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もしやこの村には重大な秘密が

 早朝。

 結局あれから3日間ほとんど部屋から出て来ることの無かった琴音を強引に連れ出して北門にやって来た。メンバーは俺と琴音と智世のオリジン三人衆とユリウス。ロンメルトは昨日受け取ったアシストアーマを着込むのに時間がかかっていたので、先に来て人数分のカケドリを用意するために別行動にした。


「フッハハハハハハハーーー!!! 完っ全っ復っ活っ!!!!」


 わざわざ登ったのか、城壁の上から「とう!」という掛け声と共に金属の塊が落下してきた。着地と同時にバキャッっと整備された道の石材が砕けた。あ、北門の兵士がジト目でこっちを見ている。これは後で請求が行くな。

 一方、華麗な着地を決めたロンメルトは周囲の視線を1人占めにして気持ちよさそうにガッツポーズを取っている。


「どうだ蘇った余の姿は! 鎧は!! この美しき鋼の輝き! 完璧なるフォルム! 迸るパワー!!」

「わかったから落ち着け」


 どこが壊れていたのか分からないくらいキレイに直ってるな。いや、それどころか微妙に板金が分厚くなってる気がする。さてはガガン、鎧を突破されたのが悔しくて防御力を強化したな。前にも増して重量感がスゴイ。


「一番元気そうなカケドリを借りておいて正解だったな」

「……」

「ありがとう。でも、さすがに餓獣を乗り回すのはちょっとな。パニックが起きても困るし」


 折角のユリウスの申し出だけど、やっぱり人目のある場所で餓獣はあんまり出さない方がいい。どうしたって怖いし、悪目立ちする。あとユリウスのお祖父さんに会いに行った時に乗せてもらったけど、乗り心地がいいいとはお世辞にも言えなかった。


「じゃ、出発するか。結構村とかが点在してるらしいから野宿の心配も無いし、のんびり行こう」


 目的の村はガルディアス帝国との国境でもあるヴァーリデル山脈の麓にある村だ。王都からなら、およそ3日ほどで着く。王都の北側はそのほとんどが農業に適した環境とあって、その間にある村の数は8つ。ペース配分なんて考えずに進んでも、日が傾き始めた辺りで一番近い村を目指せば暗くなる前には着くって話だ。




   ☯


 1つ2つと村を越え、3つ目の村で1日目は終了した。


 2日目は最初に立ち寄った村で餓獣の被害が出ているという話を聞いて、サクッと退治。Dランクは、なるほど村から村へうろうろしてる討伐者では厳しい相手だ。迷宮都市でなら余裕を持って倒せそうな連中がゴロゴロいるんだけどなぁ。

 餓獣自体はオーバーキルなくらいの戦力であっという間に倒してしまったけど、探すために時間を使ってしまったせいでその次の村で宿泊。


 そして3日目。予定通りなら今日の夕方には着くはずだ。


「ユリウスたんユリウスたん。餓獣は友達なのに余裕でぶっころだけど、いいの?」


 ずいぶん今更な質問だな。

 智世は何故かユリウス「たん」と呼んでいる。オル君やジルさえ「様」呼びだったのに、何を基準に区別しているのかさっぱり理解できない。ただ、非常に可愛がってはいるようだ。


「…………」

「雑魚はアホすぎて仲間にしづらいらしいぞ。かといって知能が高くても、プライドが高かったり極端に凶暴だったりすると無理らしいし、何でもいい訳じゃないんだとさ」


 ただし雑魚でもたまに仲間にできる餓獣がいる。たまたま頭がいいのか何なのかはユリウスにも分からないらしいが、そういう個体は目を見ると何となく分かるとか。


「仲間になりたそうにこちらを見ている、ってやつだな」

「悠斗、ゲームやらないって言ってなかった?」

「ドラゴンって名前入ってる割にはドラゴン出て来なくてムカついたから、よく覚えてるんだよ」


 それ以来ゲームは手を出さなくなったから、ドラゴンハンターに気付けなかったんだけどな。今度日本に戻れたら買いに行こう。今はドラゴンハンター5まで出てるって田中が言ってたっけ。雷属性で充電ってできるかな?


