落とすけど。

 ぶっちゃけいくらでも広げられるから、対策の方向がすでに間違ってる。といっても何を持ってきても壊すんだけどね。苦労が台無しになった悲痛な声と、理不尽に対する怒号と不満の声は遠くまでよく響いた。


「俺の役目は、まあこんなもんかな?」


 穴から脱出した風の魔法士達も、後続が来ないものだから身動きを取れない。そんな数百程度で突撃しても結果は見えているからな。


 俺に課せられた役は「敵を進ませない事」だった。

 なんでも今回の指揮にはガルディアス帝国の偉い人が就いているらしく、じゃあ人質にしようということになったのだけど、俺の魔法ではあまりにも無差別かつ広範囲なのでターゲットのお偉いさんまでまとめて殺っちゃう可能性があったのだ。

 ということで俺が足止めをし、その隙に潜伏していた伏兵が敵軍を襲撃することになったのだ。


「みんな大丈夫かな?」


 伏兵が動き出した。

 ガルディアス軍を挟むようにそれぞれ500人ほどのセレフォルン軍が襲い掛かる。さすがと褒めるていいものか、ガルディアス軍はすぐさま体勢を立て直して迎撃の姿勢を取った。落とし穴作戦でいくらか減ったとはいえ、それでもガルディアス軍は3000はある。左右合わせても1000人しかいないセレフォルン軍が不利だ。数だけを見ればな。


「ぎゃああああああ!! な、なんで餓獣がひゅ--」


 ガルディアス軍の左翼に文字通り食らい付いたのは、ユリウスの餓獣だ。後方に続くセレフォルン軍なんておまけだとばかりに餓獣達が次々とガルディアス兵を蹴散らしている。

 魔力の薄くなったこの世界の住人達は、下級の餓獣くらいしか倒せない。それだって作戦を立て、準備をしてやっとだ。餓獣と1対1で互角に戦えるのなんて、一握りの英雄と呼ばれるような人間だけ。となれば不意打ちで襲い掛かってきたユリウスの餓獣に対抗なんてできるはずもなく、彼らはなすすべなく食い殺されるしか無かった。


「子供を参戦させる気なんて無かったのになぁ」


 頑なにダメだと言って孤児院に置いてきたっていうのに、いつの間にかシレッと混ざっていた。無理に戦う理由なんて無いはずなのに、「友達の為」だと無理をするんだもんな。それはもちろん良いことなんだけど、時と場合によると思う。

 その後ろには復讐に燃える二人の少年少女。


 結局スフィーダの両親は助からなかった。チェルカは両親は助かったが、祖父母が逃げきれなかったらしい。スフィーダの妹のチッタはチェルカの両親が面倒を見ており、今は国からの補助で王都の周りに出来上がりつつあった簡易居住区に住んでいる。

 そして若者2人は復讐心を胸に戦場へと足を踏み入れていた。


 チェルカの矢が凄まじい精度でガルディアス兵の全身鎧の隙間に突き刺さり、怯んだ所にスフィーダの剣が突き刺さる。完全に息の合った二人の連携はこれまでの戦いのさなかにも錬度を高め、今や見敵必殺の勢いでガルディアス兵を薙ぎ倒していた。



 そしてもう一方の右翼側はというと、冗談のような光景が広がっていた。

 相対するのは互いに魔法の使えないノーナンバー。お互いに全身鎧で、お互いに剣を構え、同時に叩き付けているというのに、何故ああも一方的に人間が空に吹き飛ばされてしまうのか。

 ロンメルトは大剣を一振りすればガルディアス兵が2,3人ほど吹き飛び、二振りすれば5,6人吹き飛ぶ。ちっぽけな魔法は剣の風圧で消し飛び、雷のような防げない魔法は簡単に避けられて掠りもしない。


 その時、ガルディアス兵の中からひと際豪華なマントをつけた壮年の男が飛び出した。


「ええい、何をしておる!! 貴様、曲がりなりにも王家の血をひいていながら、ガルディアス帝国に弓引くとは何事か!!!」


 ロンメルトのことを知っている人間がいたのか。ということは王宮に勤めている貴族か? コイツが今回のターゲットのお偉いさんかな?

 ガルディアス帝国皇帝ウルスラグナの第一子であるロンメルトだけど、魔力を持たないノーナンバーとして生まれてしまった彼は王家から追放されて、いない人間として扱われている。だからその存在を知っているのは、ロンメルトが生まれた当時に王宮にいた人間だけだ。


 どうやら母国に剣を向けていることに怒っているようだけど、怒っているのはロンメルトも同じだ。王家を追放されてもなお王であろうとしたロンメルトが、こんな無辜の民を蹂躙する侵略行為を認めるはずがない。


「あなどるでないわっ!! 余はガルディアス帝国の為に剣を取ったのではない! 力無き民の剣となり盾となり、希望となるためにこの剣を振るっているのであるぞ!!」


 轟音一閃、豪華なマントの貴族が吹き飛んだ。空中でバラバラに……っておい、あれターゲットじゃなかったのか? え? なんかロンメルトも「やっちまった」みたいな顔してるんだけど。


 案の定、偉そうな人は偉かったらしくガルディアス軍が敗走を始めた。

 前方には落とし穴、左右にはセレフォルン軍。必然的に背後に広がるガルディアス帝国との国境でもあるヴァーリデル山脈へと向かっていくが、そこはもう琴音の領域だ。


 俺達が戦っている間に森の木々にEXアーツであるじょうろの水をかけた準備万端の琴音が、その魔力を解放した。するとメキメキと山の木々が成長し、何十という木が混ざり合いながら上へ上へと伸び続け、そして天を貫くほど巨大な樹木が山を覆った。


 口をあんぐり開けて巨大樹……巨大すぎる樹を見上げるガルディアス軍。巨大すぎる樹がわさわさと生物のように動いてみせると、そのヤバさに気づいたのか一斉に後ずさって山から離れた。そりゃそうだ。あの木、アガレスロックと殴り合いができそうな大きさなんだからな。


 すると一本の枝がスルスルと伸びてきた。その上には一人の女の子が乗っている。琴音だ。


 自分を庇って亡くなった兵士に代わって国を守ると決めた琴音。そして敵を殺すことを躊躇したがために助けられたはずの人間を死なせてしまった琴音。

 苦悩しつつも戦うと決めて、しかしまだ戦争が始まって以来人を殺したことはない。幸いなことに、殺さなくても制圧できるだけの力が俺達オリジンにはあった。


「えと、降伏してくれますよね?」



 これはギャグか何かかと思ってしまうくらい、ガルディアス軍全員がタイミングをピッタリ合わせて頷いた。

 でもどうしよう。お偉いさん死んじゃったぞ。



 こうしてアンファングの森の戦いは終わった。

 ガルディアス帝国とセレフォルン王国の戦争が始まってから、およそ3か月後の事である。

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