00 : 星がもってくるものを待つ
扉が開かれ、その先へと踏み込んだ。
日が差し込む廊下に、高らかな靴音が響き渡った。
一定のリズムが廊下に響き渡る様は、嫌でも靴音を響かせている彼女の存在を強調していた。
彼女に気付いた侍女等が、廊下の隅で深々と頭を下げる。
見た目は十代半ばから後半。少女から女性へと移り変わる際の刹那的な美しさや危うさ、伸びやかさが見事に同居しており、見る者を惹き込ませる女性だった。結い上げられた漆黒の髪には、白の花が飾られていた。瞳の色は髪と同じく黙する、静謐の黒。象牙色の肌を覆うのは、純白のドレス。靴もドレスと同じく純白。凛と歩くその姿は、実際の姿以上に彼女を大きく見せていた。
必要としたのは、他者を圧倒させる鮮烈かつ強烈な印象。
誰にも侮られない為に、この世界で生き抜く為に、最初の時点で植え付けておくのは決して不利にはならない。
頭を下げ続ける人々の間を通り抜けた先には、目的地へと続く扉があった。
漆黒の瞳が、今彼女のいる建物の中で一、二を争うほどに豪華なのだろう装飾の施されている扉を見上げ。次の瞬間には、弧を描いた。覚悟を決めた人間の持つ、独特の光を持って。
そしてそれは、彼女という人間が持つ美しさを凝縮して現されたかのような微笑みだった。
その表情に、様々な思惑でもって彼女の様子を見ていた人々は息を呑む。
けれど彼女は周囲の異変には気付かず、扉を見続けた。
静かに決意を、固めながら。
譲れない望みがあった。
遣り通さなければいけない道があった。
彼女は顔を上げ、背筋を伸ばした。
扉の側に控える侍従が頭を下げ、扉を開けた。
途端に彼女を包み込んだのは沢山のざわめく声。
そして、ホールの中で高らかな声が響き渡った。
貫き通そうとする信念があった、己に敷かれた道があった。
得たのは莫大なチカラと、未来を負う義務。
扉の先にあるのは、幾多の栄光。
そして同じくらいの、いやそれ以上かもしれない苦難への道。
そこへ飛び込むように、彼女は一歩を踏み出した。
お付き合いいただけたら幸いです。