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英傑物語  作者: しろ組


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九二、定員オーバー

九二、定員オーバー


 アマガー達は、錬金術部の入口へ戻った。

「おお! これが、黄龍(イエロードラゴン)かっ!」と、学長が、歓喜の声を発しながら、キーちゃんへ歩み寄った。

 キーちゃんが、身構えるなり、「キーッ! キーッ!」と、威嚇を始めた。

「それ以上は、近付いちゃ駄目よ!」と、ウェドネスが、警告した。そして、「初対面だと、尚更よ!」と、言葉を続けた。

「僕の時は、あんまり、警戒していませんでしたねぇ」と、アマガーは、口にした。自分の時には、威嚇する反応をして居なかったからだ。

「多分、キーちゃんの好物を持って居たからよ」と、ウェドネスが、しれっと言った。

「確かに、手ぶらで近寄ろうとは、少々、礼を欠いて居ったのう」と、学長が、歩を止めるなり、理解を示した。そして、「アマガーよ、ほれ」と、学長が、背を向けたままで、後ろ手に、右手を伸ばしながら、要求した。

「はて?」と、アマガーは、小首を傾いだ。何を所望(しょもう)しているのか、さっぱりだからだ。

「先刻、食事をしたばっかりだから、黄鉄は、受け付けないと思うわよ」と、ウェドネスが、冴えない表情で、告げた。

「む…」と、学長は、押し黙った。

「あたしが、宥めてあげるわね」と、ウェドネスが、歩を進めた。そして、「キーちゃん、大丈夫よ。あんたに危害を加えないから、安心して」と、穏やかに言った。

 キーちゃんも、呼応するように、頭を下げて、鼻を鳴らした。

「大したもんじゃな。黄龍の警戒心を、あっさり解いてしまうとはな」と、学長が、感心した。そして、振り返り、「お前は、黄龍に乗って、何処へ向かうつもりなんじゃ?」と、アマガーへ、問い掛けた。

「世界魔術師組合の図書室へ、これから向かおうかと…」と、アマガーは、返答した。かなりの時間を無駄にしたので、すぐにでも、出発したいからだ。

「ここの図書室も、それなりに有るぞ」と、学長が、誇らしげに言った。

「けれど、邪魔が多くて、落ち着きません!」と、アマガーは、語気を荒らげた。副学長の邪魔が、気になるからだ。

「確かに、あやつは、ここの学長の(いす)の事以外に、考えておらん暇な奴じゃからのう。世界魔術師組合へ行った方が、有意義かも知れんのう」と、学長も、頷いた。そして、「但し、わしも、同行させよ」と、条件を提示した。

「定員オーバーよ!」と、ウェドネスが、口を挟んだ。

「だ、そうです…」と、アマガーは、眉根を寄せた。自分では、どうにもならないからだ。

「でしたら、私は残りますわ」と、汀雅が、辞退した。

「おいおい。今回は、助手の君が居ないと困るんだがなぁ〜」と、アマガーは、口にした。汀雅が居てくれると、作業に集中出来るからだ。

「何を言う! この黄龍の体格なら、直接行けなくとも、休憩を挟んでなら、行けるじゃろう?」と、学長が、ウェドネスへ、目配せをした。

「ええ」と、ウェドネスも、小さく頷いた。そして、「でも、背中に乗れるのは、三人までよ」と、補足した。

「じゃあ、背中に乗れるのは、僕とウェドネス君と汀雅君だね」と、アマガーは、しれっと言った。自分が抜ければ、用件を満たせられないからだ。

「は? 聞き間違いかのう?」と、学長が、右の兎耳に、右手を当てながら、威圧した。

「ははは…。が、学長を忘れて居ました…」と、アマガーは、表情を強張らせながら、訂正した。学長には、逆らえないからだ。そして、「ウェドネスさんが、“定員オーバー”と申されている以上、二人は乗れないって事ですよね…」と、眉根を寄せた。他に、乗れるような所は、見当たらないからだ。

