情報収集 1
江戸川区、江東区で女子高生の買春事件があった。 補導されたのは何れも女子高生だった。
「出会い系サイト」を使った遊ぶ金欲しさによるものだったが、そこまでなら今の世間ではよくある話だった。 しかし、今回の場合は少しばかり違っていた。
程なくして新宿、渋谷でも女子高生の買春事件が起きたのだが、問題なのは、それまでの補導された女子高生達との関連性だった。
ルポライターの吉村は、柏駅前の広い歩道橋ともいえるような広場の一角にある「喫煙コーナー」に居た。 ここで「不特定多数の人間から頻繁に現金を受け取っている男がいる」という情報を得て来てみたのだった。 しかも、不特定多数の人間というのが、年恰好から見ても殆どが高校生だというものだった。
「もう昼過ぎか、腹が減ったな・・・」とタバコに火をつけた。 フィルター部分にミントカプセルが入っており、それを指で潰すことでメンソールに味が変わるタイプのタバコで、気分転換には丁度いい強さの刺激だった。
天気は良いが、さすがに11月ともなれば風が冷たくなり、ジャケットだけでは肌寒さを感じた。 忙しなく一本目を吸い終わると「喫煙コーナー」に来る前に買っておいた暖かい缶コーヒーのプルタブを開けて、二本目のタバコを取り出し火をつけた。
「今日はムリだったかな・・・」と吐息まじりに呟いていると、後ろから右肩をポンと叩いて話しかけて来る者がいた。
「何してるんですか?こんなところで」
「おう!ビックリした、お前こそ柏なんかで何してるんだよ!」
話しかけてきたのは吉村の後輩で小島裕明という男だった。
「自分は柏にも店を出店しようかと思ってマーケティングを兼ねた物件探しに来たんですよ。そしたら吉村さんが居るから驚きましたよ」と言いながら笑顔で手提げ鞄からタバコを取り出し火をつけた。
「丁度良かった、それなら、まだだったら飯でも食わないか?」
「いいですね、自分も食事はまだなんですよ。それじゃあ一服し終わったら何か食べに行きましょう」と、にこにこしながら忙しなくタバコを吸い始めた。
「松戸の店は忙しいのかい?」と吉村が訊くと、小島はニコリと笑いながら肯いた。
「儲かってなきゃ、支店を出そうなんて思うわけないじゃないですか」と、笑いながら余裕の表情で言った。
小島裕明、26歳。 今でこそ立派に新松戸で美容室を経営しているが、以前は東京下町から千葉県北西部をテリトリーとする暴走族「グレード1」のリーダーだった。
その小島が先輩と呼ぶ吉村裕二は小島より四つ年上の30歳で、「グレード1」の初代リーダーだった。 その名前は「阿修羅の裕二」という異名で名を馳せ、関東一円の暴走族から畏怖されていた。
二人が話しているところに、ふらりと独特の「匂い」を感じさせる若者が近づいて来た。「匂い」とは所謂、不良の持つ独特の空気だ。それを吉村と小島の細胞が瞬時に見抜いた。