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安いからいいじゃないですか

「で、でかいな……」


 高い建物なんて日本で掃いて捨てるほど見てきたけど、これはまた違う存在感があるな。数字で言えばせいぜい50メートルがいい所だろうけど、もっとずっと高く感じるのは、きっとその存在理由からだろう。

 ここから先には通さないとばかりにこちらを見下ろしてくる威圧的な壁。これがガルディアス帝国からの侵攻に備えたセレフォルン王国の防壁……フォルト城砦都市か。


「こんな要塞、ボクの右腕の封印を解けば一撃」

「マジで!!? すげぇぇぇぇぇぇ!!」


 真に受けるなよスフィーダ。そいつは幼稚園児よりも弱いぞ。オリジンは今のところ全員が絶大な戦闘力を持っているから、そう思ってしまうのも仕方ないかもだけどな。


 さすがに守りを任されている町だけあって、入るための審査がかなり厳しい。門の前には長蛇の列ができていて、もう2時間近く待たされている。門の周辺にキャンプ跡のようなものが沢山ある辺り、運が悪いと時間切れで野宿させられることもあるらしい。まあ、俺達の隊商は昼の内に到着していたから、その心配は無い。




 それから更に1時間、ようやく審査を終えてフォルトの中に入ることができた。


「本当に助かりました。この連中は我々が連れて行って正式な場で罰を受けさせます。報酬の方はギルドから受け取れますので、それではまた機会があれば」

「こっちこそ、ありがとうございました」


 依頼の達成証明書を受け取って、ランドさんと握手を交わす。そして町が見えたと同時に縛り上げられた討伐者達を引きずって去って行った。あの孤児の子も残念ながら一緒に連れていかれた。事情はどうあれ、大勢の人を危険にさらす行為をしていた以上、無罪放免とはいかないらしい。例えそれが大人に脅されての事だとしてもだ。


「そんな顔をするでない。情状酌量の余地もあろう。そう重い罰にはなるまいよ」

「だといいけど」


 逆らえば生きていくことも難しかった子供が罪に問われるのは悲しいけど、被害者だって命の危険があった以上しかたない。ランドさん達もあの子は半ば被害者のようなものだと同情ぎみに言っていたし、きっと悪いようにはしないと信じよう。


「さ! 気持ち切り替えていきましょう! お給料も出たことですし、ご飯食べに行きませんか?」

「おお! そうだぜアニキ!! 仕事が終わった後はパーッとやらないとな!」

「パーッとなんて言ってないでしょ。前に来た時にお得で安くてお手頃価格なお店みつけたんですよ!」


 いや、安いしか言ってないけど味は? そこ重要だよね?


「そんなに安く済ましたいなら、ボクが作ってあげてもいい」

「食材を謎の暗黒物質に変える事のどこが安上がりだよ。これ以上無い無駄使いだろ」

「あ、暗黒物質!? 姐さんスゲェや。闇の力といい、どんな極悪な属性なんだ……!? さすが『鮮血』のオリジンだぜ」


 スフィーダの中で智世の魔法がどんどん凶悪なものになっていっている。面白いから教えないけど。

 

 チェルカのおススメが一体どれだけ安いのか、味はどうなのか無性に気になったから、とりあえず案内してもらうことにして城砦都市フォルトの町中を進む。しかしすごいな。町のどこにいても絶対に城壁が視界に入って来る。


「ふうむ、余はセレフォルン王国の事情に詳しくは無いが、このフォルトの砦は未だかつて破られたことが無いと聞いておる。いや、納得である。まさかこれほど見事なものとはな」

「あはははは! その話、私もガルディアスで聞きましたよ」

「む? なぜ笑うのだ?」

「だってフォルトは一度も攻め込まれたことが無いんですよ? 無敗なのは当たり前じゃないですか」


 それはあれだな。喧嘩に負けたことが無い、なぜなら喧嘩をしたことが無いからってヤツだな。


「……なんだそれは」

「多分誰かが冗談で言ったのが広まったんでしょうね。王都を守る東のフォルト、西のフォールは何百年も前にすごく苦労して建てたのに一度も出番が無いって、セレフォルンの国民ならみんな知ってますよ。税の無駄遣いだって、一時期かなり国民の不満が集まったって歴史がありますからね」


 こんな巨大な砦がもう1つあるのか。フォルトが対ガルディアス帝国ってことは、反対側の砦はオルシエラ用かな? けどこんなに立派なのに、まだ使われたことがないって……なんて残念な砦なんだ。


「南と北は?」

「悠斗バカ。バカ悠斗。北は山があるから平気って何度も聞いてる」

「ぐ……南はどうなんだよ。王都の南はちょっとした森があるだけだぞ?」


 なら船でグルッっと後ろに回れば攻め込み放題じゃないのか? と思ったら、チェルカは何で今更そんな話って感じできょとんと俺を見ていた。なんだよぉ、みんなして俺を馬鹿みたいに……。


「だって海には餓獣がいるじゃないですか。私達が乗ってた船も、何度も襲われたでしょう? あの時はお兄さんが全部あっという間にやっつけちゃったけど、普通あんな頻度で襲われたら大変なんですよ?」