「そこのところは、どうなんじゃ?」と、学長が、ウェドネスを見やった。

「背中に、五人は無理だけど、二人を“荷物”としてなら、行けるわよ」と、ウェドネスが、回答した。

「だそうじゃ」と、学長が、満面の笑みを浮かべた。そして、「二人は、確定しておるがのう」と、示唆した。

「わ、私ですね」と、汀雅が、溜め息を吐いた。

「何を申しておる! まさかとは思うが、か弱い乙女(おとめ)を、“荷物”として扱うような(やつ)は、居らんと思うがのう」と、学長が、白々しく言った。

「まあ、俺は、背中に乗せて貰えねぇってのは、はっきりしているだろうけどな」と、強面のブヒヒ族の門番が、口にした。

「つまり、僕が、お荷物になれって事ですね」と、アマガーは、冴えない表情で、言った。それ以外に、考えられないからだ。

「正解じゃ!」と、学長が、告げた。

「学長。教授に、もしもの事が有ったら…」と、汀雅が、言葉を詰まらせた。

「お主が、引き継げば良いじゃろう」と、学長が、冷ややかに、即答した。

「汀雅君。学長に意見しても、無駄だよ」と、アマガーは、頭を振った。一度決めたら、変える事など無いからだ。

「はあ…」と、汀雅が、生返事をした。

「まあ、そう言う事じゃ」と、学長が、目を細めた。

「で、ウェドネス君。荷物扱いとなると、どういう体勢になるのかな?」と、アマガーは、尋ねた。目的地まで、どんな扱いにさせられるのか、気になるからだ。

「まあ、キーちゃんの両足に、荷物を持たせて居たから、多分、今回も、そうするつもりよ」と、ウェドネスが、回答した。

「なるほどね」と、アマガーは、キーちゃんの足下を見やり、納得した。大きさからして、十分、広そうだからだ。

「へ、まさか、黄龍に乗れるなんてな」と、強面のブヒヒ族の門番も、口元を綻ばせた。

 そこへ、「そこの黄龍の所有者! 違法駐竜で、同行を求める!」と、右側の道から、声がした。

 間も無く、両側の道から、警備兵達が、迫って来た。

「キーちゃん、出発するわよ! 二人も、早く乗って!」と、ウェドネスが、()かした。

「学長! 我々の事は気にしないで、目的地へ向かって下さい!」と、アマガーは、口にした。三人さえ離脱出来れば、構わないからだ。

「ちっ! 空の旅は、お預けだな」と、強面のブヒヒ族の門番も、ぼやいた。

「教授、私も!」と、汀雅が、申し出た。

「お主まで降りられると、ややこしくなる! それに、あやつが、時間を稼いでくれるんじゃ。その行為を無駄にするな!」と、学長が、言い含めた。

「でも…」と、汀雅が、口ごもった。

「汀雅君。僕は、時間を稼ぐ事しか出来ん! だから、早く逃げてくれ!」と、アマガーは、促した。すでに、覚悟は出来ているからだ。

「教授、すみません…」と、汀雅が、詫びた。

「キーちゃん、飛んで!」と、ウェドネスが、指示した。

「キー!」と、キーちゃんが、即答した。そして、羽ばたき始めた。程無くして、三人と共に、瞬く間に、上空へ離脱した。

「大人しく投降しろ!」と、右側の警備兵が、刺股(さすまた)を構えながら、近付いて来た。

「へいへい。逆らいませんよ」と、強面のブヒヒ族の門番が、返答した。

「そうだね。目的を果たしたんだから、僕も無駄な抵抗はしないよ」と、アマガーも、応じた。暴れたところで、痛い目に遭うだけだからだ。

 そこへ、右側の警備兵の背後から、オサーク副学長が、現れるなり、「まさか、学長を“誘拐(ゆうかい)”する“算段”だったとはな…」と、満面の笑みで、告げた。

「おいおい。とんだ言い掛かりだな!」と、強面のブヒヒ族の門番が、語気を荒らげた。

「ほう。下等種族の分際で、口答えするとは…!」と、オサークが、威圧した。

「副学長。何を根拠に、“誘拐”と申されるのですか?」と、アマガーは、問い掛けた。手際が、良過ぎるからだ。

