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3.たゆたいながら…

「うぃーっ!」


 その夜。俺は風呂に入ってくつろいでいた。

 湯船に体を沈めて、ナニは浮こうとしているが、全身を沈めてくつろいでいた。


 そうか、部長と高ビー女は互いに憎からず思っているのか……。

 いやはや、平和だナー。


 ……平和じゃねえし!


 金気どうなった? すっかり忘れていた!


 あれだな、飼育部周辺が怪しい。あの辺りで不審者情報出てこないかな?

 飼育部の連中3人も容疑者だしな。俺、あいつらのことなんも知らねえし。


 金堂部長は最右翼だ。なにせ現場のすぐ側にいたしな。

 菱方副部長も怪しい。ああいう善人タイプが犯人だってよくある話だ。

 それと置田。見るからに悪人面だ。


 意外性を狙うなら小手津のクソアマ。サスペンスドラマじゃ、犯人が唯一のヒロインだったってのは定石だ。


「お姉ちゃん、入るわよ」

「わすぷ!」


 ドアが開いて、一糸まとわぬ秋菜が入ってきた。

 ざぶざぶとお湯を被り、お股を洗ってから湯船に入ってきた。


「うぃーっ!」

 爺むさい声を張り合える秋菜である。

 ざぶざぶとお湯が溢れてしまう。


「あのな、秋菜。風呂には先客がいるだろ? お湯もったいないだろ? なんで毎回一緒に入ろうとするかな? それも、お……あたしを座椅子代わりにして」


 俺のお膝の上に、逆ハート型のでかいケツを乗せているのだ。

 髪を結い上げた残り毛が首筋にまとわりついていて、なかなかの風情である。


 が、しかし、それとこれとは別物。


 サラリーマンが建てる注文建築一戸建てにしては広い浴室だが、湯船に二人が入るにしては……それなりに入れる広さだが……沢口パパとママ、何を目的に浴室を広く設計したかな?


「いい加減、お姉ちゃんの上に座るのやめろよな」

「はーい!」


 二つ返事で俺から降りる秋菜。一回転して向かい合わせに座りやがった。

 ほんのり上気した白い肌。膨らみの頂上にはロンパリ気味のぽっちり。数が俺と同じである。さすが姉妹。


 通常より大きいとはいえ、大の高校生二人が広々とくつろぐ容積を持った浴槽ではない。

 自ずと足を折り曲げたり、場所を譲ったりして座ることになる。 


 具体的に言うと、互いの右足が、互いのお股の間に入り込んでいる。

 もう少し具体的に言うと、俺の右足が秋菜のジャングルに……。


「なあ秋菜」

「なあにお姉ちゃん」

「お前、結構モジャってるな?」

「え? 平均だよ。むしろお姉ちゃんが薄いんじゃないの?」


 そうか? 増えるワカメちゃんみいたいな濃度だぞ。

 ま、いいか。

 特筆すべき事でもないし。


「それよりお姉ちゃん、考えはまとまった?」

「え?」

 どきり!


 金気について考えてたけど、知らず知らず口に出していたか?


「ほら、金堂さんと小手津さんの事よ」

 え? あ? そっちのほうでしたか? そっちって何か問題あったっけ?


「わたし達がキューピットになってやらなくちゃ、いつまで経ってもくっつかないわ。二人とも来年は卒業だし、そのまま分かれるって事にもなりかねないし!」

 秋菜の目が猛き獣の目になる。


「あの二人は絶対相思相愛よ。わたしの目に狂いはないわ!」

「はっはっはっ! 秋菜はまだまだだな。あの二人喧嘩してるんだよ。喧嘩してるって事は仲悪いんだぞ。そんな筈無いって!」


 秋菜の目がスーっと細くなった。

「お姉ちゃんって、こっち方面は駄目なのね?」

 え? 駄目って何? なんで秋菜にダメ出しされんの?


「お姉ちゃん、ひょっとして……お姉ちゃんのこと好きになってる男子がだれか知らないとか?」


 好き? 俺のことを好きになった男子? なにそれ気持ち悪い。

 そんな話はしたくないなー。気持ち悪いしなー。


 よし、話題の方向を変えよう。

「それで二人をくっつける算段なんだがね……」

「意見を聞きましょう!」

 秋菜はパクッとエサに食い付いた。


「できっこねぇよ」

「見捨てないの!」

 秋菜の腕が湯から出た。


「痛てっ!」

 ちょ、このアマ、よりによってポッチリを摘みやがった。


「やり返す」

「ひゃい!」


 親指と中指を使って左右を挟み、人差し指で天辺を押さえつける。俺の方が複雑な動作だったので俺の勝ちで良かろう!


