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極彩は踊る  作者: ごろー
曉の騒乱編
13/14

蒼の追憶

友人から、「イマイチ意味が分からない」と酷評を受けてしまった…

ま、意味が分かられても困るっちゃあ困るんだけども。




夕刻の鐘が鳴る。フェデリカ・フォン・サルタイアーは緊張に顔を強張らせ乍らベッドの中に潜り込んだ。今宵、帝家の封印が解かれ、晴れて彼女の身体は自由となるのだ。記憶という名の重い枷と共に。


(今晩の夢は…あの日の、ことで…)


サルヴァトーレは既に今夜、5年前の邂逅の記憶についての夢を見ることをフェデリカに暗に説明している。彼女は近衛に言い含められた言葉を頭の中で反芻した。


フェデリカには、5年程前からずっと使えさせている筈のサルヴァトーレについて、どうして出会ったのか、彼は一体何者なのか、という記憶が完全に欠落しているのだ。数少ない覚えていることと言えば、彼が彼女を賊から救ったことと、彼女が彼にサルヴァトーレという名を与えたこと位しかない。


故に、彼女は恐ろしかった。普段は何か本能的なところでサルヴァトーレを信用しているのだが、それが何故なのか理由が分からない。今迄はそういうもの、といって放っておいてもサルヴァトーレの仕事ぶりからして何ら問題はなかったのだが、"何か"を知ってしまってからならどうだろうか。分からない。分からない故に恐ろしい。


幾ら彼女が一国の王だからといって、己の知らない過去を覗くのに何の躊躇いもない訳がない。ベッドの天蓋の端をじっと見つめる彼女の横顔は、年相応の不安の色が有り有りと見てとれた。


(知らない訳には…いかない)


彼女は意を決して目を瞑る。何時の間にか、毛布から覗く均整の取れたその顔は19の少女とも大人とも言えぬ女性のものではなく、れっきとした一国の主のものに変わっていた。





夜闇に、紅い光が輝く。彼女はただその光景に戦慄した。


町が、燃えているのだから。


どうしてこうなってしまったのかは判らないが、ただひとつ、判ることがある。


それは、此処が戦場であること。


辺りには、焦臭い匂いに混じって、血の匂い、肉の焼ける匂い等の戦独特の匂いが漂う。戦士達の雄叫びに気圧されるかの様に、彼方此方で女子供達の悲鳴が聞こえる。


彼女はそのまま其処に立ち尽くしていた。


風に靡く黄金の髪。其れは何処へ行っても目立つもの。案の定、彼女は何処ぞの者とは知れぬ、屈強そうな男共に囲まれていた。


「親分どうしますぜ。」


こそこそと、醜悪な笑みを浮かべ話す男共。褒賞金が出るとかどうと聞こえるから、彼等は大方あの野心家の差し金に違いない。


ジークムント・トレッシャー。野心を其のまま描いた様な貌の、少し"何か"が足り無い侯爵公。


嗚呼もう少し、気付くのが早かったなら。


もう何処にも立たない後悔ばかりが頭を過る。もう私は終わるのだ。国がどうなろうと知ったことでは無い。


男共の中の1人が、彼女を押えつける。もう1人の男が、ちゃきり、と銀に光るそれを腰元から引っ張り出した。


首に刃物が当たる冷たさを感じる。彼女はこれから先起こるであろう事を想像して、目をぎゅっと閉じた。


然し。


「いたいけな少女を手に掛けるだなんて、不道徳極まりないねぇ」


飛んだのは、間違いなく相手の首の方だった。相手に反撃の暇すら与えない剣筋は、男共を畏縮為せるのには充分過ぎた。彼女はただ目を見開いて、口を抑えるのみ。声など出ない。


其処には全て黒に身を包んだ…




死神が、いた。




「でしょう?次期魔帝マドモアゼル、フェデリカ。」


そう言って、彼は嗤う。その瞬間、周りの景色が一斉に爆ぜた。





あの後、何が起こったのか、今の私であっても掴み切ることはできるまい。其れはもう既に理解の範疇を超えているのかもしれないのだから。


ヒトが、消えるだなんて。


部屋の中には、先程迄居た筈の男共の影が、布に落ちた染みの様に、ぽつんとあるだけであった。


彼女は声にならない悲鳴を張り上げ、地面に崩れ落ちる。死神は視界の隅で、冷めた目を此方へ向ける。其の口許が、ニヤリと歪む。


「さて、」


沈黙を破る声。彼女はふと我に帰る。部屋の中には、黒尽くめの男と自分のみ。先程迄居た男共は何処ぞの床の影と消え。おまけに外の喧騒すら聞こえてはこない。


「貴方は」


彼女は成る可く低い声を出す。動揺を悟られぬ様、其れを手玉に取られぬ様。


「名乗る迄もない、ただの通り過がりさ」


彼はことも無げに答る。飄々と。ただ然し、其のぴっちりと閉ざされた奥を窺い知ることは出来ない。


「嘘を吐くな」


彼女はぴしゃりと彼を一喝する。


「嘘は言っちゃいないさ」


本当の事を言ったって仕方無いでしょうけど、と彼は何となく苦笑する。


「御前は運命というものを信じるのかい」


またもやこの狭い空間を、暫し沈黙が支配する。其れを打ち破る様にして彼はこう切り出した。


「は」


何を、今更。彼女はそんな藪から蛇の様な質問に年相応の声で、年相応の反応を示した。然し、其れをすぐに無表情の下に引っ込める。彼女は心の中で頭を抱えた。嗚呼、何と浅はかな。ありのままの自分を、誰とも知れ無い者に曝け出してしまうだなんて。


「まあ良い。ひとつ、真実を教えてあげようか」


彼女が黙り込むのを見て、彼は溜息を吐く。彼女が己の言動を理解し切れていないのを見兼ねてか。


「今、此処で死ぬのと、どう為るのか一切判らない未来に背中を預けるのと、何方がお好みかい」


彼の言動に、薄らと殺気が募る。


「一体、どういう…」


「御前は元元、此処で殺される"運命"だったのさ」




思考回路が停止する。殺される?一体誰に?




