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英傑物語  作者: しろ組


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八〇、追跡! トロッコ・ターボ

八〇、追跡! トロッコ・ターボ


 茶装束の忍者は、城壁の(へり)から、小道の手前の繁みへ、飛び下りた。その直後、「うぎゃ!」と、声を発した。着地の際に、右足首を捻挫(ねんざ)してしまったからだ。そして、びっこを引いて、繁みを掻き分けながら、進んだ。しばらくして、一台の木製の手押し車(トロッコ)に、辿り着いた。

 その瞬間、茶竜の集団が、頭上を通り抜けた。

「この手押し車で、追跡するでごぢゃる」と、茶装束の忍者は、体勢を崩しながら、何とか、乗り込んだ。そして、席に着くなり、「う〜ん。どうでごぢゃったかな…?」と、眉間に皺を寄せた。運転方法を、ど忘れしたからだ。

 そこへ、「ぢゃぢゃ丸、生きて居たか!」と、陽気な男性の声がして来た。

 少し後れて、「へっぽこ忍者。待ちくたびれたぞ」と、別の男の声もした。

 ぢゃぢゃ丸は振り返って、捻り鉢巻をした男と気難しい顔をしたウキキ族の男を視認するなり、「(ぽん)さん! (もん)さん!」と、安堵した。この二人から、運転方法を聞けば良いからだ。

「お前、それに乗って、逃げようってんじゃねぇだろうな?」と、捻り鉢巻の男が、凄んだ。

「い、いえ。今から、茶竜を尾行(びこう)しようと思いまして…」と、ぢゃぢゃ丸は、理由を述べた。逃げる気など、更々(さらさら)無いからだ。

「しかし、試運転もしていないから、途中で、止まるかも知れんぞ」と、気難しい顔のウキキ族の男が、口にした。

「確かに、わしも、今回ばかりは、自信が無いな」と、捻り鉢巻をした陽気な男性も、自信無さげに、補足した。

「行ける所まで、行ってみれば良いでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、あっけらかんと言った。動かなくなったら、別の手を使うまでの事だからだ。

「そうだな。失敗を恐れていては、何も出来んな」と、気難しい顔のウキキ族の男も、同意した。

「へ、王都をあっさりと占領(せんりょう)されちまったから、気弱になっちまったぜ」と、捻り鉢巻の陽気な男性も、気を取り直した。

「そうでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、頷いた。手押し車は、デヘルの動向を探り、次の行動へ活かす為の物だからだ。

「面白い事になりそうじゃねぇか。俺らの物が、役に立とうとしているのだからよ!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、上気した。

「そうだな。わしとあんたの造った物で、連中に、一泡(ひとあわ)吹かせる事にでもなれば、末代までの語りぐさになるかもな」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、口元を綻ばせた。

「はいはい。それは、結果を出してから言う台詞(せりふ)でごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、指摘した。現時点では、空論でしかないからだ。

「そりゃそうだ」と、捻り鉢巻の陽気な男性も、あっけらかんと同調した。

「へっぽこ忍者に、正論を吐かれるとは、不覚じゃな」と、気難しい顔のウキキ族の男が、苦笑した。

「へっぽこは、余計でごぢゃる!」と、ぢゃぢゃ丸は、すかさず、抗議(こうぎ)した。一応、忍者(しのび)としての(たしな)みは、持ち合わせているからだ。

「まあ、そういう事にしといてやろう」と、気難しい顔のウキキの男が、上から目線で、口にした。

「何か、腹立つでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、睨み付けた。見下されているのが、気に食わないからだ。

「まあまあ」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、仲裁に入った。

「そうでごぢゃるな。拙者は、悶殿とは、言い争っている余裕は無いでごぢゃる。それよりも、早く、動かす方法を、教えて欲しいでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、偉そうに、要請した。今は、茶竜の尾行が、最優先だからだ。

「んだと!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、憤った。そして、「てめえ! それが、他人(ひと)に、物を頼む態度かっ!」と、怒鳴った。

「悶殿。今は、非常事態でごぢゃる。茶竜を見失っては、ルセフ様に、申し訳が立たないでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、苦言を呈した。態度の良し()しよりも、一刻も早く、茶竜を追い掛けたいからだ。

「悶さん。ぢゃぢゃ丸の言う通り、茶竜を追うのを優先しようぜ」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、支持した。

「ぐっ…!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、歯嚙みした。そして、「椪さんに免じて、てめえの言う通りに、してやらあ!」と、ぶっきらぼうに、告げた。

「かたじけないでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、詫びた。言い争っている間にも、離される一方だからだ。

「てめえ、見失ったら、承知しねぇぞ!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、威圧した。

「それは、この手押し車の能力次第でごぢゃるよ…」と、ぢゃぢゃ丸は、苦笑した。成功も、失敗も、自分の所為にされても困るからだ。

「そうだな。でも、両方が合わさらないと、手押し車も、ぢゃぢゃ丸も、良い仕事は出来んだろうな」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、指摘した。

「そ、そうでごぢゃるな。椪さんの言う通り、悶殿が、完璧に仕上げても、拙者の失敗(ヘマ)で、台無しにしてしまう事になるでごぢゃるからな」と、ぢゃぢゃ丸は、理解を示した。独り()がりでは、手押し車の性能を引き出せないからだ。

