表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/223

ボク目立ちたくないのになぁ

 死屍累々。まさにそんな様相を呈した船上から、唯一しっかりとした足取りで三日ぶりの大地へと降り立った男。俺だ。


「うぷ……まさか余が敗北しようとは、な」

「もう食べれない……」

「みぎゃぁ……」


 おや、これはこれは大食い勝負の負け犬&負けドラゴン達じゃないか。随分苦しそうだね。ところで何でオル君まで動けなくなるまで食ってんの? 君のご飯ミミズは食べ放題じゃないんだよ?


「ジル様は……反則」


 まあ勝てる訳ないよな。なんせ世界を食べてしまう鳥だ。その胃袋は正に底なし……っていうか胃袋あるのか?

 という事で俺は大食い勝負に優勝した。特に景品とかは無い。俺自身の食べた量は常識の範囲内だったけど、みんなして食べ散らかすから片付けがてらジルに残飯を食べさせたら、いつの間にか優勝していたのだ。もう一度言うが、優勝しても特に何もない。後に残ったのは腹を抑えて倒れる敗北者だけ……実に不毛な戦いだった。


「ほら、さっさと宿を取りにいくぞ」

「ボクのことは気にしなくていいから先に行って……ここはボクが食い止める!」

「食い止めてるのはゲ〇だろ」


 どうやら船酔いは治せても腹痛は治せないらしい。胃袋の中身を消化するまでは動けそうにないな。同じ理由でロンメルトもダメそうだ。それどころか真面目に働いていた船員以外は、船長含め誰一人無事な人間がいない。よく無事に着いたな。


「しょうがないな。じゃあ宿を取ったらギルドにいるから、後から来いよ」

「必ず、追いつく……ガクッ」


 何故だろう、その言葉を聞くと無理そうな気がしてくるのは。







 そして30分後。


 無事に宿の部屋も確保した俺はギルドへとやってきていた。中に入って見回してみるが、智世とロンメルトの姿は無い。まだ港でぐったりしてるんだろう。

 そういえば1人になるのは久しぶりだ。迷宮都市での休日以来じゃないかな? まああの日はリゼットとデ、デートしたから、ほとんど1人の時間は無かったけど。


 ……リゼットは元気かな? ドラゴンの病気、ちゃんと治ってればいいけど。

 ガガンや琴音達とは王都に行けば会える予定だけど、リゼットだけは違う国にいるから簡単には会えないんだよな。住所知らないから伝書バードも飛ばせないし。

 また、会えるかな? いや、ドラゴンに会わせてもらう約束もしてるんだ、絶対会いに行こう。


「アニキ!」


 今回のひとりぼっちタイムも短かったなぁ。

 振り返るとスフィーダとチェルカ、その後ろでだるそうに歩いている智世とロンメルトの姿があった。一緒に来たのか。


「スフィーダは元気そうだな」

「育ち盛りッスから!」


 そんなもんなのか? 二歳くらいしか変わらないんだけど。


「私はお弁当箱に詰めて持ってきたので、あの場ではそんなに食べてなかったんです」

「!!?」


 しっかりしてるというか、ちゃっかりしてるというか。智世が「その手があったか」と、愕然とした表情で固まっている。そもそもお前は言うほど食えてなかっただろ。魚一匹とパンを食べた辺りで倒れてなかったか?


「なにかいい依頼はありましたか?」

「いや、今から見る所だった」


 理想は王都までの護衛だな。

 町から町へ移動する時に一番怖いのは餓獣だ。盗賊だとかは皆無ではないけど、ほとんどいない。何故なら町の外で寝食するような生活をしていれば、放っておいても餓獣に襲われて死ぬからだ。餓獣やつらは恐ろしく鼻が利く。それでも盗賊をやっているような人間は、餓獣から隠れられる良い隠れ場を見つけた連中か、真っ向から撃退できる実力のある連中だけだが、そんな人間は滅多にいない。特に後者は、倒せるなら普通にハンターやってればいい話だからな。ギルドはいつだって人手不足だ、歓迎してくれるぞ。

 だから護衛は傭兵でも用心棒でもなく、討伐者の仕事なのだ。基本的に2つ3つは常に依頼が貼り出されているから、あとは行き先次第。


「お! 王都じゃないけど、その手前の町までの護衛ならあるな」


 ここ、ウプリ港からフォルト城砦都市までの護衛らしい。予定では護衛が集まり次第出発で、一週間の行程とある。隣の壁に貼りだされた簡易地図を見る限り、フォルト城砦都市からセレフォルン王国王都アセレイまで2、3日で行けそうだし、報酬から考えれば完璧の一歩手前ぐらいには良い。もちろん完璧は王都までの護衛だけど、これで十分だ。


「よし、早速受注し--あっ」


 忘れてた。


「智世も登録しておいた方がいいよな」

「であるな。討伐者でない者を依頼に隊商に同行させようとすれば、恐らく金を取られるであろう」

「だよな」


 依頼書と一緒に智世も受付に持って行った。


「ふっふっふ……まずは魔力測定かな? 莫大な魔力に貴重な属性、いきなり高ランクに認定されて注目を浴びることになるとは。やれやれ、ボク目立ちたくないのになぁ」

「そんなシステム無いから」


 まず魔力の量とか他人にはわからないし。第一、国の推薦状を持ってた俺達ですら二段階飛び級できただけなのに、いきなり高ランクになんてなれる訳がない。


「え? でもじゃあ、最高ランクのギルドメンバーの推薦とかで何とか」

「それでも多分、下から二番目くらいからのスタートが精々だぞ。ってか推薦しないし」

「何故に」

「お前が弱いからだよ」


 討伐者ってのは餓獣を倒してなんぼなんだ。確かに回復魔法は重宝される力だけど、餓獣を倒せない能力がいくら高くたってランクには影響しない。回復しまくる不死身の戦士を目指すなら可能だろうけど、ショートソードすら持てないんじゃ未来すぎる話だ。


