表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/223

何やってんだ

「ふっふっふ……よくぞここまで辿り着いた。だがここが貴様の終焉の地となるだろう」


 玉座の間。そこにはたった4人だけが存在を許されていた。玉座に悠然と座り、来訪者を見下ろす女。そしてその隣に控える男が2人。最後に、たった今この空間へと1人で足を踏み入れた少年と呼んでも差しさわりない幼顔の男。

 少年は困惑した様子で、玉座に座る女ではなく、その側に立つ男の1人……俺に向かって口を開いた。


「あの、同志ユート? これは一体どういう状況なんですか?」

「ごめん。どうしてもやりたいって聞かなくてさ」

「ぬうう、なぜ玉座に座る役が余ではないのだ!!」


 ロンメルトの鎧を修理してもらうために手紙で呼んでいたガガンが到着した。アガレスロック襲撃の際に王城を行き来していたガガンなら、直接俺の部屋まで来てもらっても全然問題なかったのだけど、そこで智世のわがままが発動したのだ。

 謁見の間でかっこよく迎えたい。できれば魔王っぽいのがいい、と。


 なにが厄介って、こんな残念な子でもオリジンだ。実験がてら負傷兵などを治療したこともあって、「癒しの女神様」なんて呼ばれてとんでもなくちやほやされている。そんなものだから智世のわがままを、みんなが喜んで叶えようとするのだ。今日も謁見の予定が無いこともあって「どうぞどうぞ」と許可が出た。別に頭しばいてくれたっていいのに。


 そしてその話を聞いたロンメルトが参戦。玉座に誰が座るかでロンメルトと智世の奪い合いが始まり、死闘じゃんけんの末に智世が勝ち取った。


「はぁ。よく分かりませんけど、こちらの方は?」

「ボクの名は赤巻 智世。鮮血のオリジンにして世界を智る……」

「こんなだけど、オリジンだよ。もしかしたら無茶な武器を作らせようとしてくるかもしれないけど、無理なら無理って言っていいからな?」


 それこそ地球の神話に出て来るような--レーヴァテインやらエクスカリバーなど--を作ってくれと言い出しそうだ。ガガンなら本当に作りかねないのが怖いけど、剣を打つのだってタダじゃないんだ。オリジンだからと何でも聞いてやることはない。


「それは……いわゆるロマン武器ではないんですか?」

「コイツのはロマンっていうより、ただの妄想なんだよ。本気で実現させる気も無いだろうから、話半分に聞いておけばいいよ」

「ボクを差し置いてボクの話をしないでほしい」


 ともあれ、これでロンメルトのアシストアーマを修理できる。もしかしたらドラゴンと戦闘になるかもしれないと思えば、なるべく万全の状態で出発したい。


「この通り、胸のところに大穴が空いてしまったのである。直せるか鍛冶師よ」

「はい、そんなに難しくはないですよ。胴体部分は細かいパーツが少ないですし、手紙で話は聞いていたので製作段階で作ってあった予備のパーツも持ってきましたから。そうですね、明日……は厳しいですけど、明後日には終わると思います」

「おお、そうか!! ふははははははは! さすがは鍛冶師であるな!」


 複雑な代物だからもっと時間がかかるかと思っていたんだけど、手紙に破損部位を書いておいて正解だったみたいだ。王都に来れそうにない場合は迷宮都市まで取りに行くことになるだろうから、用意しておけるようにと思って書いたんだけどな。


「じゃあ親方の作業場を借りて来るので、二日後に取りに来てください。場所は……同志ユートが知ってるはずです」

「大丈夫、覚えてるよ」


 最初に行った時は偶然見つけただけだったけど、その後にも何回か行ってるから迷う心配はない、と思う。二ヶ月ぶりだから微妙に不安だけど、まあ実際に行けば思い出すだろ。






 あの重い鎧を軽々と持ち上げて城を出るガガンを「アイツ普通に戦えば強そうなのに」と思いながら見送った俺は、智世とロンメルトとも別れて「ある場所」へと向かった。


 リリアに貰った地図を頼りにやってきたソコは、一見すればごくありふれた民家のようだった。多少敷地が広く、裏手に庭もあるみたいだけど、王都でそれなりに稼いでいる家庭なら手に入る程度の大きさだ。ここで暮らしている人間の数を想像すれば、ちょっと小さすぎるんじゃないかと思う。


「あら? 貴方は?」

「ユリウスの友達です」


 掃除をしようとしてか、ちょうど表に出てきた女性にそう告げると、「ああ、あの子の」とすぐに理解してもらえた。


 そう、ユリウスは今この建物で暮らしている。てっきり城で面倒を見て貰ってるものとばかり思っていたけど、聞いてみた所そうじゃなかった。ユリウスの保護者だったおじいさんの遺言もあって、もっと大勢の友達を作れる環境におくべきだと、この「孤児院」に預けられることになったらしい。

 孤児院に預ける、というと無責任なイメージがあるけど、それは城で預かっていても同じことだ。むしろ同じような身の上の仲間がいて、それを理解して世話をしてくれる大人が常にいる分、環境としてはずっといい。と、リリアが必死に弁明していた。

 国が支援してる、安心できるきちんとした施設らしい。


 ちなみに何故ロンメルトと智世を連れて来なかったのかというと、子供と一緒に騒いで収拾がつかなくなりそうだからだ。


「アイツ、仲良くやれてますか?」


 ユリウスのお祖父さんは、ユリウスに言った。獣だけではなく、もっと人間の友達を作れと。俺達より2週間以上早く王都アセレイに到着していたという話だし、それだけあれば友達の1人や2人できていてもおかしくないよな。


