狂愛
その男女は破綻した。
「すまない」
「もう、戻れないの?私では、ダメ?」
「すまない。俺には他に」
「そう・・・その人は、私より貴方を愛しているの?」
「ああ。それに俺も愛している」
「わかったわ。でも私は多分、貴方が思ってるより貴方を愛してるのよ」
「・・・すまない。だけど、君を嫌いになった訳じゃない。
ただ、君より好きな人が出来てしまったんだ」
「そう・・・なら、さよならは言わないわ。じゃあ」
「ああ」
何故、男が自分から離れて行ったのか。
自分の愛の示し方が、不十分だったのか、女には分からなかった。
でも、自分の事が嫌いになったのではない。
なら彼は戻ってくるかもしれない、そう女は思った。
それから女は彼の事を、今までと同じように知ろうと、寝食を惜しみながらも、
観察する事にした。
「「もしかしたら、自分が彼の全てを知り尽くせなかったからではないか?」」
と考えたからだ。
彼を観察する内に、よく彼と接触する女性がいる事が分かった。
それが、彼が離れていった種。
女はその種の事も観察するようになっていった。
そしていつしか女は
「「彼はただ、遊びたかっただけ。本命は私なのね。私の元へ戻ってくるわ。必ず」」
そう思ったのは、男が婚約指輪を購入していたからだった。
種を観察していた女は、その種が彼に相応しくないと判断したのだ。
容姿も、スタイルも、声も、料理も、全て自分の方が勝っている。
男は本当は、自分の元に戻りたがっているのに、あの種がしつこいんだと。
「なら、私が彼を助けてあげなくっちゃ」
女は男を助けるべく、そして自分の物にすべく、行動をした。
「ねえ?最近、マンションのゴミが、よく荒らされてるのよ」
「猫かなんかじゃないのか?」
「でも、そうでも無いみたいなの。気味が悪いと思わない?」
「そうだな・・・・ま、何かあれば、俺が君を守るよ」
その言葉に女は微笑んでみたが、不安はまだ残っていた。そんな女に男は
「そうだ。君にこれを」
「え?」
「俺と結婚してくれ。ずっと君の側にいたい。いや居て欲しい」
「これって・・・・」
「受け取ってくれる?」
突然の事で驚き、思考がついていかなかったが、徐々に鮮明になり
「もちろん。うれしい」
返事を聞いた男は、指を箱から男の手へ、そして女の指へと差し込んだ
部屋の中は、男と女の未来への希望が充満していた。
盗聴器であの女が聞いているとも知らずに。
「ああ、私と結婚したかったのね。ずっと一緒ね。ずっと」
仕事が終わり、男が携帯をチェックしてみると、女から着信があった。
掛け直すかどうか迷ったのだが、最悪な別れ方をした訳ではないのだから、
と考え、女に電話を掛けた。
「もしもし?」
「もしもし。久しぶり。ちょっと相談したい事があるの。時間取れない?」
女の声色は、何かを期待しているといった雰囲気はなく、
「わかった。金曜日に夜なら」
「ありがとう。じゃあ、車で迎えに行くから、XXX駅にあるコンビニで待っていて」
「わかった。仕事が終ったら連絡する」
「ありがとう」
軽い会話を済ませ、金曜日の夜、男と女は久しぶりに再会したのだ。
男は助手席に座り、女が運転をする。
「どうせなら、ドライブしながら話すわ」
「そうだな。昔、よくしたな。ドライブ」
「そうね」
本題に入らないまま、互いの近況報告をしながら、車は何処かの工事現場に入っていった。
「ここは?」
「何かの工事現場ね」
「それで相談事って?」
暗い工事現場には人はおらず、車のヘッドライトだけが、暗闇を照らしている。
「ねえ?喉、渇かない?」
女の急な質問に
「そうだな」
確か、仕事の途中から水分を摂っていなかった男は、身体が訴えるままに女に答え
「はい、お茶」
「サンキュ」
一気にお茶を砂漠化した喉に流し込み
「それで?」
「返事、言わないと、と思って」
「返事?何の?」
何の事を言っているのか、久々に会ったというのに、何の返事なのか
男には理解できなかった。
「もう、照れないで?」
「何の事だ?」
「私、貴方のプロポーズ、受けるわ」
女の突拍子もない言葉に、男の中で危険信号が鳴り始めが、
だが、段々と意識が朦朧としてきたのだ。
「この指輪、ありがとう。貴方がアノ女にしつこくされているみたいだったから、
私が迎えにきたわ」
「・・な・・にを・・・どう・・・して・・・その指輪・・・・」
闇に吸い込まれそうなのを、必死に抵抗しながら男は言葉を発したが
女の返事を聞く前に、とうとう闇に落ちてしまった。
「これでずっと一緒ね、貴方。誰にも邪魔されないように、ずっと二人でいましょうね。で
も、暫く私を一人にしたから、ちょっとお仕置きしなくちゃ」
女は独り呟きながら、男を採掘場に引きずり出し、
穴が掘られた場所へと連れてきた。
そしてその中になる棺桶のような入れ物に男を横たわらせると、
自分もその中に入り、
蓋が開かないように、特殊な接着剤でしっかりと密閉すると
「私は先に行ってるから、すぐ来てね」
横に寝かした男に囁くと、女は小さな小瓶を取り出し、一気に飲み干した。
どれくらい時間がたっただろうか。
何か、重たい物が天井に響くような、降ってくるような音で男は目覚めたのだ。
「ここは・・・」
目を開けても、目を閉じている様に暗い。
動こうとしても、空間が狭いのか動けない。
だが自分の横に、何かがあるのはわかった。
「・・・・もしかして」
狭い中、片手でその物体を探ると、服装などから自分を呼び出した女だと分かった。
だが、その身体が凍っているように冷たく、硬い
「おい・・・!!どういうことだよ!!!」
横たわったまま、身動きが出来ない中、
男は自分の携帯をポケットに入れていた事に気付き、
ズボンから何とか取り出すと、携帯を開いた。
電波は県外。
そしてその携帯の光で横を見ると、血色がない女が死んでいる。
離れたくても、身体を動かすスペースがない。
半ばパニックになりつつも、必死で目の前にあるであろう天井を
蹴っては叩き、叫んだ。
だが、誰も来ない。気付かれない。
疲れた男は再度、携帯を開き見ると、未読メールがあった。
そのメールを見ると、送信者は横で死んでいる女。
「「貴方の我がままを聞いて、あの女と暫く遊ばせてあげて、
私の存在の大きさに気付いてプロポーズしてくれた。
凄く嬉しかった。でも私以外の女が貴方に触ったのがやはり許せなくて、
ちょっと意地悪するわね。先に私、逝っているから後で来てね。
貴方が望んだ通り、ずっと一緒にいれるわよ。待ってるわ」」
そして添付されている写真を見ると、婚約者と男が住んでいる部屋で指輪をして、
鏡に向かって立っている、女の写真だった。
男は理解した。
この女は、ずっと自分達を見ていたんだと。
そして、婚約者と自分を混同していたのだと。
婚約の事は?そう考えた時、ある想像が頭を霞めた
(盗聴・・・・・)
恐怖で男は必死で、狭い箱の中でもがいた。
爪ははがれ、声が擦れても、もがき続けた。
だが、男は光を二度と見ること無く、乾き飢え、絶望の中、
ゆっくり、ゆっくりと死を迎えた。
文章が雑だなあ、とは自分でも思いました。
時間が中々取れないもんで・・・・
(言い訳ですね・・)
短編というのは、難しいと身に染みましたね。