黒の重線
やっとこさ、黒幕の登場です
冷たい大理石の宮殿に、荘厳な声が響く。かつん、かつん、と足音を立て、新たに王の盾となった者達は魔帝の台座の前に跪いた。
信任の儀は先に国中に知らされた通りに、何の滞りも無く進められてゆく。
順番が回って来たのだろう。拝礼を促す声に合わせる様にして、新しく魔帝の狗となるべき彼は、若干19歳、未だ少女の域を抜け切らない次期魔帝の前に頭を垂れた。
「王の盾が隊長、サルヴァトーレ。此の名に掛け、御前は其の身を以って魔帝を護り徹す事を誓うか」
前任の宰相が凛とした声で決まり文句を述べる。
彼はええ、と呟き目を細めた。
「但し、友誼と不干渉を以って」
◇
アレが、近衛騎士だと?
その最中、マクシミリアン・トレッシャーはその様子を粒さに眺め乍ら内心苦笑した。
あれでは殺してください、と言っている様なものだろうが。
今回新たに近衛に命ぜられたのは、黒髪、黒眼のひょろりとした何とも頼り無さそうな男。長めに伸ばされた髪から覗く其の顔は、男にしておくには勿体無い程、美しい。
いっそのこと、あの愚直なシャール"様"の男娼にでもしてやりたい位だ。
と彼は無表情な仮面の下で、意地汚い笑みを浮かべた。
己の望みなど、すぐにでも叶えられよう。何せ、此方の手の物はざっと200。対する彼方は1。しかもまあ、あんなに女々しい体付きである。勝負は見えたも同然。
これから出世街道まっしぐらだと言うのに、直ぐにそれを潰されてしまうだなんて。
憐れだねぇ。
彼は内心ほくそ笑んだ。
さて、先ずは盾を、一体どうして遣りましょうかね
◇
所変わって、トレッシャー邸、マクシミリアンの書斎にて。彼は羊皮紙の前に腕組みをしていた。
詳しくは知ら無いが、書類に拠ると、新たな近衛は四六時中魔帝の側に侍ることを嫌がったらしい。つまり、魔帝は隙だらけ、寧ろ可哀想な程誰にも守ってもらえないのである。
「何ともまぁ、愚かな」
刺客は私以外にも山程居るというのに。敵とは言え、盾も持たずに戦場に立たされる運命と相成った、か弱い乙女に、彼は少なからずの同情の念を抱いた。
「そこで、だ」
マクシミリアンはふと浮かんだ"名案"に口許を歪ませる。あの莫迦な近衛を先に始末してしまえば良いのだ。
あの可憐な乙女は、近衛の身勝手な振る舞いにさぞ不安を抱えているに違いない。
だから、と彼は暫し中空を眺める。
私兵の幾つかに近衛と魔帝を襲わせ、残りで魔帝を守らせれば良い。
彼は魔帝の貌と近衛の貌を交互に思い浮かべた。
とんだ茶番だ。然し、効果は絶大なものに違いない。
何せ、魔帝様は殆ど無条件で自分を取り立てて下さるだろうから。
弟君など知ったことではない。自分さえ権力を握ることが出来さえすれば良いのだ。
「おっと、」
いけませんねぇ、と彼はニンマリと嗤う。
まだ今のところ、私はシャール様の"味方"なんですから。
次話かそのあたりからだんだん時系列の交差が始まります。
うお、意味不明で危険だわ、ってことなので、
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