「まあ、御託(ごたく)は後にして、とっとと走らせやがれっ!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、急かした。

「そ、それが…」と、ぢゃぢゃ丸は、表情を曇らせた。そして、「操縦方法を忘れたでごぢゃる!」と、告白した。些か、絡繰系には、(うと)いからだ。

「てめえの手前に在る棒で、操作するんだよ」と、気難しい顔のウキキ族の男が、淡々と言った。

「こ、これでごぢゃるね」と、ぢゃぢゃは、右手を伸ばして、手前の棒を握った。

 その直後、「ちっと待てっ!」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、制した。そして、「俺達が乗るまで、待て!」と、言葉を続けた。

「そ、そうでござった…」と、ぢゃぢゃ丸は、はっとなった。危うく、発車するところだったからだ。

 間も無く、二人が、乗車した。

「では、出発するでごぢゃる!」と、ぢゃぢゃ丸は、操縦桿を押し倒した。

 次の瞬間、手押し車が、繁みを突っ切るなり、小道へ飛び出した。

「わっわっわぁーっ!」と、ぢゃぢゃ丸は、左へ倒した。驚きのあまり、方向感覚が、狂ってしまったからだ。

「お、おい! そっちは、天幕の在る方だぞ!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、怒鳴った。

「悶さん、今更言っても、遅いぜ。もうすぐ、天幕の前へ出ちまうからな」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、あっけらかんと言った。

「破れかぶれでごぢゃる!」と、ぢゃぢゃ丸も、開き直った。こうなれば、デヘル兵を一人でも、手押し車で、跳ねてやろうと思ったからだ。

 間も無く、手押し車が、運動場へ侵入した。そして、中ほどへ来た。

 その瞬間、天幕から、伝令の兵士が出て来るなり、「敵襲! 敵襲!」と、中へ向かって、応援の要請を始めた。

その間に、ぢゃぢゃ丸は、手押し車の操縦に、適応し始めて居た。

「天幕から、ぞろぞろと兵士共か、出て来てるなぁ〜」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、口にした。

「ぢゃぢゃ丸、天幕へ突っ込めるか?」と、気難しい顔のウキキ族の男が、尋ねた。

「何とか、操縦に慣れたから、行けると思うでごぢゃる」と、ぢゃぢゃ丸は、返答した。そして、「何か、考えでも有るでごぢゃるか?」と、問い返した。何かしらの策が有りそうだからだ。

「せっかくだから、その手押し車の強度を試そうと思ってな」と、気難しい顔のウキキ族の男が、考えを述べた。

「そいつは、面白そうだな。あの天幕と俺の仕立てた手押し車の車体と、どっちが強いか、楽しみだな!」と、捻り鉢巻の陽気な男性も、賛同した。

「滅茶苦茶でごぢゃるよ!」と、ぢゃぢゃ丸は、ドン引きした。自分達が造った物を、台無しにするような事を平然と言える心境が、理解出来ないからだ。そして、「こうなれば、突撃でごぢゃる!」と、意を決した。

 少しして、手押し車が、半周した所で、天幕の正面口の直線へ差し掛かった。

 その瞬間、「今でごぢゃる!」と、ぢゃぢゃ丸は、操縦桿を右へ倒した。

 その直後、手押し車が、独楽(こま)のように、数回転するなり、まっしぐらに、天幕の正面口へ向かった。

 その間に、デヘルの兵士達が、道を(ゆず)るように、左右へ避けた。

 間も無く、手押し車が、勢いそのままに、天幕へ突入した。そして、正面奥の柱にぶつかって、反転するなり、外へ出た。

 程無くして、「て、天幕は…?」と、ぢゃぢゃ丸は、我に返った。回転した後の記憶が無いからだ。

「ぢゃぢゃ丸。早々に、脱出だ!」と、気難しい顔のウキキ族の男が、指示した。

「ど、どっちへ向かえば、良いでごぢゃる?」と、ぢゃぢゃ丸は、問うた。何処へ向かえば良いのか、さっぱりだからだ。

「取り敢えず、右へ倒せ」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、告げた。

「承知!」と、ぢゃぢゃ丸は、操縦桿を右へ倒した。言われるがままに、するしかないからだ。

 間も無く、手押し車が、右へ曲がり、反転した。そして、場内を外周に沿って走行を始めた。

 程無くして、「て、天幕が、燃えているでごぢゃる! いつの間に…」と、ぢゃぢゃ丸が、目を見張った。天幕から火の手が上がっているのを視認したからだ。

「お前がやったんだよ」と、気難しい顔のウキキ族の男が、淡々と言った。

「そ、そうでごぢゃるか!?」と、ぢゃぢゃ丸は、素っ頓狂な声を発した。自覚が無いからだ。

「何だ? お前、覚えて居ないのか?」と、捻り鉢巻の陽気な男性が、溜め息を吐いた。

「はあ…」と、ぢゃぢゃ丸は、生返事をした。どうにも、実感が無いからだ。

 しばらくの後、手押し車が、元来た小道へ、進入するのだった。

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