地下の骨董品店
翌日、アキラはいつものように資源管理システムの監視をしていた。しかし、彼の集中力は散漫になっていた。昨夜の夢が、彼の意識の奥底に引っかかっていたのだ。
「システム、非効率な情報検索を行なっている。注意せよ」
システムが警告を発する。アキラは慌てて検索履歴を消去した。彼が検索していたのは、「夢」「感情」「不確定性」といった、この世界ではタブーとされる言葉だった。
昼休憩中、アキラはいつもと違うルートを歩いていた。無意識のうちに、彼の足は、かつて「旧市街」と呼ばれていた地区へと向かっていた。最適化される前の、古い建物が残る場所だ。
ひっそりとした路地裏に、一軒の奇妙な店があった。
店の看板には、「古物商 タイムワープ堂」と書かれている。
最適化された世界では、古いものは全て廃棄される。こんな店が残っていること自体、異常だった。
好奇心に駆られ、アキラは店のドアを開けた。
店内は、埃っぽい匂いと、様々な古い物の匂いが混じり合っていた。
棚には、ガラクタとしか思えない物が所狭しと並べられている。
古びた本、錆びついた機械、色褪せた絵画。
「いらっしゃい」
店の奥から、白髪の老人が現れた。
老人は、最適化プログラムを受けていない「ナチュラル」と呼ばれる人々だった。彼らは、社会の片隅でひっそりと暮らしている。
「何かお探しですか?」
老人の声は、システムのような無機質さとは違い、温かみがあった。
アキラは言葉に詰まった。何を求めているのか、自分でもわからなかったからだ。
「いえ、その、ただ…」
彼の視線は、店の隅に置かれた箱に吸い寄せられた。
箱の中には、見たことのない「ボード」と、たくさんの小さな「駒」が収められている。
「これは、何ですか?」
アキラが尋ねると、老人の顔に、ふっと優しい笑みが浮かんだ。
「それは、昔の人間が遊んでいた「ゲーム」だよ。この世界が最適化される前のね」
「ゲーム…?」
アキラは首を傾げた。この世界のゲームは、全てが完璧なシミュレーションゲームだ。勝敗は最初から計算されており、運の要素は一切ない。
「これはね、サイコロを振って、コマを進めるんだ。何が出るかは、誰にもわからない。運任せさ」
老人が手に取ったのは、六面に点が打たれた小さな立方体だった。
「運…?」
アキラの心に、昨夜の夢の残滓が蘇った。不確定性。偶然性。
「やってみますか?」
老人の言葉に、アキラはなぜか強く惹きつけられた。
彼はその「ゲーム」を買い取った。
店を出ると、冷たい風が吹いていた。しかし、アキラの胸の中には、温かい火が灯っていた。
それは、彼が初めて抱いた「衝動」だった。
==========================================
リスタート戦記:記憶喪失の俺と少女の手帳 連載中です!
https://ncode.syosetu.com/n7153ko/
===========================================