「あ、そっか」


 ザコがいくら襲ってきても平気だったから気にならなかったけど、現代の魔法じゃ倒すのも一苦労なんだよな。飛び道具じゃないと届かない相手も多いし。なるほど、いくら軍艦でも四六時中襲われ続けたんじゃ戦争どころじゃないってことか。


「うっかり陸から離れすぎると、船より大きな餓獣に転覆させられたりもしますからね」


 ガルディアス帝国が戦争戦争言ってるわりに攻めてこないのは、そういう理由だったのか。山は通るだけで疲れ果てるし物資を運ぶのも大変。海は餓獣がうじゃうじゃいて大変だし、大きな船は浅瀬を進めないから沖に出て転覆させられる危険があって使えない。攻めるには小さな船で少しずつ兵を送るしかないけど、セレフォルン王国もそれを黙って見てるわけがないってことだな。

 もう諦めろよって言いたくなるくらいだな。迷宮都市は不可侵で通れないから、平地を行くなら一度オルシエラの領地を通る必要があるしで、徹底的に攻めるルートが封じられている。いや、だからこそ1000年以上もこの三国状態が維持されてきたのか。


「セレフォルン王国とオルシエラ共和国の国境も大きな川で区切られてますし、ガルディアス帝国とオルシエラの間には砂漠……せっかく上手く住み分けられてるのに、どうしてガルディアス帝国はああも侵略したがるんでしょうね?」

「……面目ない」

「あややっ!? 王子様の事言ったんじゃないんですよ!?」

「だがしかし、ガルディアス王を止められなかったのは余の父上と、余の責任でもあるのだ。手段を問わぬならば、止められる場所にいたのだからな」

「おい、気持ち切り替えるために食事しようって話になったのに、余計暗くなってどうするんだよ。ほらチェルカ、ここじゃないのか?」


 どうして店が分かったのかって? だって今にも崩壊しそうな食堂なんだもん。西部劇の酒場みたいな建物が、風に負けてギシギシと悲鳴をあげている。絶対ここだ。でもここじゃないと否定して欲しい。そんな気持ちでチェルカに確認したのだけど、案の定笑顔でうなずかれた。


「はい、ここです! すっごい安いんですよ!?」

「それはもう分かってるから」


 これで高かったら、いっそ潰れてしまったほうがお互いのためだ。ていうかこれ、食べてる間に天井が崩れ落ちてきたりしないよな?


「あ、そのドア気を付けて開けてくださいね。店長は最初に壊した人に弁償させる気で待ち構えてますから」

「よし、智世は絶対に近づくな」


 コイツは古い板とか見つけたら叩き割りたくなるタイプだ。ほらね、残念そうにしてる。

 ドアは初見じゃないチェルカに任せて中に入った。するとすぐさまテーブルの方に移動して手招きしてくれている。あそこが比較的安全な席なんだろう。


「いい子だよな。大事にしてやれよ、スフィーダ」

「な、なんの話だよ!?」


 顔を真っ赤にして否定しても説得力ないよ。さっきロンメルトと話してる時もつまらなさそうに見てたしな。


「お金に執着してるのに、王様やオリジンの俺に最初と変わらない態度で接してるってことは、お金以上に大切な居場所があるってことだと思うな、俺は」

「だから何の話だよ!? か、関係ねーよ!!」


 逃げられてしまった。交代するように智世がやってくると、小さな声で耳打ちしてきた。


「自分だって大して経験豊富じゃないくせに」

「うっさい」


 どう見たって両想いなんだから、ちょっとくらい意地悪したっていいじゃないか。いいよなぁ、幼馴染って。いや、一応琴音や智世も幼い頃からの知り合いではあるけど、音信不通の期間が長すぎるし。半日だけ会って、次は10年後ってのは幼馴染とは呼ばないよな。


「なにしてるんですかー!? はやく注文しましょうよ!」


 呼ばれて席につき、メニューを見る。迷宮都市やガルディアスともまた違った料理名で、いまいち何が何だかわからない。ただ値段だけは……異様に安いな。定食が飴玉より安いんだが、これは本当に人間が食べて大丈夫な物が出て来るのか?


「おお、おおお? こ、これはなかなか勇気が必要であるな」

「ちょっと待って、安すぎて気持ち悪い」

「おいチェルカ! 大丈夫なのか!? 後でとんでもない事が起きたりしねーのか!?」


 他3名も不可解な値段に尻込みしていた。そんな中、チェルカだけが平然とメニューを睨みながら考え込んでいる。そして悲鳴をあげる俺達を見ると首を傾げた。


「安いからいいじゃないですか」

「安けりゃいいってもんじゃねーだろ!!」


 思わずつっこむスフィーダ。だけどチェルカは揺るがない。


「わりと味も悪くないですよ? まあ、材料は絶対に教えてくれないですけど」


 その一言で余計に怖くなったが、一向に注文しない俺達に業を煮やしたチェルカが自分のオススメを全員分注文してしまった。食べないと怒るんだろうな……。



 出てきた料理は一見すれば普通のパスタだった。勇気を振り絞って口に放り込んでみると、特別うまくもないけど値段を考えると十分おいしい部類だったと思う。

 ただ1つ気になることがあるとすれば、そのパスタ(?)を見たオル君が大喜びで飛びついたことだ。


 アルマジロトカゲ。南アフリカに生息。好物は昆虫である。

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