紅の死神
あらすじと文体が違うのは気にしちゃいけない。
「"骨"が無いねぇ、アッサリ死んじゃうなんてさ、全く」
不満気にそう呟いて、彼はたった一箇所、頬に付いた血を拭う。
此処は戦の跡。大地には、死体が累々と転がっている。首のないもの、腹を裂かれたもの、挙句の果てには五体がひとつも残っていないものまで。
其の濃い死臭に、彼は口許を弓なりに歪める。そして、思い出したかの様に大剣を振り、其れにべっとりと付いた血糊を落とした。其の間、彼の表情が動くことは無い。口許は三日月を描いたまま。何故なら、此の地に転がる死体は全て、彼が切り裂いたものなのだから。
地面は鮮血の赫に染まり、其処に夕暮れの紅が差し込んでいる。返り血一つない彼の黒い甲冑は、夕日に照らされて紅く輝いていた。
そんな赤の大地にぽつんと佇む彼。其の漆黒の髪は、血や汗で固まることなく微風にさらさらと揺れ。血よりも赫い瞳は、夕陽よりも強い光で地平を見据え。そして何よりも、毒々しく絡みつく様に描かれた両頬の赫い紋章が、彼が常人離れしている様な雰囲気を醸し出している。
其れも其の筈、何故なら彼はひとであって、人ではないのだから。
ー嗚呼、また、死の匂いがする
彼は片眉を吊り上げる。山の向こうを見つめる其の瞳に、少しばかり狂気の色が差す。
男共の汗臭い匂いに混じって、女子供の匂いが少し。そして。
ー面白くなりそうだ
彼は黄昏に飛び立つ。噎せ返る程濃い血の香のなかに、微かに混じる、封じられた絶大なる魔力の気配。
ー"次期魔帝様"とは、どんなツワモノなんでしょうかね
嗚呼もう、笑みが零れて止まらない。彼はクックッ、と笑って、其の手をさっと翻した。途端、足元に緻密な魔法陣が現れる。彼の身体が雫の様に、世界に溶けてゆく。
「向かうは戦場、我、死と放浪の化身也」
そう言い残し消えてゆく彼に、名前などは無い。紅の死神。人々はそう呼んで畏れるのみ。
彼の居なくなった大地は、もうすでに一面の赤を覆い隠す程にまでとっぷりと闇で覆われていた。
用語の元ネタとかそんなの
カイザー:ドイツ語で皇帝
ギュールズ:古フランス語で赤
ああ、まんまだよ