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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹
【Case2】少女たちの記憶を繋ぐ
44/60

【13】



 スーパーの横を通り掛かったため駐車場に入り、隅の方へ駐車した。詩織ちゃんは依然、頭を押さえてうわ言を繰り返している。


『大丈夫?』という春斗くんの問い掛けにも応えることなく、詩織ちゃんは頭から手を下ろした。その表情は歪んでいる。歯を食いしばるようにして、左手で右手首を押さえていた。


『そこが痛むの? 俺に見せて?』


『……うん。でも、もう大丈夫だと思う』


 詩織ちゃんが左手を放す。

 隠れていた彼女の右手首を見た瞬間、鳥肌が立った。


 右手首が赤紫色に染まっている。

 アザだろうか。

 ロープで絞められていたかのような、毒々しい内出血の跡。


 ズキン、と自分の右手首に痛みが走った。

 焦りと不安で吐き気がしそうだ。

 詩織ちゃんの右手首に起きた異変と、私の右手首の痛み――連動しているのではないかという考えが脳裏を過る。


『どうしましょう凛花さん』


 春斗くんも焦った様子だが、どうすればいいのか分からない。そう答えるより先に、詩織ちゃんが『ほんとに大丈夫』と口にした。


『びっくりしたけど、もう平気だから。死んだときの苦しさに比べたら……このくらいどうってことないです』


 話を聞いているうちに、詩織ちゃんの手首からアザが消えてしまった。

 痕跡さえ見当たらない。

 一体何だったのか。


 ――いや、今のアザだけではない。

 何かが妙に引っ掛かる。

 重大なことを見落としているかのような、得体の知れない心の(つか)え。どうにも気味が悪い。


『ねぇ凛花さん』


 春斗くんの声で我に返る。

 目を向けると、彼は不安そうに眉を寄せていた。


『このまま記憶を取り戻すかもしれない行動を取り続けて大丈夫ですかね? 詩織ちゃん、体調を崩しやすくなってきてる気がするんですけど』


「そうだね……。那奈さんに話を聞くことが難しい以上、別の方向から調べるしかない。ひとまず離れた方がいいかも」


 しかし、あっさり諦めて帰るのはもったいないという気持ちは変わらない。何か良い案が浮かぶ可能性もあるため、少なくとも私はもう少し滞在して策を練りたいところだ。一旦春斗くんたちと別行動を取るか。


「春斗くんたちは先にアパートへ帰って。私は他にできることがないか考えてみる」


『分かりました。詩織ちゃんもそれでいいよね?』


 春斗くんが確認すると、彼女は首を横に振った。


『やっと自分の住んでた町が分かったのに、また知らない場所に行くなんて嫌です』


『まぁ俺と違って、詩織ちゃんは岡崎に何の縁もないもんね。心配はあるけど、やっぱり一緒に行動した方がいいかな?』


『あの、これからのことを考える前に……わたし、那奈に会いたいんです。捜してきてもいいですか?』


 次の行動について何の予定も立っていないため、詩織ちゃんの望むことをさせてあげよう。スーパーの駐車場を出て《さくら団地》へ針路を取った。再びマンションの群れが見えてくる。


 まだ那奈さんのお母さんたちが掃除しているかもしれない。不審に思われると困るため、少し離れた場所で車を一時停止させた。


 春斗くんは『一緒に行こうか?』と提案したが、二十年ぶりの再会なのだから外野はいない方がいいだろう。そう思い止めようとしたものの、詩織ちゃんの方から『一人で行きます』と答えた。『那奈がわたしに気付くかもしれないから』と。


 本当ならここで待っていてあげたいが、ずっと路上駐車しているわけにもいかない。一時間後迎えに来ると約束して離れることにした。


『気を付けてねー。那奈さんによろしく』


 親指を立ててグッドマークを作る春斗くん。詩織ちゃんは小さな声で『はい』と答え、車を降りた。彼女が団地内へ姿を消すのを見届け、私たちも出発。助手席に戻って来た春斗くんは、何か思案するように腕組みした。


『気になるのは詩織ちゃんの手首のアザですよねー。急にできて急に消えたけど』


「そう、それなんだけど。何か引っ掛かるんだよね」


『俺もですよ。三人揃って幻覚を見た、なんてことはないと思いますけど。気味が悪いですよね』


「それに限ったことじゃなくて、なんかこう……」


 自分でも何に違和感を覚えているのか説明することができず、口をつぐむ。運転しながら考えを巡らせるのは危険と判断し、先ほど駐車場を借りたスーパーへ行くことにした。



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