情報収集2
「こいつ、堅気じゃないですね・・・」吉村のほうに顔を向け、小声で言った。
「そんな感じだなあ」と、わざと全く方向違いの青い空を見上げながら誰にともなく吉村が言った。
吉村は缶コーヒーをすすり、小島はゆっくりとタバコを吹かしながらお互いに話すのをやめ、その若者に注意をはらった。
若者はタバコに火をつけたところで、待っていたかのように掛かってきた携帯電話を取り出し、話し始めた。
見たところ、体格は185~6センチ位で何かスポーツをしていたのか、かなりガッシリしている。 髪は所謂、茶髪で短めに小ざっぱりとしている。 着ているものは「リスペクト」の白と黒のブルゾンに「ドルチエ&ガッパーナー」のジーンズ。 携帯を持つ左腕には「フランクミューラー」と思しき腕時計が光る。右脇に抱えているのは集金用なのか「ルイヴィトン」の黒の「エピレザー・ドラゴン」
尻のポケットにはお約束の白の「ダミエ」が収まっていた。
「どんだけ金持ってんだ、このガキは・・・」と小島がふて腐れ気味に吐き捨てた。
「オッケー。じゃあ、喫煙場所で待ってるからヨロシク」と言って電話を切った。
どうやら誰かが来るらしい。 と、周りが気になりだしたのか、その若者は吉村と小島たちの方をきょろきょろと見だした。 二人はそ知らぬ顔でタバコを吹かしながら黙殺した。
おそらく、この男に間違いないと確証を持ったが、いきなり話しかけるのもわざとらしく思え、待ち合わせの相手を見てから接触の方法を考えることにした。
「早くメシ食いに行きましょうよ」と状況を知らない小島が言い出した。
吉村は小島が居ては拙いと思ったが、追い返すわけに行かず、かと言ってこの場を立ち去ると待ち合わせの相手を確認できないことに苛立った。
焦っても仕方ないか。 吉村はその場を動いたが、なるべく状況が見えるところで食事をしようと付近の建物でガラス張りの店を探してみた。
周りを見渡したが、ショッピングに関する店が多く、食事の出来るようなところが見当たらなかった。
吉村がチっと舌打ちしかかったところに、若者の待ち合わせ相手と思しき男が現れた。
小走りに近づくと愛想笑を浮かべながら話しかけてきた。
「すいません。待ちました?」
やってきた相手はどう見ても高校生だった。真面目な学生とは言えないまでも今時の普通の高校生だ。
「これ、ウチの分です」と言って肩から掛けたメッセンジャーバッグから紙袋を取り出し若者に渡した。
明らかに金が入っている感じだが、百万単位の札束というような厚みはなく。せいぜい十万か二十万程度の額だろう。
それでも、高校生ほどの年齢の少年が軽々しく扱える金額ではない。 しかも、この高校生が口走った「ウチの分」という言葉に酷く違和感を持った。
「何してるんですか?飯、行かないんですか?」と小島が苛立ちながら言ってきた。
これ以上は無理だと判断した吉村は、小島と共にその場を離れた。
吉村は、この分なら明日も間違いなく現れそうだなと実感した。