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マサと付き合ってから気付いた事が幾つかある。
まず、恋愛に淡泊だと思っていた己の嫉妬深さ。それから、独りが好きだと思っていた自分自身の寂しいと感じる心。あと、誰かとの未来を願う気持ち。
その全てに戸惑うけれど、それも決して悪くないと思う。そして、それはちゃんと自分で守らなきゃいけない。
「大和くんっ!今日この後、買い物とディナーに行きたいのよう」
だからちょうどいい。マサの目の前でハッキリと断ろう。
「あの、ユカリ先生!俺・・・」
「あっ、進藤くんもよかったらどうかしら」
―――遮られるなよ、俺っ!しかもマサに話を振られてどうすんだ。
「俺、今日は用事あるんでスイマセン」
そう言うとマサはさっさとロッカールームに引っ込んでしまった。
・・・何だよ用事って!元カノとか言ったらキレるからな。
「そうなの、ざんねーん。ねえ、大和くんは?」
「あ、いや・・・」
今日は、まだ買えていないマサの誕生日プレゼントも探さなきゃなんない。ここはちゃんと断って・・・。
「今日は―――」
「じゃあ、今週はいつなら大丈夫?」
うっ・・・そう来るか。察してくれよ。
「ナルくん!ちょっとこっち手伝ってくれない?!」
助かった。絶妙のタイミングで呼んでくれたのは、看護師の上司の長谷さんだ。
「はっ、ハイ!ユカリ先生すみません」
白々しいかもしれないが、頭を下げて話を切り上げ長谷さんの方へと走った。
「ナルくん、もっと上手いかわし方を学んだ方がいいわよ」
困ってたのがバレてたのか・・・。
「・・・ハイ」
「そうしないと、本当に大事な人に誤解されるわよ」
「もっともです」
とは言っても、色々としがらみもあるから難しいのだ。
結局この日も町を歩き回ったが、誕生日プレゼントは買えなかった。
家に帰り着き、頭を抱えた。誕生日が何も決まらない。日にちも無い。
「しょうがない。・・・アイツに相談してみるか」
あまり電話をかけた事が無いため、リダイアルには残ってない。電話帳から探した名前は『成海美弥』。
「―――もしもし」
『あっ、お兄ちゃん!久し振りだね、どうしたの?』
相変わらず元気な声で応答したのは、妹の美弥。
「あっ・・・ちょっと相談なんだけど」
何となく口ごもってしまう。
『珍しいね。どしたの?』
「お前、彼氏いたよな。誕生日ってどんな事してんの?」
男の誕生日の祝い方なんて女に聞くのが一番だ。
『あっ、彼女の誕生日なの?そうだなあ・・・プレゼントならやっぱりアクセサリーが喜ぶんじゃない?指輪が重かったらネックレスとか』
うーん・・・男にあげる物を相談したい、とは言い出せねえ。
『あっ、私が誕生日にサプライズで彼氏にしてもらって感動した事あるんだけど』
「え、なに?」
そうそう、そういうのが知りたいんだって。
『手作りの誕生日ケーキなの』
「はぁっ?!んなモン作れるかよ」
自炊はたまにするけど、甘い物なんて勿論作った事ない。
『普段しない事をするからいいんだって!簡単な作り方教えてあげる。彼女は何ケーキが好きなの?』
マサは普段あまり甘いものを食べない。けど、数少ない好きなケーキは知ってる。
「―――チーズケーキ」
『オッケー、任せて。ちゃんとメモしてよ?』
マジかよ・・・。そのまま押し切られてレシピを書き留めた。