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まさか、始まるのか

ちょいグロ注意

 黙々とドラゴンを探し歩くこと3時間。うーん、植生こそ日本とは違うけど、やってることは同じだな。せっかくの異世界でのドラゴン探しなのにイマイチ新鮮味に欠ける。もちろん「いるかもしれない」分、ワクワク感は上なんだけども。

 危険らしい危険もなく、せいぜい一回野犬の群れに遭遇してけちらしたくらいだ。他のチームも何事もなく進んでいるらしく、特にこれといって合図らしいものもない。たまに上から探すためか琴音の巨大樹が爆誕していたけど。あれって、この村の名物になりそうだな。


「そろそろ合流地点の岩か。やっぱり簡単には見つからないな」

「みぎゃ」


 オル君もドラゴン探し歴2年のベテランだ。俺達の手にかかれば見逃しなんて有り得ない。明日はもっと遠くを探してみよう。スフィーダ達の家には何泊かさせてもらうことになりそうだから、何かお礼を用意しないといけないな。


 なんて考えていると、結局何も見つからないまま目印の岩に到着してしまった。


 さすがは地元というべきか、すでに師匠と弟子チームが到着して待っていた。琴音達の方もユリウスの獣に乗って移動している分早いかと思っていたけど、定期的に木に登ってしっかり探していたから遅れているようだ。


「さすが自分の庭って言うだけあって早いなスフィーダ」

「いやぁ、アニキこそ何でこんな早いんすか。むしろ迷わないか心配してたくらいなのにさ」

「悪路には慣れてるんだよ」


 それから30分ほど遅れて女子高生とそのペットチームも合流した。わかっていたけど、なんの発見も無かったようだ。


「けど動物が妙に少なかったし、何か異変が起こっていることは確かだな」

「そうですね。私もこの山には何度も来ていますけど、こんなに静かなのは初めてです」


 俺は野犬と一度だけ遭遇したけど、他のチームはウサギ一匹見かけなかったそうだ。スフィーダとチェルカの話では、危険な動物なんかよりも大人しい動物の方が多い位だったというのに、だ。

 ドラゴンの気配に怯えて逃げたってことでいいんだろうか? これはいよいよもって期待が高まってきたぞ。



    ☯



 初日の帰り道も空振りに終わったドラゴン探索は、スフィーダとチェルカの実家にお願いして長期滞在の許可をもらい、ついに4日目にさしかかろうとしていた。



「もういい、もう疲れた。ドラゴンなんていないから帰ろう」

「ワンコの上に乗った状態で言うな。一番楽してるくせに真っ先に音をあげやがって」


 とはいえ皆の気持ちが切れ始めているのも確かだ。

 もう村から日帰りで探せる範囲は探し尽くした。ユリウスの餓獣に乗せてもらって探索済みの範囲をスルーしてかなりの広範囲を探したにも関わらず、成果はゼロ。影も形も見つからない。


「ユートよ、これはもう見間違えか、そうでなくとも既に危険は去ったと判断してよいのではないか?」

「でもドラゴンだぞ? いや、俺の願望は抜きにしても、相手は空を飛べるんだ。山脈の反対側からだって1日で村まで来れると考えると、やっぱりまだ安全とは言い切れないだろ」


 決してまだ諦められないから言っているわけではない。決して。


「だがこれ以上は野宿をする必要もでてくる上に、余の弟子達の土地勘も無くなるのだ。余は平気であるが、皆が耐えられまい」


 そうだな。野宿は想像以上に休まらない。山頂、あるいはその先まで行くのなら村に戻るのは無駄でしかなく、納得がいくか食料が尽きるまで野宿を繰り返すことになる。琴音や智世がそれに耐えられるとは俺も思わない。土地勘が無いことにより高まる緊張感もそれに拍車をかけることは想像に難くない。


「仕方ないな。万が一に備えて俺か王様は村に残るとして、一旦王都に戻ってドラゴンの情報を調べてみるか。本当にドラゴンが住処を移したなら、さすがにもう情報が入ってるはずだからな」


 それで情報が入っていなければ、見間違いか、気まぐれにその日だけ村の近くを通過しただけと判断することにしよう。

 そうと決まれば村に戻ろう。


 と、思った時だった。



「え……?」



 突然、夜が来た。


 いや、何かが頭上に現れ太陽の光を遮断したのだ。巨大な影の中、俺達は真上を見上げる。そこには4日間探し続けていたものが浮かんでいた。


「大きい……魚?」

「いや違う、これは……」


 確かにこの影を生き物に例えるなら、おおよそ誰もが魚と答えるだろう。だけどこれは魚なんかじゃない。そしてドラゴンでもない。


「これは、船だ」


 空飛ぶ船。気球や飛行船でもない。まさに海の上を進むための船そのものの形をした物質が、その質量を無視するかのように空に浮かんでいた。

 そしてその船はゆっくりと--距離が遠いためそう見えるだけで、実際はかなり早いだろう--俺達の頭上を通過していった。真上ではなくなったことで、船のマスト部分が見え始める。そこにはどこかで見たよなマークが刻まれていた。


