金の傀儡
時間交差、始まります
危険です。特に作者が。
「と、言う訳です。でね…」
信任の儀の次の午後。日の当たるテラスの一角でマクシミリアン・トレッシャーがぺらぺらと饒舌に語るのを、彼は殆ど聞き流していた。
よくもまあ、話のネタが尽きないもので。
おべっかばかり聞いていて一体何が楽しいのか、と顔に薄い笑みを貼りつけたまま、彼は内心苦笑する。
一方のマクシミリアンは、貴方様を魔帝に立て私達の天下を取りましょう、と意気洋々と腕を捲し上げて見せる。彼はそうですね、と嬉しそうに、然し内心では詰まらなさそうにそう頷いた。
別段、自身が魔帝になるつもりなど毛頭無いのだ。大体、姉の方が自分より魔力も、度量も優っているのである。自分が魔帝になる意味が一体どこにあるのか。どうせ何処か(目の前)の野心家の操人形にされてしまうがオチだというのに。
それならば、と思ったのはもう随分と前のこと。
「姉様、貴女の即位に支障が無い様に、私は敢えて阿呆共の傀儡となり、貴女に降りかかる火の粉をなるべく先に振り払っておきましょう」
ー私が姉様の盾となります
遠い、遠い、何時かの盟約。自分より遥かに聡い姉は、ただ何も言わず哀愁に満ちた蒼を俺に向けていた。
嗚呼、と心の中で溜息を吐く。トレッシャーの阿呆狸は未だに喋り続けている。貴方が即位すればこの国は安泰だ、とか嘘八百。
見え透いた野望を隠すつもりなど無いのだろうか。彼の言の端からは、権力欲がありありと滲み出ている。とは言った処で、自分とは余り関係が在る訳では無いのだが。
恐らく彼は知らないのだろう、いや、姉以外には教えてすらいないのだから当たり前だろうが…帝家に伝わる、異能の伝説、己は其れの体現者であるという事を。
御前の想ひは言の端の色味となりて、彼の者へと伝わるる。嘘は吐く可ず。戯言は言ふ可ず。
帝国第一皇子、シャール・サルタイアーの目には、黒い嘘に塗れたマクシミリアンの姿がしかと映っていた。
◇
「ほう、奴は御前を立て、次期魔帝の命を狙うとな」
肯定の意を込め、金髪の彼はコクン、と頷いた。途端、男の口許が吊り上がる。
「大方真っ先に私が狙われるだろう。致し方あるまい。折角だ、死んだ振りでもして彼方を油断させてみようか」
意地の悪い笑みを浮かべ乍ら、近衛隊長は今後の予定を紡ぎ出す。喰えない男だ、とシャールは大っぴらに苦笑した。彼と腹の探り合いをしたところで大した収穫など得られはしないだろう。彼の言の端からは何の意図も感じられないのだから。
「然し、奴も行動が早い」
「仕方ありませんよ。姉…フェデリカ様の両脇は今、がら空きなんですから」
知らない人が見れば、ね、とシャールはくすくすと笑う。次期魔帝の周りには何時何時でも彼の代わり身が姿を隠して侍っているのだが、強力な認識阻害が掛けてあるので其れに気付ける者など殆ど居ないのだ。
「まあ…そうかねえ」
とサルヴァトーレはぼりぼりと頭を掻き乍らぼやく。その目はシャールの背中よりも遥か遠くを見つめていた。
「君はもう少し奴の策に踊らされておいてほしい」
と、彼はシャールに視線を戻す。
「奴の事だ。二重三重に策を練っている可能性も否定出来まい」
判りました、とシャールは彼に頭を下げ、それでは、と廊下の、彼とは別の方向へと歩き出す。擦れ違いざまに彼はシャールに一言、気を付けておけ、と囁いた。
「あの狸、頭だけは悪くはない」
そう独り言つサルヴァトーレの横顔は、誰もがぞっとする程嬉々としていたという。
神様の名前が(今更)決まったんで、
世界設定①が更新してあります。
Wikipediaありがとー!