「いくら計算が正確だろうと、料理が上手かろうと、絵が上手かろうと、それ単体じゃ餓獣と戦う役には立たない。だろ?」

「くっ、これはガルディアス帝国の陰謀に違いない」


 向こうもそこまで暇じゃないよ。

 ほらほら馬鹿言ってないで、ちゃちゃっと書類を書きなさい。こら、名前の所はちゃんと本名を書け。



 10分ほどで無事に智世の登録は終わった。もちろんランクは最低のGランク。きっと永遠に上がることはない。


「じゃあ俺達3人でこの護衛依頼を受けます」

「こちらの依頼は依頼主様より10人以上を希望されております。既に5人は決まっているので、あと2人以上のパーティが受注されるまで待機となりますが、よろしいでしょうか?」


 ありゃ、人数の所は見てなかったな。護衛依頼を受けるのは初めてだし。


「隊商の規模が大きくなると少人数では守りきれんからな。それゆえ、この手の依頼は最低限の人数が決められておるのだ。複数のパーティで行動することも珍しくは無い」

「そうなのか? うーん、他にめぼしい依頼も無いし、仕方ないか」


 3人いるけど、今戦えるのは俺だけだもんな。確かに絶対に守り切れる保証は無いや。まあそんな何日も待ちぼうけにはならないだろ。


「観光観光」

「アカシックレコードはどうした? 全部知ってるんだろ?」

「……知っているのと実際に見るのでは違う」

「じゃあ案内は任せた」


 どんな案内になるのか楽しみだね。あとどんな顔でうろたえるのかも。くっくっく。


「……ユートはSであったか」

「迷宮メンバーは真面目なタイプばっかりだったからなぁ」


 イジりがいのある仲間ができて俺は嬉しいよ。


「アニキ! その依頼、どのランクのヤツっすか!!」

「ん? あー……Fだな。パーティメンバーにD以上がいれば他のメンバーのランクは問わず、だとさ」


 大体の依頼はパーティの最高ランクが一定以上なら、仲間のランクはいくら低くても大丈夫だ。特に護衛依頼は俺達みたく移動がてらというのが多いから、そうしておかないと条件に合う人間が一気に減る……と、たった今受付嬢さんが教えてくれた。どっかのグータラ受付嬢と違って気が利くね。


「よっしゃ! 俺達もその依頼受けるぜ!!」

「ちょっと、スフィーダ! 勝手に決めないでよ!」

「なんだよ。なんかマズいのかよ」

「一言相談してって言ってるの! お兄さん達と一緒で文句なんてある訳ないじゃない。あの、よろしくお願いします!」


 チェルカがペコリとお辞儀する。苦労してそうだなぁ。


「はい。では手続きをいたしますので、ギルドカードの提出をお願いいたします」


 それぞれ受付嬢さんにギルドカードを渡す。おおう、ロンメルトのカードがキラッキラしてる。薄い青紫の謎金属。これがXランクのカードか。いいなぁ。


「こ、これ……は」


 受付嬢さんもそのキラッキラぷりに驚いた。そして俺のカードとロンメルトのカードを交互に見始める。


「あ……と、ゼ、Zランク討伐者、ユート様でお間違いございませんね? 迷宮都市シンアルの討伐者ギルドより通達がきておりますので、ランクをXに昇格させることが可能です。昇格いたしますか?」

「え? マジで?」

「はい。本人不在とはいえ十分な功績であることが同パーティメンバーより証言されており、シンアルの討伐者ギルドがこれを承認している、とのことですので」


 思わずロンメルトの振り返ると、ドヤ顔で頷いていた。


「ふはははは。余が臨場感溢れる語りで町中に喧伝しておいてやったのだ。今や迷宮都市において我らの名を知らぬ者などおらんぞ!!」


 ありがた恥ずかしい話だ。でもありがとう! やった、俺も最高ランクだ!!


「可能であれば証明できる素材などを提出していただけると、こちらとしても安心して手続きができるのですが、よろしいでしょうか? もちろん確認次第、素材はお返しいたします」

「あ、はい」

「申し訳ございません。決して疑っているわけではないのですが、何分初めてのケースですので」

「はは、わかってますよ」


 なんたって本来なら前代未聞の最高エックスランクだ。万が一、億が一にでも間違えましたなんてことには出来ないだろうさ。


 しかしそうだな、証明できるものか。火岩のアッドアグニの素材は……あのデカい図体はハリボテで本体はちょっとデカいトカゲくらいだったから竜玉しか手に入らなかったんだよな。ロンメルト達はそれで証明したんだろうけど、今はリゼットが持って行ってるから手元には無い。

 そうなると天帝フルフシエルか? でもジルが丸飲みにしちゃったし……いや待てよ。フルフシエルの腹の中にあったアイテムを吐き出せたんだから、素材だって吐き出せるんじゃないか?


「よし、ジル。ちょっとやってみよう」

「ピ!」


 消化してないか心配だったけど、無事にデカい羽を一本吐き出すことに成功した。意外と融通がきくもんだ。

 羽を受付嬢さんに渡す。空間属性で出したと思ったのか、ジルが吐き出したことに関してはノータッチだった。だけどその、見たことが無い羽だなと首を傾げて見つめている羽が、一体何の羽なのかを知った時も冷静でいられるかな?


「それでは調べさせていただきます」


 と言い残して奥の部屋へと消えた受付嬢さん。少しして何かがぶつかる音と崩れる音が響き、俺とロンメルトはニンマリ笑ったのだった。

 どやぁ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