 何回かの報復戦を経て、二人は冷静になった。


「ハァハァハァ……もう止めよう。特に左な」

「そ、そうね。止めようね」


 こんな絵のどこに実があるのか? 誰も得しない。そうだろ?

 下半身編もあったけど、誰も喜ばないだろ?




 さて、洗い場へとカメラは移動する。撮影はしてないけれど。

 秋菜の頭を洗ってやっている場面である。


「日曜日に勝負があるだろう?」

「そうね、わたしもそれを何とか利用できないかなって考えてたの。でも条件があれじゃね!」


 お嬢さんが勝てば部長は奴隷。部長が勝てばお嬢さんのプライドが粉みじん。関係は泥沼化すること必至。

 かけっこの相手はサラブレッド。人間の足じゃ叶わない。トラック一周だとスタミナが持たない。ついでに部長はヘビー級。足は速くない。


「お嬢さんを勝たせてはいけない」

「そうね」

 シャワーでシャンプーの泡を落としてやる。


「かといって、部長を勝たせるのも悪手だ」

「決定打に欠けるわね」


 ガシガシゴシゴシとタオルで拭き上げる。

 拭き上げつつ、水のチカラで髪のケアをしておく。


「ってことは、あの勝負を邪魔しないといけない。でもって、第三の方法が必要だ。それを考えよう」


 で、次は俺が洗ってもらう番。

 時々背中に異物を感じつつ、そんなこんなで風呂場のシーンはそろそろお終いである。

 



「ぷはーっ!」

 風呂上がりの牛乳は旨い。

 この際、腰に手を当てて一気飲みするのが正しい作法。


「ぷはーっ!」

 爺むさい声を上げたのは秋菜である。隣で麦茶を一気飲みしていた。


 まあなんだ。ぶっちゃけ部長とお嬢様の関係なんざどーでも良い。問題にしなければならないのは、……なんだったけ?


 なんかあったな?

 ……まいいか。


 いそいそとノートブックを広げ、電源を入れる。

 どうやら俺は電子世界に疎いらしい。というわけで、秋菜の肝いりで、沢口パパのお古をもらったのだ。

 古の水神が何見るんだ? って話だが……俺も同感だが……設定上、俺はバイクが好きだという事になっている。

 だもんで同型機種のサイトを漁って情報を仕入れているわけだ。

 質問して、おちゃらけて、電源落として寝る。十分くらいの日課だな。


 ハッハッハッ! これで俺も一人前にぱそこんを扱えるぜ。何でも聞いてくれ。インターネットの略語がネットだよ。網じゃねえんだ。

 時々なんもしてねえのに、変なウインドウが現れたりするけど、最近は慣れたから驚かねえぜ!




 

 で、問題は、歳星がブツ切りにされた事だったんだって思い出したのは、ベッドの中に潜り込んだ時だった。


 金気っつのはよ、金銀パールを象徴してるんじゃねえ。堅い状態、……たとえば金属なんかが解りやすい。


 人間の言い伝えによりゃ、金気は太陽に沈む西方に位置する。

 それと、収穫の秋をも意味している。


 金気の総合的なイメージは、鎌を持った死に神。

 神が種を蒔き、育てた麦を鎌で刈り取る「神」。

 死に神は「神」だ。悪魔じゃねえ。

 余計にタチがわるいわな。


 さて、死神金気が入った社は誰だろう?


 怪しさベストは飼育部の3人。あいつらの事を詳しく、かつ独自に調べる必要がある。

 金堂は3年生だったな……。


 3年に知り合いいねーかな?


 ……何かいたな。


 確か……、スズナ、違うな。スズシロ、ゴギョウ、ハコベラ、セリ……芹……。

 芹川だ!


 あいつにゃ貸しがいくつかある。金堂の事を調べさせてやろう!


 よし、もうこれで解決したも同然!

 俺は心安らかに眠りに落ちた。


 ま、明け方、秋菜がまた俺のベッドに忍び込んでパジャマのズボンの中に手を突っ込んで寝てた方は解決しなかったけどな!




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