「とにかくだ。『友達』以外は危険だってユリウスもわかってるから気にすることないんだよ」

「ユリウスたんカワユス。尻尾もふもふしたい」

「自分から聞いてきたんだから、最後まで聞けよ」


 もう智世の視線はユリウスのリス尻尾に釘づけだ。

 やれやれ、と思っているとロンメルトがカケドリを寄せて来て、琴音に聞こえないように小声で話しかけてきた。


「もうすぐ目的地に着くと言うのに、コトネは相変わらずではないか。なんとかできんのか?」

「無茶言うなよ……」


 できるものならとっくにやってるっての。

 3日間ずっと琴音の様子は変わらない。最低限の返事を返す以外はひたすら黙ってうつむいている。何度かこの雰囲気を変えようとロンメルトや智世のノリに合わせて騒いでみたりもしたけど、ギャグがすべったみたいな空気になって終わった。あの時の居たたまれなさといったら……。

 智世が提案した最強の癒し技『もふもふ生物に包まれてお昼寝』も失敗だったし。ていうか俺も試したけど、獣臭さが半端無かった。そりゃそうだよ、元は野生動物で体も洗ってないんだから。


 村を困らせてる餓獣を倒して感謝された時はどうかと期待したんだけど、ただ悲しい事を思い出させてしまっただけのようだった。

 変わった植物を見つけても、見向きもしなかったし……思った以上に重症だ。


 他に一体何ができるだろうか、と思い悩んでいる内に、答えも出ないままとうとうドラゴンの目撃情報のあった村に着いてしまった。


「よ、よし! 見ろ琴音、着いたぞ! ドラゴンいるかな? ははは、は……」

「……うん…………」


 ダメだ、空気が重い。さっさと入って話を聞こう。


「えーっと……ホ、クム、ホクム村か」

「ふむ? 聞き覚えがあるのだが、気のせいであろうか?」

「ボクもちょっとデジャヴ。もしやこの村には重大な秘密が!?」


 いや、そんな大層なものが眠ってるような村には見えないぞ。どこにでもあるありふれた農村だ。山脈が近いからか、鉱夫らしき人がちらほらいるくらいしか特徴が無い。

 でも確かに最近聞いた名前だ。確か……。


「あれ? アニキじゃないか!!」

「皆さんどうしたんですか?」

「弟子よ! おお、そうであった。ホクムといえばお主らの故郷の名であったな!! ふははは、思い出したぞぉ!」


 思った以上に早い再会だったな。

 およそ一週間ぶりで久しぶりも何もないが、チェルカもスフィーダも元気そうだ。


「この村の人がドラゴンを見たって話を聞いて探しに来たんだ」

「ああ、その話ですか。木こりのジェームズさんですね。私達も帰ってきてから聞きましたよ」

「人騒がせなオッサンだよ、まったく。ずーっと見たって繰り返すもんだから、討伐者の俺達が調べに行くことになったんだぜ?」

「報酬も出ないのに、ホント最悪……ううん、村のためよ私、ガマンよ私!」


 おいおい、ドラゴンかもしれないって話なのにEランクの討伐者を送る気だったのか。本物だったら「アッ」と言う暇もなく殺されるぞ。

 まあこんな辺鄙な村じゃ、討伐者なんだから餓獣倒せて当たり前だろ? ってくらいの感覚なのかもな。あれだ、家電店の店員だからって家電の機能から操作まで知り尽くしてる訳じゃないってことだよ。


「けどよ、アニキはそのドラゴンを探しに来たんだろ? だったら一緒に行こうぜ! 村の連中はわかっちゃいないから簡単に言ってくれたけど、あの山の餓獣はただでさえ俺達じゃ厳しいんだ。ついでなんだし、助けると思って助けてくれよぉ」

「やーれやれ、背中を預けられるのはまだまだ先みたいだな」

「ふははは! 正直は美徳であろう!! よおし、ついてまいれ! 剣の修行もかねてゆこうではないか」


 なんだったらチェルカとスフィーダは村で待っててくれても構わないんだけど、それじゃ面目が立たないんだろうな。


「今日はウチに泊まっていってください」

「バーカ、お前んチに全員入れる訳ねーだろ? 俺んチも使ってくれよ!」


 こんな小さな村じゃ宿も無いだろうし、お言葉に甘えるとしよう。という事で男はスフィーダの家に、女はチェルカの家に泊めてもらうことになった。

 お世話になります。

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