「それが……ユリウスくん、言葉を話せないでしょう? それで周りの子も接し方が分からないみたいで……。いえ、年長の子が一生懸命やってくれてるので、イジメられてるとかではないのよ?」

「っていうかイジメたら笑えない友達が復讐にきますよ?」

「え、ええ。それも原因の1つなんですよ。あの子淋しくなると餓獣を出してしまって……」

「出しちゃったの!?」


 ユリウスの友達になった餓獣が本能的に人を襲うことは無いけど、そんなもの出したら怖がられて当たり前だ。むしろ年長の子すごいな。超がんばってるよ。


「いい子なんですけどねぇ」


 それは間違いない。悪い子ならとっくに餓獣をけしかけて頂点に君臨してる。


「家事を手伝ったりもしてくれるんですよ? 餓獣の力を借りて。ありがたいんですけど……気が気じゃなくって」

「でしょうね」


 事情は聞いてるんだろうけど、すぐ隣でライオンが雑巾がけをしていて「助かるわぁ」と思える人間がはたしてどれだけいるだろうか。俺には無理だ。何の力も無い状態でそんなことになったら、襲わないと言われていても迷わず逃げる。女王や元帥、魔女から預けられた子でなければ、この女性も逃げ出していただろう。というよりまだ逃げてないことに驚きだ。この孤児院の人、メンタル強い。


「今度から餓獣を出さないように言っときます」

「そ、そんな事言って怒らせたら……いえ、ユリウス君の所までご案内しますね」


 中に入ってみると、なんとなく似た幼稚園のような作りになっていた。

 建物の外見とそぐわないのは、きっと元々あった建物を改築して作ったとかだろうな。一階は食事のスペースと厨房。あとは全部子供が遊べる広間になっていた。


 その一角に存在する、明らかに異質なもの。

 ケンカだ、ケンカをしてる。どうやら双子らしい。右の子と左の子が、わんわんわんわんと--


「何やってんだ、犬っ!!」

「キャイン!?」


 バチコーン! と左のシトラをひっぱたく。弟(兄?)に何すんじゃ! とばかりに噛みついてきた右のデトラも、返す刀でひっぱたく。そしてツヴァイリングヴォルフの頭上に座っていたユリウスにもゲンコツを落としておいた。


「そんな目で見たって駄目だ! 周りを見ろ、みんな怖がってるだろ!?」


 なんか今はAランクの餓獣を殴った俺に恐怖の目が向けられてる気もするが。世話役の女性なんて、死を覚悟した顔で子供達を庇う位置に立って震えている。


「ああ、ただいま。でも今はそんな話はしてないぞ? 唸るな、犬。静かにしてろ」

「「きゅーん……」」

「餓獣を出しちゃダメだろ? 普通の人は襲われないってわかってても怖いんだから。え? ダメって言われたことない? そりゃ怖くて文句言えなかっただけだよ。とにかく家の中で餓獣を出すのは禁止だ」


 だいたい、淋しかったり手助けが必要な時にこそ周りの人間と交流しようとしなければ、いつまで経っても友達なんてできるわけがない。


「おじいちゃんに言われただろ? 人間の友達をつくれってさ。餓獣は……そうだな、お城の訓練場でなら遊ばせていいように頼んであげるから、この家の中では出すんじゃないぞ?」


 ユリウスは少し不満そうにしつつも理解してくれたようで、ツヴァイリングヴォルフをEXアーツである本の中に戻してくれた。やっぱりいい子だ。

 施設内の緊張感が少し和らいだ。完全に解けてないのは、まあ俺がいるからだろうな。


「普通の動物なら出してもいいですか?」

「え? ええ、特に苦手な子はいないと思いますし」

「だってさ。もっと小さい……ウサギとかそういうのなら出してもいいぞ?」


 ずっと動物達と生活してきたんだ。いきなり完全に禁止っていうのも不安だろう。アレルギーの子は……いないことを祈る。それに可愛い動物と一緒に遊んでいれば、他の子供も寄って来るかもしれないし。


 案の定、コクリと頷いたユリウスの呼び出したウサギに、子供達の興味が集まった。触りたそうにソワソワしてる女の子を手招きしてウサギを抱かせると、ワッと子供達が寄ってきて撫でくり回す。しまった、ウサギだけじゃ手が足りない。


「ねえ! 他にいないの!?」

「猫ちゃんがいい!」

「えー! おれ犬がいいよ! 小さいやつ!」


 そんなリクエストにユリウスが応え、ポポポンッと犬、猫、小鳥、魚と色々呼び出した。って魚はマズイ魚はマズイ! ぴちぴちしてる!!




「ありがとうございました。すみません、本当なら私達がなんとかしないといけなかったのに」

「いやぁ、あれは無理でしょ。慣れてないと怖いですよ」


 俺だって何とかできるだけの力が無けりゃ、Aランクの餓獣をひっぱたくなんて御免だ。それにこれでユリウスはきちんと話せば分かってくれるということも伝わったはずだし、もう大丈夫だと思う。まあ、たまにお菓子でも持って様子を見に来よう。


 じゃあ俺はそろそろ帰ろうかな……っとと、もう1つの用事を忘れてた。


「ユリウス。俺達3日後あたりから北の方に遊びに行くんだけど、来るか?」


 本当は明後日には行くつもりだったけど、せっかく仲良くできそうなんだ。少し時間に余裕を持たせて言っておいた。来ないなら予定通り明後日に行こう。

 ただ、できれば来て欲しい。その方がドラゴンと友達になれる確率が上がるからな。アニマルセラピなんてものもあるし、可愛い動物に囲まれていればちょっとは琴音も元気が出るかもしれない。


「コクリ」

「わかった。3日後の朝に迎えに来るよ」


 これで準備はOKだ。待ってろよ、ドラゴン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