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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

赤い子

掲載日:2026/04/13

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやは、ここんところどれくらい外へ出ている?

 まあ、仕事とか取材とか散歩とかでも構わねえや。アウトドアした時間、どれくらいある?

 たいていは、つつがなく終わってほしいものだが、ちょっと変わったものがほしい……などというのは大人には難しいものよな。

 何につけても「先」を見なくてはいかん。期限のついている「先」をな。それへ万全に備えるためには、ブツや心の用意をする時間が必要だ。そうやって区切って、区切ってと頭の中で考えたら、その時間をアクシデントで潰されるのが怖いものよ。

 後先なく取り組める時間は、なんとも貴重なことだが……それはそれ。アクシデントを避けたかったら、ちょいと頭も心も働かせにゃいかんケースもある。

「赤い子」。

 お前も知ってるよな。つい最近、そいつがまた出たって話が流れた。

 ちょっと確認しておかないか?


 赤い子はきれいな夕焼けの日に現れる。西のほうからゆらりゆらりと、かげろうみたいに揺らめきながら。

 遠目に見るだけならば、そいつは他の少女と変わりはないだろう。しかし、目がいい奴なら分かる。そいつの身体は真っ赤っかだからな。

 俺たちの知っているケースだと、童話の赤ずきんみたいに頭まで赤いフードをかぶっているから、見分けがつきやすいんだけどな。どうも、最近あらわれたやつは少し仕様が違っていたらしい。


 話は俺の友達が娘さんから聞かされたんだそうだ。赤い子らしきものが現れたってな。

 俺たちの間じゃ、口裂け女と同レベルに有名なやつだったからな。あいつも子供ができてから聞かせていたらしい。

 今じゃ娘さんも、ひとりで外に出かけたくなるクチのようで、心配もあるそうだ。とはいえ、日中は友達も仕事があるから話を聞くのはもっぱら仕事帰りの夜なんだが。

 そこでいきなり「赤い子」の話が出てきたものだから、友達としちゃあ驚いたもの。

 二人してバラエティ番組見ながら、ポテチをかじっている最中の切り出しだったこともあったからね。


 その日の夕方、娘さんは友達との遊びから帰る途中だった。

 自転車も自在に乗りこなせるようになったばかり。ぐんと加速すれば、ただ走るのに比べて、よりすがすがしい風を身体に感じることができて気持ちがいい。

 その時も赤い夕焼けが暑いくらいに照り付ける中、家へ目掛けて疾走していた。ちょうど陽へ向かわなくてはいけない方角だったんだ。


 ひとつ信号を越えたあと、娘さんはペダルを漕ぐ足にいっそうの力を込めた。ここから先は信号のない直線が続く。ちんたら進むよりは、一気に距離を詰めたくなるのも道理だろう。

 どんどん背後へ飛んでいく、あたりの景色。思わず目を閉じながら、体中に吹き付ける風の気持ちよさを感じていた直後。

 目を開けると、いくらか前方に、背中を丸めた子供を思わせる影がひとつ。交差点も近づいてきていたし、そこから曲がってきたのかもしれない。

 自転車を歩道脇へ寄せながら、その子とすれ違う。こちらを一瞥することない、セーラー服を身に着けたショートヘアの女の子だったという。

 娘さんもそのまま勢いをつけ、やがて交差点で信号待ちし始めたのだけど、ひょいと振り返って不審に思う。


 ――あれ? さっきの子、進んでいない?


 追い抜いてから、数十メートルは動いたはずだ。彼女もまた歩いているなら、相当離れているはずだった。実際、よく見ると彼女の足は動き続けている。

 でも信号が赤から青に変わるまでの間、彼女はこちらへ背を向けながら進んでいなかった。娘さんは歩道に敷き詰められたタイルを数え、彼女の位置の見当をつけていたから、分かったらしい。

 遠ざかっているならば、自分と彼女の間のタイルの数は増えていくはず。それが一切見られなかったから。


 普通じゃない。おかしい。

 青信号とともに、娘さんもまたペダルを強く漕ぎ始める。かすかなきしみとともに、猛然と娘さんの操作を受け入れる自転車。だが乗り手の娘さんは、もはや気持ちよさを感じるつもりはない。

 気味が悪かった。一刻も早く、この場を立ち去りたいと思った。

 が、十数秒は一心不乱に前進し、とうてい歩きどころか走りでも追いつけないほど距離を開けたと感じた時、振り返ってあらためて鳥肌を立てた。

 ついてきている。

 やはり後ろを向いたまま、歩くような足取りを続けていたが、娘さんと彼女の距離は一向に開いてはいなかった。

 それだけじゃない。先ほどまでは白かったセーラー服は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。のみならず、スカートより下の彼女の両足や、首より上の肌や髪の毛に至るまでも、赤一色に。


 ――赤い子!?


 娘さんがそう認識した瞬間、ぼたたっと体中で音が立った。

 身に着けていた服が、いっぺんに真っ赤に染まったからだ。頭から赤い塗料の入ったバケツをひっくり返されたかのように。

 赤い子は、存在を認めたヤツを真っ赤に染める。そいつ自身の血でもって。やがて体の血が尽きて、そいつは地へ伏すだろう。

 見つかったなら、助かる道はただひとつ。一刻も早く、着くことだ。

 自分の住まい。自分の命がしみつく、その場所へ。そこには赤さも及びはしない。

 帰り着くまで、娘さんのハンドルはふらつきっぱなしだったというが、ただの焦りだけではないだろう。

 夢中で家に帰り着いて、服を脱ぎにかかったけれど、もうそこには赤みは残っていなかった。赤い子は犠牲者の血を奪って、自分は赤くあり続けようとするのだから。

 夕飯時までそのままぐったりし、食事でいくらか血が戻ってきたのか、友達が帰ってきたときにはほぼ調子が戻っていたという。


 俺らのころには、最初から真っ赤になって迫っていた赤い子。あいつらも日々、学んでいるのかもしれんな。

 いつも通りを望むからこそ、いつも通りじゃないやつにも注意する。そうでないと、食われるぞ?

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― 新着の感想 ―
時代の流れに沿って変化していくのは、人間だけとは限らないのかもしれませんね。それにこういう存在って人間の噂話で伝わっていくものなので、途中からちょっと変化して伝わっちゃう場合もあるかもです。
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