「さっきの男共に良い様に弄ばれ、挙句の果てに、ね」


あり得無い程どす黒い笑みを浮かべ、彼は彼女を見下ろす。其の視線に、彼女は戦慄した。絶対的な力の差。紛れもなく其れはヒトを超えていて。


いいえ、と彼女は思い直す。彼は、きっと人では無いのだ。何故ならば、人ではあり得無い漆黒の髪、鮮赤の瞳、そして、両頬の紅い紋章。それらを全て、持ち合わせているのだから。


「そう。残念なことに俺は人では無い」


心が読めるのだろうか。彼は、ひとではあるがね、と鋭い眼光をつ、と少し緩めた。


「邪神、インドラ、か」


読心を司る存在は彼しかいない。


「そうなるかも知れ無い」


でも、と彼は先程迄とはある種違った、ニヒルな笑みを浮かべた。


「少なくとも、自身、そんな陳腐な理解の範疇は超えているとは思うのだがね」


人のアタマで理解できる程、此の世は単純じゃあない、ということ。


「大体、俺にインドラとやらという名を付けられた記憶は無いね。其れ以前に、元元俺に名前など無いに等しい」


処で、だ、と彼は目を細め、此の期何度目か、ちらりと彼女を見遣る。


「時間稼ぎはもう済んだかね」


一瞬の、驚愕。全て見破られていたとは。彼女は瞠目した。然し、


「生きたいわ」


彼女は断言する。生存本能に従って。そう、と彼は嬉しそうに目を細めた。


「ならば、契約しろ。俺と。折角御前を気に入ったのだから」


「それは、どういった?」


邪神と関わっている時点で、もう元の生活には戻れまい。彼女は意を固める。


彼はそんな彼女を見て苦笑した。己はそんな存在であったか、と。そして、彼は語り出す。


「率直に言おう。俺は御前の魂が欲しい。それだけさ」


それだけ、と言うには余りにも大きな要求。其れでは死んで仕舞うのでは、と困惑する彼女を他所に、彼は更に続ける。


「無論、御前が死ぬ必要は無い。大体、この取引で変わるのは死後の魂に箱庭の輪廻(ルール)が適用されるか否か。詰り、御前が御前として生きる間、この契約、何ら支障は無い。…まあ、20歳になるまでは私自身のこと以外は忘れていて貰うが。」


「…判った。私はどう為れば良いの」


「俺に名を付けるだけで良い。其れだけで、御前の魂は俺の所有物(モノ)になる」


そう為れば、御前は運命通り此処で"死んだ"ことになるのだから。


我ながら良い考えだ、と独り言ちる彼を他所に、彼女は暫し言葉を反芻する。


「魂は元元誰の物なのかしら」


先程から抱えていた疑問を、彼にぶつけてみる。口調は出来るだけ柔く、目当てのものを吸い出し易い様に。其れを見た彼は、ニヤリと笑う。


「調子、戻ったのか。まあ良い。此方の方が好都合だ」


其れで、と彼は息を深く吸い込む。

紳士たる者、質問には答えねばならないね、と。


「魂は、元元世界(オレ)のものさ」


けれども、と彼は意地悪な笑みを浮かべる。


「残念なことに、俺のものではない」


彼女は黙り込む。幾ら聡明であろうと、神の領域を瞬時に理解する者などそうは居るまい。よって。


箱庭(俺の一部)のものであって、純粋な俺自身()のものではないのさ」


と彼は苦笑した。これ以上の質問は赦さぬ、という雰囲気を以って。


「さて、お喋りは此の位にしよう。契約を忘れたのではあるまい」


ええ、と彼女は意に反して微笑む。頭の中はあやふやで理解し難いことで満たされている、筈なのに。


「サルヴァトーレ、よ」


彼女は朗らかに、そう答えた。其れを聞いた彼はさも可笑しそうな声で尋ねる。大方答えなどとうの昔に識っているのだろうというのに。


「して、理由は」


彼女はくす、と微笑んだ。


「誰も救わない"救世主(サルヴァトーレ)と"他人(ひと)の意のままの"善良な王(フェデリカ)"。面白い組み合わせだと思わない?」





日付が変わり、重苦しい鐘の音が辺りに響き渡る。帝家に伝わる戒めの封印は今、解かれた。同じ様に封印していた何時かの記憶と一緒に。


「20歳のお誕生日、おめでとうございます。フェデリカ・フォン・サルタイアー殿下」


巨大な魔力の奔流の中で、とある狗はそう呟いた。



と、いう訳で今回は蒼の魔女、フェデリカの過去をチラリ。そしてトトーの正体をチラリ。


でも、作者的には「誰も救わない〜」の台詞を入れられただけで満足。

因みに、意味はちゃんと合ってる筈。by wiki


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