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そんな未来


「――見事だ」


 王女殿下の研究室を辞去したあと。前を進むリチャードが振り返りもせずにウィリアムを褒め称えた。


「殿下の満足する返答をしたことももちろんだが……。わずか9歳で貧民救済のための事業を始める。これで殿下の名声はさらに高まることだろう」


「光栄です」


「これでまた『女王陛下』に一歩近づいたな」


「……やはり父上は王女殿下を『次』にすると?」


「当たり前だ」


「しかし、殿下は攻撃魔法を使えないのでは?」


「――くだらん。あの才を見ただろう? あの御方が国王にならずして、一体誰が国王になるというのだ?」


「ですが……」


「攻撃魔法など、戦場で一度使えばあとは数ヶ月魔力が溜まるのを待たなければならん。そんな悠長なことをしていれば、我らは横腹を『白銀』に食い破られるわ」


「…………」


 白銀。

 その突破力と機動力で、大陸中を恐怖に叩き込んでいる騎馬隊。ヴァロワンヌ朝ガリアス王国の切り札。一度敵に回れば、我が国も大陸の拠点を失いかねない強敵である。


 だが。ガリアス王国とは長年同盟を結んでおり、『白銀』が敵に回ることはないだろう。それを指摘しようとしたウィリアムであるが……やめた。そんなこと、宰相であるリチャードが理解していないはずがないし、理解していながらも最悪の可能性を考えているのだろう。


 しかし、いくら一度使ったらしばらく打ち止めとはいえ、国王クラスの攻撃魔法は文字通り戦場をひっくり返すだけの威力がある。それを「くだらん」と切り捨てるとは、なんとも剛胆な思考であることか……。


 感心するやら呆れるやら。そんな自分の息子からの評価を知る由もないリチャードはどこか上機嫌に見える。


「殿下もずいぶんとお前のことを気に入ったようだ。これで問題なく家庭教師としてお側に(はべ)ることができるだろう」


 家庭教師として、お側に侍る。なんとも奇妙な表現だが、的を射ていた。あのような人物に対して教えられることなど何もないだろう。意見を求められたときに助言するならともかく……。


 今のうちから側近候補として側にいては、王子派閥からの余計な注目を集めよう。もちろん家庭教師として王女の元に通うことも十分注目を集めるのだが、最初から側近候補となるよりはずいぶんマシであるはず。


 ウィリアムが王女殿下に気に入られたからこそ可能になった道筋。

 しかし、思い返してみれば不自然なところもある。

 先ほどはリチャードが不十分な回答をし、それに満足しなかった王女殿下がウィリアムに意見を求めたという流れだった。


 あのときは殿下の見た目や予想外の優秀さに混乱し、冷静さを失っていたので疑問に思わなかったが……あの父上が、あのような穴の多い意見を献策するものなのだろうか?


 もしかしたら。

 ウィリアムを家庭教師として――側近候補として送り込むために、わざと不出来な回答をしたのではないだろうか?


 そして。これはウィリアムも不思議な感覚なのだが……王女殿下も、それが分かっていた(・・・・・・・・・)ような気さえする。あの青い瞳をした殿下であれば……。


 …………。


 意を決して、ウィリアムはリチャードに問いかけた。


「失礼を承知で伺いますが、王女殿下は本当に9歳なのでしょうか?」


「少なくとも、9年前にお生まれになったことは事実だ」


 その口ぶり。リチャードもただの9歳児であるとは信じていないのだろう。


「普通の9歳を超えた知識と、聡明さ。なによりあの見た目は……エルフ族の先祖返りというものでしょうか?」


「分からんし、どうでもいい。重要なのは王女殿下が『女王』としての資質を有しておられるということだ。――女王に相応しい才があるのならば、我らがそこまで担ぎ上げればいい」


「……はは、真にその通りで」


「殿下の優秀さは身にしみて分かっただろう? 下手を打てば容赦なく切り捨てられよう。これからのますますの努力を期待する」


「はっ、委細承知いたしました」


 振り返りもしない父親に対して、その場で立ち止まり深々と頭を下げるウィリアムであった。


 彼の胸中にあるのは父親を満足させることができた安心感――ではなく、あの王女殿下に仕えることができるという喜びであった。


 女王として玉座に座るエリザベス。


 彼女の聡明さであればまず間違いなく賢王として歴史に名を残すだろう。長く、長く、彼女の偉業は語り継がれるはずだ。この国が滅ぶまで……。いいや、たとえ滅んだあとも、人類の歴史の1ページとして。


 そして。そんな女王陛下(グロリアス)のお側に侍り、支え、名宰相として歴史に名を残すウィリアム。


 そんな未来を幻視した彼は――全身に歓喜の震えが走ったのだった。




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