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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹
【Case1】病死したアイドル画家の謎
5/60

【2】



 テーブルからスマホを取ると、天海ルイを検索した。検索結果の一番上に本人の顔写真が表示される。


 紺色のメッシュが入った、少し長めの黒髪。美麗で中性的な雰囲気は春斗くんと似ているが、顔の系統は全然違う。春斗くんはくりっとした瞳が愛らしく、天海ルイは切れ長の瞳からクールな印象を受ける。


 ちょうど死亡に関するニュース記事も表示されていた。天海ルイが亡くなったのは二十八歳。死後、作品はさらに高値で取引されるようになったと記載がある。


『俺はそこまで熱心なファンじゃなかったけど、画集は二冊持ってました。まぁ業界からは「顔で得してるだけ、才能もセンスもない」とか批判もあったみたいですけど。凛花さんは興味なかったんですか? ルイこそ〝ザ・王子〟って感じのビジュなのに』


「綺麗な人だと思うよ。でも私の好みとは違うかな」


『凛花さんの好きな人(・・・・)は俺ですもんね』


「話を誇張しないで!」


『顔真っ赤にしちゃって。可愛いなー』


「それ以上茶化すなら追い返すよ!?」


『はいはい。今日はこのくらいにしてあげますよ』


「……そんなことより天海ルイだよ。せっかく売れっ子になれたのに病死なんて心苦しくなるね」


『ルイ、当時は毎日のようにテレビやラジオに出てたらしいですから。それに加え雑誌の取材、しまいにはドラマの画家役まで。かなり大変だったと思いますよ? 本業を疎かにせず芸能活動をするのは』


 天海ルイの絵を見ることのできるサイトへアクセスする。幻想的で美しい風景画ばかり並んでいた。水面に宝石が散りばめられた夕刻の海岸、ゴシック調の模様が刻まれた三日月の浮かぶ夜空など。どれも神々しく煌めいている。


『ジャンルは違えど、俺たちは創作人ですからね……。ルイは「制作途中の絵を完成させたい」とかの未練で幽霊になってるかも。どこかでばったり会えたらノートにサインしてもらわなくちゃ』


「春斗くんが持ってるノートとペン、天海ルイにも使えるの? 幽霊同士は接触OK?」


『少なくとも身体に触れることはできますよ。俺も気になって、声を掛けた幽霊と何度か握手してみましたから』


 話の区切りにスマホを置く。

 時刻は午後十時過ぎ。

 明日も朝から仕事のため、そろそろお風呂に入って寝る支度をしたい。春斗くんにはお引き取り願うことにした。


『そういえば、凛花さんって何の仕事してるんです?』


「……実はその……私、フリーターなんだよね。喫茶店でバイトしてるの」


『バイト?』


「大学時代、就活に失敗しちゃってね。当時バイトしてたカフェの店長が『勤務時間を増やせば社会保険にも入れる』と言うから、就職できるまでのつもりでお願いしたんだけど。結局バイトリーダーにもなって、そのままズルズルと……」


『今二十八と言ってたから、六年くらいフリーターってことですよね。何で言いにくそうにしたんです?』


「途中で就活やめてバイト生活だもん。甘えてるって思うでしょ?」


『何言ってるんですか。正社員だろうが派遣だろうがバイトだろうが、仕事は仕事。凛花さんが頑張ってることに違いないですよ』


 美麗な笑顔でそんなふうに言われると……。

 不覚にもワガママ王子にドキッとしてしまった。


『どこの喫茶店で働いてるんですか?』


「車で十分くらいのところにある《ルーチェ》っていうお店。キッチンを担当してる」


 開店時刻は午前七時。朝イチから出勤の日は六時半までにタイムカードを押さなければならない。


 春斗くんは『また来ます』と言い、ボディバッグを肩に掛けた。見送るつもりで私も腰を上げる。しかし、彼が向かったのは玄関でなく窓だった。


「どこに行くつもり?」


『窓をすり抜けてここを出るだけですよ。おやすみなさい』


 春斗くんは窓に向かってダイブした。

 私の部屋はアパートの二階。今まで幽霊と接してきた経験上、宙に浮いたりしないはずだ。彼の身体はあっという間に地面まで落下。しかし骨が折れることも痛みを感じることもないようで、足取り軽く遠ざかっていった。


 ……玄関から帰らず飛び降りた意図は分からないが。

 彼が厄介な訪問客であることに変わりない。




 土曜日は朝から《ルーチェ》でバイト、その後ジョギングというのがルーティーン。

 人と会うことは滅多にない。

 片手の指で足りる数しか友人がいないからだ。


 時々幽霊の相手をすることになってしまうため、変な人だと思われぬよう、なるべく目立たず大人しく――それが平穏な暮らしを守るために学んだ(すべ)とも言える。


 ランニングシューズを履いて外に出ると、冷たい風が頬を刺激した。アパートの傍にある空き地で簡単なウォームアップを行い、住宅街を駆け抜けて東公園を目指す。



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