「ここに居る者達が、証人だ! 黄龍へ、学長を無理矢理乗せた現場を“目撃”して居るんだからな」と、オサークが、得意満面で、理由を述べた。

「ちょっと待て! 俺は、“違法駐竜”って聞いたぞ!」と、強面のブヒヒ族の門番が、異を唱えた。

「確かに、僕も、違法駐竜と聞きました」と、アマガーも、同調した。学長は、自らの意思で、黄龍に乗ったのだから、“誘拐”ではないからだ。

「はっはっは! 下等種族が、何を申そうと、“人間”である、わしの言葉の方が正しいのだよ! 誘拐だろうと何だろうと、関係無い! お前達は、生まれながらの“罪人”なんだよ! 罪を被って貰うまでだよ!」と、オサークが、踏ん反り返って、語った。

「これは、何ともなりませんねぇ」と、アマガーは、嘆息した。お先真っ暗だからだ。

「おい! あっさり諦めてんじゃねぇ! あんた、俺よりかは、頭が良いだろうから、考えろよ!」と、強面のブヒヒ族の門番が、怒鳴った。

「ですね…」と、アマガーは、気を持ち直した。不当な事を、受け入れる訳にはいかないからだ。そして、「とにかく、研究所へ入りましょう!」と、提案した。何かしらの使えそうな物が、有るかも知れないからだ。

「そ、そうだな!」と、強面のブヒヒ族の門番も、同調した。

 次の瞬間、「あ…!」と、アマガーは、はっとなった。鍵は、汀雅に預けたままだからだ。そして、「ここは、大人しく捕まりましょう…」と、口にした。中に入れないのなら、どうしようもないからだ。

「あのなぁ〜」と、強面のブヒヒ族の門番も、やり切れない面持ちとなった。

「申し訳ない…」と、アマガーは、陳謝した。研究所の管理を、汀雅に、全て一任している事を、すっかり忘れていたからだ。

 その直後、「教授ぅ〜! 両手を上げて下さぁ~い!」と、汀雅の声が、左の通路の方から聞こえた。

「おや? 汀雅君の声が…」と、アマガーは、苦笑した。幻聴(げんちょう)でも聞こえているのかと、思ったからだ。

「おい! 学長達が、戻って来たぞ!」と、強面のブヒヒ族の門番が、興奮気味に、左手で上の方を指しながら、告げた。

 その瞬間、「何だってぇ!」と、アマガーは、素っ頓狂な声を発した。そして、左側の通路の上空を見やった。程無くして、キーちゃんが、滑空しながら、迫って来るのを視認した。

 その直後、「何で、また、戻って来るんだ?」と、オサークが、狼狽えた。

 少し後れて、他の警備兵達も、怯んだ。

 間も無く、キーちゃんが、頭上まで来た。

「今だっ!」と、アマガーは、跳躍した。

 同時に、強面のブヒヒ族の門番も、跳び上がった。

 二人は、旨い具合に、キーちゃんの右足の指へ摑まる事に成功した。

「キーちゃん、上昇よ!」と、ウェドネスが、指示した。

「キー!」と、キーちゃんが、即答した。そして、勢いそのままに、高度を上げた。しばらくして、オサーク達を見分けられない高さまで離脱した。

「う、腕が、そろそろ…」と、アマガーは、口にした。そろそろ、疲れて来たからだ。

「やれやれ。せっかく助けても、ここで落ちられちゃあ、助けた意味が無いのう」と、学長が、冷やかした。

「ちげぇねぇ!」と、強面のブヒヒ族の門番も、相槌を打った。

「このままですと、教授、本当に落ちちゃいますよ」と、汀雅が、苦言を呈した。

「そうじゃのう。また、拾いに行くのも面倒じゃから、適当な場所へ行くとしよう」と、学長が、口にした。

「だったら、少し行った先の牧場で、どうでしょうか?」と、アマガーは、必死の形相で、提言した。キーちゃんが、降りられるのに、十分な広さだからだ。

 間も無く、キーちゃんが、北へ、針路を取るのだった。

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