「あ、あれは……」


 そのマークに反応したのは、ロンメルトだった。


「あれはガルディアス帝国の国章ではないか!!」


 その言葉で思い出したのは、ガルディアス帝国からセレフォルン王国への船の船長が話していた情報……ガルディアス帝国が妙な船を作っているという話だった。

 てっきり海から攻め込むための船を作っているのだと思っていた。陸地に囲まれたガルディアス王都で造っているのは不自然だという話だったけど、なにか海に輸送する手段があるとばかり……まさか空を移動するなんて。


 おそらく木こりのジェームズさんが見かけたのは、この船の飛行実験をしている所だったんだろう。風に流されるなりして国境を越えてしまったといったところか。


「ちょっと待て、そのガルディアス帝国の船が……どこに向かってるんだ!?」


 前回はどうだか知らないが、今回の船は明らかに目的を持って飛んでいるように見える。一体何のために--

 いや、それは現実逃避だな。こんな船を秘密裏に造るなんて、まさか交易に来ましたとは言うまい。そしてそんな船が今、まっすぐにセレフォルン王国の領土へと飛んで行っていた。


 絶望的な気持ちで、空を行く船を見上げる。


「まさか、始まるのか……」


 戦争が。

 待ってくれ、早すぎる。まだ琴音達を送り帰せていないどころか、俺自身の覚悟さえ曖昧だっていうのに。

 だけどそんな俺の懇願をあざ笑うかのように、空に浮かぶ船でいくつもの光が瞬いた。それから少し遅れて、山の麓に爆炎があがる。


「砲撃!?」

「ちょっ! 待ってくれよ、あそこは! あの辺りは俺達の!!」

「私達の村がっ!! いやあああああああああああああああああああ!!!?」


 さっきまで広がっていた青空が、あっという間に黒煙と炎の赤に塗りつぶされていく。


「なんだ、これ」


 今の今まで冒険気分でドラゴンを探していた。そこいらの餓獣程度なら簡単に蹴散らせるだけの力を手に入れて、ちょっとしたピクニックにも似た気分だった。

 それが一瞬にして崩壊して、地獄に変わっていく。変えられていく。


「リスの子よ! 早く餓獣を出すのだ!! 足の速いものだ、早くせんか!」

「そ、そうだ! 村を守らないと!! ユリウス、頼む!」


 ロンメルトの声に呆然としていた心が正気を取り戻した。とにかく一人でも村人を助けないと!


 ユリウスが呼び出した餓獣に飛び乗って走り出す。他のみんなも同じようについてきていると思うが、正直それを確認している余裕すら今の俺には無かった。

 何もかもが唐突すぎる。

 どうしてこんな急に、なんて今考えても仕方ないことから、村に着いてから何をするべきかということまで、様々な考えが頭の中でごちゃまぜになっていた。それでもまず村に着かないことには何も始まらないと、餓獣にもっと早く走ってくれとけしかける。




 そして山を登る時とは比べ物にならない速度で転げ落ちるように下山した俺の前に広がっていたのは、まさしく地獄絵図だった。


 炎の中でうめく人の声。倒れて動かない何体もの屍。救いを求める悲鳴と子供の泣き声。


「この声は、チッタ!!?」

「ままぁ、ぱぱぁ!」


 燃え盛る炎のすぐ近くで泣いているスフィーダの妹に駆け寄る。チッタはゴウゴウと唸りを上げる炎……燃え上がるスフィーダの家に向かって手を伸ばし、母親と父親を呼び続けていた。


「うそだろ……嘘だあああああ!!!」

「オジサン達が? そんな……わ、私のパパは! ママは!?」


 背後でスフィーダとチェルカの悲鳴が聞こえた。みんな追いついてきたのか。


 ふつふつと、腹の奥底から何かがこみ上げてくる。なんだろうか、この感覚は。ああ、そうだ。あまりにも規模が違うから一瞬気づかなかったけど、俺はこの感覚をちゃんと知っている。

 怒りだ。

 今までの人生で一度も感じたことがないような、言いようのない濃縮された怒りが湧き上がってくるのを感じる。俺はそれを解き放つように叫んだ。


「食い尽くせジルッ!!! このくそったれな炎を、全部だぁ!!!!!」


 呼応し、虚空から勢いよく飛び出したジルが村中の炎をひと飲みにする。炎が消えて呼吸ができるようになったからか、途端にそこいらじゅうから苦しそうなうめき声が聞こえ始めた。


「頼む智世、急いで治してやってくれ」

「もうやってる」


 治療は智世に任せよう。アイツ以上の適任なんている訳が無い。じゃあ俺の役割は何だ? そんなこと、決まっている。今なお砲撃を続けるあの憎たらしい船を叩き落としてやることだ。


「吐き出せ!!!」


 吸い込んだ膨大な炎を、そのまま船に向かって放出する。しかし炎は船底に届く直前で拡散されるように消えてしまった。

 防御? いや、今のは風によるものだった。ということはあの船は風の魔法で浮かんでいて、その風の副次的な効果として炎を防がれたんだろう。


「だったら直接乗り込んでぶっ壊してやるよ!」


 自分の体に風を纏わせる。今までどうしても上手く飛ぶことができなかったのに、ウソのように呆気なく成功してしまった。まあなんだっていい、これであの船の上に行ける。

 ロンメルトや琴音が何か言っているが、今あの船を壊す以上に大切なことなんてある訳が無い。


 駆け寄る2人を無視して、俺は空へと駆け上がった。

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