0匹目
プロローグ
「・・ク」
何か声が聞こえる…
「おい、・・ク」
誰か呼んでるのか?
「おい、島 大空」
「はいっ、起きてますっ!」
振り向きながら目を合わせるとそこには中野部長が居た。
「大空、お前仕事中も釣りしてるときぐらいしっかりしろよ!」
「はいっ、すんません…」
中野部長は俺の釣り仲間でたまにだが一緒に釣りをしている。
うちの会社はそこそこ大手の製造業で、俺はその試作部門に属している。主な仕事は車部品の塗装とその日程計画だ。
「今日納期の塗装作業は終わったか?」
「今日納期の塗装ありましたっけ?」
「お前…自分で計画して納期指定してたろ?明日の朝一発送だから今日中に終わらせないとあかんぞ」
「うわっ、すんませんすぐやりますっ!」
明日は有休で釣りに行くから準備で定時にあがる予定だったが、残業が確定してしまった。
「お疲れ様でーすっ」
なんとか急いで夜9時には会社を出る事が出来たが、明日の釣りは明石に向かい船に乗ってタコを釣る。出船予定時間は朝5時で釣り場への移動にも2時間は掛かる。家は職場近くで通勤は車で10分だが…
「寝る時間が足りねーな」
「とりあえず準備して現地まで行って車で寝るか」
家に帰った俺は、使用するロッドとリールとタックルボックスを車に詰め込む。車は軽ワゴンでロッドホルダーが付いており、ロッドはロッドホルダーに挿してリールはロッドに付けてある。タックルボックスは助手席に載せる。車の後部が全面ベッドとなっており、ベッド下は収納スペースとなっている。現在7月で暑いが、寝るのに必要なクーラーとバッテリーは搭載されている。その為、車中泊も楽勝である。
家を11時に出発し、会社帰りにコンビニで買ったおにぎりを食べながら目的地へと向かう。
「よし、着いたし出船までまだ時間があるから早く寝よう」
夜遅くの為、道が空いており少し早く着いたのでしっかり寝れそうだ…。
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「もう朝か?」
車のカーテンを開ける。
「ん?」
「あれ…」
海があるが色が違う。
普段見る海からかけ離れた、沖縄で見るような透き通った色をしている。
「何処だここ?」
急いで外に出る。
低い崖の上に車が止まっており、海と反対側を見渡したらコンクリートも無い自然豊かな景色が広がっていた。